モノマニア

田原摩耶

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イレギュラーは誰なのか

思わぬ再会

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 ついてくるというユッキーと一緒にどこ行こっかーとか言いながら、なんとなく向かった先は風紀室。
 別に用がある訳ではなかったが、たまに、というか暇になると無性にマコちゃんの顔を見たくなるのだ。
 そうだ、邪魔をするわけではない。ちょこーっとちらっと影からマコちゃんが頑張ってる姿を見るだけだ。
 そう、思いながらもやはり本人の姿を見つけると声をかけずにはいられなかった。悲しき俺の性。

 風紀室前廊下、そこには誰かと話しているマコちゃんがいた。

「あ、マコちゃん……」
「仙道、待て」

 そう、おーいと手を振ろうとした矢先だった。笑みを強ばらせたユッキーに、上げかけた手を掴まれる。
 険しいその横顔にびっくりして、どうしたのかと再度マコちゃんに視線を戻した俺はその奥にいる人物に気付き、目を見開いた。
 もじゃもじゃ頭に大きく口を開けて笑う特徴的な笑顔。
 顔の半分を隠す瓶底眼鏡。それは、先ほど書類に載っていた顔写真のままだった。
 ――ヒズミだ。

「は…?なんで、ヒズミとマコちゃんが…」

 全身から血の気が引いていく。
 隣にユッキーがいてくれたお陰か、いくらか冷静でいられたがそれでもやはり動揺せずにはいられなくて。
 自然と震え出す足。崩れ落ちそうになるのを堪えるよう咄嗟にユッキーの腕を掴めば、手を握られる。人肌っていうのは、どうも精神安定作用を持っているらしい。
 息を呑むように、俺はユッキーを見上げた。

「取り敢えず、見つかる前に行くぞ」
「っ、ユッキー…」

 腕を引っ張られ、今まで歩いてきた方へと引っ張られる。
 ――なんで、マコちゃんとヒズミが。
 ぐわんぐわんと頭痛とともに巡る疑問に頭はこんがらがって、よたつきながらもユッキーについていこうとしたときだった。

「キョウ?」

 背後から、聞きたくもない声が聞こえてくる。
 全身が、緊張した。バクバクとはち切れんばかりの勢いで脈を打つ心臓。背後から近付いてくる足音に、つい、振り返りそうになったとき。

「仙道」

 後頭部を優しく撫でられ、ユッキーに背中を押される。
 構うな。心配そうにこちらを見るユッキーの目はそういっていた。
 そして、押されるようにして俺が一歩足を踏み出したときだった。

「おい、日桷和馬!勝手にちょろちょろすんじゃねえ!」

 静まり返った廊下に響くけたたましい声。その声には聞き覚えがあった。
 風紀副委員長、石動千夏。
 ――ちーちゃんの、双子の弟。
 何気なく、引っ張られるように振り返れば、そこにはヒズミの首根っこを掴む石動千夏の姿があった。

「千夏っ!いってぇ、なんだよもう!話は終わったんだろ?!」
「終わってねえっつーの!勝手に終わらせんじゃねえよ!」

 そう顔をしかめる石動千夏はきゃんきゃん吼えるヒズミを強引に引き摺り、風紀室へと押し込める。扉が閉まってもヒズミたちの言い争う声は聞こえてきて、結局、絡まれることなく立ち去ったヒズミに内心ホッとした。


 そして風紀室の前を後にした俺とユッキー。
 その間も先程楽しそうに話していたヒズミとマコちゃんの姿が頭から離れず、ただただ混乱する。そんな俺の隣、不思議そうな顔をするユッキーは唸った。

「しっかし、なんだよ、あの格好。純たちに聞かなかったらまじで誰かわかんねえよ、あんなの」
「…」

 ユッキーがヒズミのことを言っているのはすぐにわかった。
 それは、俺にもわからない。わかろうとも思わないし、恐らくやつの思考回路を理解する日は来ないだろう。
 押し黙り、俯く俺に気付いたようだ。ハッとして、ユッキーは「あ、悪い」とつられるように謝罪した。そしてこちらを見る。

「大丈夫…なわけないか」
「ごめん、ちょっとビックリしちゃってさぁ…」

 安堵と不安の間で頭はこんがらがって、とにかくヒズミから逃れられたという事実に力が抜けそうだった。まだ震えが残った手をユッキーの腕に伸ばし、そのままぎゅっと裾を掴む。
 驚いたように、ユッキーがこちらを見下ろした。なんとなくバツが悪くて、ユッキーの顔を見ることはできなかった。

「…もう少しだけ、一緒にいて」

 仙道、とユッキーは呟く。こんなこと、ユッキー相手に頼んだことは初めてだ。
 なるべく、知り合いにはこんなところ見せたくなかったし、情けないお願いをするのも恥ずかしかった。だけど、今ここで一人にされたら多分俺は。
 そこまで考えた時、ぽんっと頭の上に手を置かれた。

「いちいち言わなくてもいいんだって、そーいうことは」

 そして、わしわしと髪をかき乱される。いつもと変わらない仕草、声に、ほっと全身の緊張が解けた。

「ん、ありがと。…先輩」

 それにしても、ユッキーはよく俺の頭撫でてくるけどそんなに俺の頭は撫で易い位置についてるのだろうか。
 確かにユッキーでかいけど。と、思いながら、そのままユッキーの腕をぎゅっと強く握り締めたときだった。

「京っ」

 廊下の奥から、聴き慣れた声がする。――マコちゃんだ。
 走って追いかけてきたのか、急いだ様子のマコちゃんがそこにはいた。

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