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5,道場にて
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一時間ほどして大地の家を出、道場へと向かった。
十一月に、東京道場が主催する天法院流の全国大会があるので、その練習をしなきゃいけない。海外の道場のお弟子さんもたくさん来るので、みっともない演武は見せられないからな。
天法院流の道場は師範位があれば誰でも開くことができるけど、師範位を取るのはとても難しい。技のすべてに精通してなきゃいけないし、三丹田(額、胸、腹部にある気が集合する霊的な器官)の力を使いこなせるのが最低限の条件だ。
俺は……実はまだ使いこなせない。呼吸による気の制御がうまくいかないんだ。本当は、一切の技の駆動源がこの内側からの力になってなきゃいけないんだけど。そうでないと、至近距離から強打したり、複数の人間をまとめて投げ飛ばしたり、そういう達人技は使えない。
急所攻めたり関節の逆をとったりして、痛みでコントロールするのは得意なんだけど、初伝の段階だ。
まあ、焦るなとは言われてるんだけど。
ともあれ、今回は海外勢も含めて15人の師範全員が集まるということだ。ふだんは、山にいる大先生も上京するとか。
今日は水曜日。治療院のほうは午後休診だから、若先生も、奥さんの美弥子さんも道場に出ている。
ただ俺が組む予定の寛ちゃんはどうかな?若先生と美弥子さんの一人息子なんだけど、宝部大学の医学部(三年生)なんで、実習やたらあって来れないことも多いんだ。
道場についたのは6時過ぎてた。道場の向かいにある駐車場にやたら車が停まっている。大会に向けて、普段あまり道場に来ない人たちも来てるようだ。
中に入ると、道場の真ん中あたりに人だかりができている。
ちょうど玄関に背を向ける形で美弥子さんが立っていた。色白で、凛とした感じのする美人だ。道着を着、長い髪をポニーテイルにしてる。
右脇に、ガッチリした体格のハゲたおじさんがいる。髪の毛は頭の周囲にしか残っていない。
巻上先生だ。
天法院流では数少ない師範位を持った人で、真城建設という会社の社長なので、皆「社長」と呼んでる。
隣に、長男で現場監督修行中の小太郎ちゃんや、部長の千葉さんたちがいる。小太郎ちゃんは指導員、千葉さんは副師範で、本社の一角に構える道場で指導している。
左脇に立っている長身イケメンは寛ちゃん(敷島寛志)。
顔が親父の若先生にそっくり。
杖術用の杖を持ち、腕組みして環の中を見つめてる。
お隣の、妖精みたいな金髪美女は、寛ちゃんの彼女のシルヴィだ。
背中に回した手に、護身術用の独鈷杵(法具、インド由来の武器)を持っている。
あと、齢が近いせいで、特に仲良くさせてもらってる祥馬や逸樹、ジュリアン、瑠美ちゃんたちもいた。
俺も二人の後ろから中を覗いてみた。
寛ちゃんが俺に気づいて目配せした。
寛ちゃんの目線の先を見ると、輪の中心に、道着を着た男女が相対している。
長身の男性は、若先生こと敷島蓮城先生。
天からつられたように、ピンと背筋が伸びている。
美弥子さんの夫で寛ちゃんの親父さん。俺の直接の師匠だ。
対する、小柄でコロッとしたおばさんは、雅子マンこと塚本雅春先生。
県南の清泉市で、敷島流の治療院と道場を経営している。もう70近いはずだが、シニア化粧品のCMに出てくるモデルさんみたいに、薔薇色ホッペにプリプリお肌の……婆ちゃんというと怒られるので、とりあえずおばさんと言っとく。
真ん中には、たぶん審判役のでかい外人さん――ジャン=ポール・オダン先生。
宝部大学で神話や宗教について教えてる大学教授。寛ちゃんの彼女で、同じ医学部の学生であるシルヴィや、北高生のジュリアンは、このオダン先生の長女と長男だ。
師匠、雅子マン、オダン先生、三人とも師範位を持つ実力者なんだ。
雅子マン(男みたいなので皆そう呼ぶ)は、県南に住んでいて、週末しか来ないので、水曜に来ているのは意外だった。大会の打ち合わせのためだとは思うけれど。
なんで師匠と「実戦(申し合わせなしのガチンコ )」することになったのかはわからない。
もう「始め」はかかっているのだろう。
ただ、どちらも動かない。
皆、黙って見ている。
誰も、何も言わない。
ただ、固唾をのんで、勝負の行方を見つめている。
動いた。
どちらが先に動いたのかはわからない。
審判役のオダン先生や、社長はわかるかもしれないが、俺にはわからなかった。
二人は、目まぐるしく動きながら、互いに雷法(打撃)を放った。
すべて人体に多数ある急所を狙ったもので、当たれば確実に悶絶する、手加減なしの攻撃だ。
相互が相互の打撃をさえぎり、更にさえぎるために接触した部位から、相手の体軸を支配して崩そうとする。
双方の丹田で灼熱する気が渦巻き、それが互いの内外で衝突する。
若先生が雅子マンの突きをさえぎり、その接触部位から一気に重心を落下させることで雅子マンの体軸を崩した。
雅子マンは逆らわず側転するような体制で宙を飛び、流れるように床に降り立った。
しかし、その前に着地点に向かって若先生が走っていた。
着地して、まだ安定しない(であろう)雅子マンを一気に倒そうとしているのだ。
若先生と着地した雅子マンが接触しようとする刹那、雅子マンの口から「むん!」という声にならない声が漏れた。
二人の間に、一瞬光のようなものが閃くのが見えたような気がした。
若先生が、接触寸前の雅子マンから逆に飛びのいた。
同時に、社長と美弥子さんが声にならない声を上げた。
俺も、なにか体の中を電気みたいなものが通り抜けるのを感じた。
「……!」
気合術だ。
雅子マンが若先生に気を放ったのだ。
そして、若先生も呼応して飛びのきながら気を放った。
双方の気が衝突して道場内を駆け巡り、霊的な閃光や電流として俺たちはそれを感じたんだ。
「やめ!」
オダン先生の声が聞こえた。
わあっという歓声が上がり、みんなドッと拍手した。
「いやー、良いもの見せてもらったよ」
社長が手を叩きながら言った。
美弥子さんも頬を紅潮させて興奮してるようだった。
「眼福つかまつりました」
オダン先生が嬉しそうに言った。
眼福とは「目の幸せ~見る喜び」みたいな意味だけど、オダン先生は、こういう古武士のようなの表現を好むんだ。
俺も天法院流の「実戦」見るのは、一昨年、若先生の師範位考査で、若先生と大先生のそれを見て以来だ。
若先生が雅子マンと笑顔で握手してる。
「蓮坊も(若先生の本名は蓮志)なんぼかやるようになったの。まあまあじゃ」
「まあまあですか?雅子さん、1回、風法極めましたよ(投げましたよの意)」
「あれは私がおまえに気合を当てるために誘導しとっんじゃ。戦略じゃよ、戦略」
「嘘だあ」
誰かが言って、それで皆、ドッと笑った。
俺も一緒になって笑ってた。
俺もいつか、彼らのところまで行きたいと願っている。
そのために、毎日稽古しているんだ。
実戦は、雅子マンの方からいたずら半分に仕掛けたようだ。
そういう茶目っ気のある人なんだ。
それからそれぞれの稽古に入っていった。
カンちゃんと俺は、杖術の型を全部やるのでその稽古だ。
天法院流は修験者という宗教家の護身用の武術が基本になっているので、メインの武器は、修験者が手にしていた金剛杖という杖になる。
その十二の型を一気にやる。
もちろん攻め手は寛ちゃんで、受けを取るのは俺だ。
寛ちゃんと杖をふるっていると、すぐ隣で女性たちの笑い声がした。
美弥子さんが指導している女子護身術の人たちだが、土日以外の平日、珍しく雅子マンがいるので指導を仰いでいるらしい。
雅子マンと話しているとみんな彼女のファンになる。
彼女は底抜けの明るさと慈愛の心、そして不思議な力があるんだ。
それは、出会った瞬間にその人の人生の輪郭を把握してしまうというものだ。
だから、自分しか知らないはずの過去の出来事をズバズバ言い当てられて、皆、驚愕してしまう。
雅子マンにはそれが具体的に見えるらしい。
そして、悩んでること、抱えてる問題も把握して、それに対するこれ以外ない答えをポンと出してくる。
そしてそれ以上に、包み込むような慈悲というか、愛情をもって接してくれるので、誰もが彼女に魅了されてしまうんだ。
雅子マンは毎週末、県南の清泉市からこの本部道場に県南の弟子たちと一緒に来て一泊するのが習慣だが、武術指導だけでなく、天法院流とはまったく関係ない人たちの人生相談に乗ることも多い。
俺と寛ちゃんの稽古が一段落したとき、珍しく雅子マンが俺に声をかけてきた。
「隼、今日おまえ、こう可愛い感じの男の子を助けただろ?」
雅子マンは、両手で丸い輪郭のようなものを描いた。
「は?やっぱわかりますか?」
いつものことなの、俺はさすがに驚かなくなった。
「わかるとも。隼とは深い御縁のある魂じゃの。できるだけ早く道場に連れておいで。その子は、下を向いてあれこれ考える前にまず身体を動かすことを覚えさせるんじゃ。そうすれば大きく変わるぞ」
俺もそう思う。
うつうつ悩むより、まず体を動かしたほうがいいときもある。
その中で、解決法が見つかることもあるからだ。
御縁ある魂というのは前世?からの縁とかそういうことらしい。
「ま、隼のように何も考えず体だけ動くのも困るがの」
そういって雅子マンは笑った。
いや、俺だって何も考えてないわけじゃないんだけどね。
前世――そういえば、大地の名を聞いたとき、遠くに白雪をいただく山々と大草原、そして人が何人か乗った馬の群れが見えた。
異様にはっきりした幻視で驚いた。
「大地」という名前からの連想かと思ったが、もしかしたら俺の前世?の記憶かもね。
その後、女性を襲う異常変質者役をやらされて、急所に肘打ちくらったり、足甲踏まれたり、龍法(関節技)かけられて投げ飛ばされたり、散々な目にあったよ。特にシルヴィには、独鈷杵でいいようにあしらわれ、何度も激痛体験させられた。
どうも大会当日も俺が異常変質者役らしい。お笑い担当というところか。
俺をさんざやっけた女性たちに、大地のおふくろさんの手作りクッキーをあげたら、大喜びしてた。レシピ聞かせろと言われたので、今度聞いとかなきゃな。
十一月に、東京道場が主催する天法院流の全国大会があるので、その練習をしなきゃいけない。海外の道場のお弟子さんもたくさん来るので、みっともない演武は見せられないからな。
天法院流の道場は師範位があれば誰でも開くことができるけど、師範位を取るのはとても難しい。技のすべてに精通してなきゃいけないし、三丹田(額、胸、腹部にある気が集合する霊的な器官)の力を使いこなせるのが最低限の条件だ。
俺は……実はまだ使いこなせない。呼吸による気の制御がうまくいかないんだ。本当は、一切の技の駆動源がこの内側からの力になってなきゃいけないんだけど。そうでないと、至近距離から強打したり、複数の人間をまとめて投げ飛ばしたり、そういう達人技は使えない。
急所攻めたり関節の逆をとったりして、痛みでコントロールするのは得意なんだけど、初伝の段階だ。
まあ、焦るなとは言われてるんだけど。
ともあれ、今回は海外勢も含めて15人の師範全員が集まるということだ。ふだんは、山にいる大先生も上京するとか。
今日は水曜日。治療院のほうは午後休診だから、若先生も、奥さんの美弥子さんも道場に出ている。
ただ俺が組む予定の寛ちゃんはどうかな?若先生と美弥子さんの一人息子なんだけど、宝部大学の医学部(三年生)なんで、実習やたらあって来れないことも多いんだ。
道場についたのは6時過ぎてた。道場の向かいにある駐車場にやたら車が停まっている。大会に向けて、普段あまり道場に来ない人たちも来てるようだ。
中に入ると、道場の真ん中あたりに人だかりができている。
ちょうど玄関に背を向ける形で美弥子さんが立っていた。色白で、凛とした感じのする美人だ。道着を着、長い髪をポニーテイルにしてる。
右脇に、ガッチリした体格のハゲたおじさんがいる。髪の毛は頭の周囲にしか残っていない。
巻上先生だ。
天法院流では数少ない師範位を持った人で、真城建設という会社の社長なので、皆「社長」と呼んでる。
隣に、長男で現場監督修行中の小太郎ちゃんや、部長の千葉さんたちがいる。小太郎ちゃんは指導員、千葉さんは副師範で、本社の一角に構える道場で指導している。
左脇に立っている長身イケメンは寛ちゃん(敷島寛志)。
顔が親父の若先生にそっくり。
杖術用の杖を持ち、腕組みして環の中を見つめてる。
お隣の、妖精みたいな金髪美女は、寛ちゃんの彼女のシルヴィだ。
背中に回した手に、護身術用の独鈷杵(法具、インド由来の武器)を持っている。
あと、齢が近いせいで、特に仲良くさせてもらってる祥馬や逸樹、ジュリアン、瑠美ちゃんたちもいた。
俺も二人の後ろから中を覗いてみた。
寛ちゃんが俺に気づいて目配せした。
寛ちゃんの目線の先を見ると、輪の中心に、道着を着た男女が相対している。
長身の男性は、若先生こと敷島蓮城先生。
天からつられたように、ピンと背筋が伸びている。
美弥子さんの夫で寛ちゃんの親父さん。俺の直接の師匠だ。
対する、小柄でコロッとしたおばさんは、雅子マンこと塚本雅春先生。
県南の清泉市で、敷島流の治療院と道場を経営している。もう70近いはずだが、シニア化粧品のCMに出てくるモデルさんみたいに、薔薇色ホッペにプリプリお肌の……婆ちゃんというと怒られるので、とりあえずおばさんと言っとく。
真ん中には、たぶん審判役のでかい外人さん――ジャン=ポール・オダン先生。
宝部大学で神話や宗教について教えてる大学教授。寛ちゃんの彼女で、同じ医学部の学生であるシルヴィや、北高生のジュリアンは、このオダン先生の長女と長男だ。
師匠、雅子マン、オダン先生、三人とも師範位を持つ実力者なんだ。
雅子マン(男みたいなので皆そう呼ぶ)は、県南に住んでいて、週末しか来ないので、水曜に来ているのは意外だった。大会の打ち合わせのためだとは思うけれど。
なんで師匠と「実戦(申し合わせなしのガチンコ )」することになったのかはわからない。
もう「始め」はかかっているのだろう。
ただ、どちらも動かない。
皆、黙って見ている。
誰も、何も言わない。
ただ、固唾をのんで、勝負の行方を見つめている。
動いた。
どちらが先に動いたのかはわからない。
審判役のオダン先生や、社長はわかるかもしれないが、俺にはわからなかった。
二人は、目まぐるしく動きながら、互いに雷法(打撃)を放った。
すべて人体に多数ある急所を狙ったもので、当たれば確実に悶絶する、手加減なしの攻撃だ。
相互が相互の打撃をさえぎり、更にさえぎるために接触した部位から、相手の体軸を支配して崩そうとする。
双方の丹田で灼熱する気が渦巻き、それが互いの内外で衝突する。
若先生が雅子マンの突きをさえぎり、その接触部位から一気に重心を落下させることで雅子マンの体軸を崩した。
雅子マンは逆らわず側転するような体制で宙を飛び、流れるように床に降り立った。
しかし、その前に着地点に向かって若先生が走っていた。
着地して、まだ安定しない(であろう)雅子マンを一気に倒そうとしているのだ。
若先生と着地した雅子マンが接触しようとする刹那、雅子マンの口から「むん!」という声にならない声が漏れた。
二人の間に、一瞬光のようなものが閃くのが見えたような気がした。
若先生が、接触寸前の雅子マンから逆に飛びのいた。
同時に、社長と美弥子さんが声にならない声を上げた。
俺も、なにか体の中を電気みたいなものが通り抜けるのを感じた。
「……!」
気合術だ。
雅子マンが若先生に気を放ったのだ。
そして、若先生も呼応して飛びのきながら気を放った。
双方の気が衝突して道場内を駆け巡り、霊的な閃光や電流として俺たちはそれを感じたんだ。
「やめ!」
オダン先生の声が聞こえた。
わあっという歓声が上がり、みんなドッと拍手した。
「いやー、良いもの見せてもらったよ」
社長が手を叩きながら言った。
美弥子さんも頬を紅潮させて興奮してるようだった。
「眼福つかまつりました」
オダン先生が嬉しそうに言った。
眼福とは「目の幸せ~見る喜び」みたいな意味だけど、オダン先生は、こういう古武士のようなの表現を好むんだ。
俺も天法院流の「実戦」見るのは、一昨年、若先生の師範位考査で、若先生と大先生のそれを見て以来だ。
若先生が雅子マンと笑顔で握手してる。
「蓮坊も(若先生の本名は蓮志)なんぼかやるようになったの。まあまあじゃ」
「まあまあですか?雅子さん、1回、風法極めましたよ(投げましたよの意)」
「あれは私がおまえに気合を当てるために誘導しとっんじゃ。戦略じゃよ、戦略」
「嘘だあ」
誰かが言って、それで皆、ドッと笑った。
俺も一緒になって笑ってた。
俺もいつか、彼らのところまで行きたいと願っている。
そのために、毎日稽古しているんだ。
実戦は、雅子マンの方からいたずら半分に仕掛けたようだ。
そういう茶目っ気のある人なんだ。
それからそれぞれの稽古に入っていった。
カンちゃんと俺は、杖術の型を全部やるのでその稽古だ。
天法院流は修験者という宗教家の護身用の武術が基本になっているので、メインの武器は、修験者が手にしていた金剛杖という杖になる。
その十二の型を一気にやる。
もちろん攻め手は寛ちゃんで、受けを取るのは俺だ。
寛ちゃんと杖をふるっていると、すぐ隣で女性たちの笑い声がした。
美弥子さんが指導している女子護身術の人たちだが、土日以外の平日、珍しく雅子マンがいるので指導を仰いでいるらしい。
雅子マンと話しているとみんな彼女のファンになる。
彼女は底抜けの明るさと慈愛の心、そして不思議な力があるんだ。
それは、出会った瞬間にその人の人生の輪郭を把握してしまうというものだ。
だから、自分しか知らないはずの過去の出来事をズバズバ言い当てられて、皆、驚愕してしまう。
雅子マンにはそれが具体的に見えるらしい。
そして、悩んでること、抱えてる問題も把握して、それに対するこれ以外ない答えをポンと出してくる。
そしてそれ以上に、包み込むような慈悲というか、愛情をもって接してくれるので、誰もが彼女に魅了されてしまうんだ。
雅子マンは毎週末、県南の清泉市からこの本部道場に県南の弟子たちと一緒に来て一泊するのが習慣だが、武術指導だけでなく、天法院流とはまったく関係ない人たちの人生相談に乗ることも多い。
俺と寛ちゃんの稽古が一段落したとき、珍しく雅子マンが俺に声をかけてきた。
「隼、今日おまえ、こう可愛い感じの男の子を助けただろ?」
雅子マンは、両手で丸い輪郭のようなものを描いた。
「は?やっぱわかりますか?」
いつものことなの、俺はさすがに驚かなくなった。
「わかるとも。隼とは深い御縁のある魂じゃの。できるだけ早く道場に連れておいで。その子は、下を向いてあれこれ考える前にまず身体を動かすことを覚えさせるんじゃ。そうすれば大きく変わるぞ」
俺もそう思う。
うつうつ悩むより、まず体を動かしたほうがいいときもある。
その中で、解決法が見つかることもあるからだ。
御縁ある魂というのは前世?からの縁とかそういうことらしい。
「ま、隼のように何も考えず体だけ動くのも困るがの」
そういって雅子マンは笑った。
いや、俺だって何も考えてないわけじゃないんだけどね。
前世――そういえば、大地の名を聞いたとき、遠くに白雪をいただく山々と大草原、そして人が何人か乗った馬の群れが見えた。
異様にはっきりした幻視で驚いた。
「大地」という名前からの連想かと思ったが、もしかしたら俺の前世?の記憶かもね。
その後、女性を襲う異常変質者役をやらされて、急所に肘打ちくらったり、足甲踏まれたり、龍法(関節技)かけられて投げ飛ばされたり、散々な目にあったよ。特にシルヴィには、独鈷杵でいいようにあしらわれ、何度も激痛体験させられた。
どうも大会当日も俺が異常変質者役らしい。お笑い担当というところか。
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