上 下
4 / 7

4,謎の友だち

しおりを挟む
 そんなことを話しているうちに大地の家に着いた。
 ちょっと古めの、ごく普通の住宅だ。
 団地の西側で、ちょうど俺の住んでいる東側の真反対になる。
 「なんだ、俺、おめえん家に毎日来てるぜ」
 「え?」
 「新聞配達のバイトしてっからな。宝部日報とってるだろう。あれは俺が配達してんだ」
 「へえ!そうなの!」
 大地は驚いていたよ。
 そして急に真顔になって言った。
 「僕もバイトしないと――バイトして、お母さんに金を返さないと」
 「そうだな。バイトすんのはいいが、金は連中から取り返そうぜ。泣き寝入りする必要なんてねえ。浦木さんと龍団について調べてみねえといけねえな……」
 大地は驚いたような顔して俺を見た。
 「……隼君、どうして僕なんかのために、そこまでしてくれるの?別に僕がどうでも、隼君は困らないよね。なんで?」
 そう言われて、俺は困った。
 自分でも、うまく説明できなかったからだ。
 「いや、困るよ。まあ世の中色々あるけど、最低限のスジは通さなきゃいけねえ。スジの通らねえことは正さなきゃ。それに、なんていうか、俺たち、縁があるよな。同じ団地に住んでるし、毎日オメエん家に新聞配ってたし。縁のある友達が困ってたら、助けるのもスジだ。な!」
 「……友だち」
 「ああ!おめえとオレは友だちだ。だから、君付けはやめようぜ。呼び捨てだ。俺は大地って言うし、俺のことはしゅんって呼べ」
 「しゅん――」
 「そうだ。それでいい」
 
 そのとき、突然玄関のドアが勢いよく開いて、女の人が飛び出してきた。小柄で、コロっとした、可愛い感じのするおばさんだった。顔が大地によく似てる。これがおふくろさんだな。
 「あの……大地!お友だち?」
 おふくろさんは、ひどく興奮した様子で言った。
 「う、うん。同級生の高宮……隼だよ」
 大地が口ごもりながら言った。
 慣れないから、呼び捨てにすんのが難しかったんだな。
 とりあえず、これで友達認定してもらえたようだ。
 俺はおふくろさんに頭下げて言った。
 「どうも、D組の高宮です。よろしくお願いします」
 おふくろさんは、目を見開いてしげしげと俺を見ていたが、急に俺の腕をつかむと
 「あの、どうぞ中に入って!何か食べてってください!ね、ね!」
 と言って、俺は家の中に「強制連行」されちまった。
 道場行かなきゃならないんだが、ちょっと断れる雰囲気じゃねえなあ。

 大地の部屋に通された。
 大地の部屋は俺の部屋同様雑然としていたが、俺の部屋みたいに殺風景じゃなかった。
 まず部屋に入って目につくのは、本棚一杯の漫画やアニメ特撮物のDVD。そしてその前に並べられたロボットのプラモやフィギュア。
 また、アニメやゲーム?のポスターが壁一面に貼られていて、まるで色彩の洪水だ。
 なんかにぎやかというか、生命力に満ちてる感じだ。
 大地の苦しい、暗い心には、こういう生命力のパワーが必要なんだろう。
 
 驚いたのは、机の上に、でかいモニターのある立派なPCがあり、それを親父さんと一緒に自分で作ったというのだ。
 PCを自作する趣味の人がいるというのは聞いたことがあるが、俺なんか、何をどうすればいいのか全く想像もつかない。
 「へえーすげえじゃん。たいしたもんだなあ!」
 親父さんがPCサービスの大手で働いていて、プログラミングなんかも教わっているらしい。
 大地が孤立してるようで、まったくの闇に沈んでいるわけじゃないのは、優しいおふくろといい親父がいるためだな。
 「別にすごくないよ。パソコン好きは、やってるひと多いよ」
 大地がうれしそうに言った。
 俺の部屋にはPCすらない。
 ネットにつながるものはスマホだけ。エロ動画見るのもスマホだけだ。
 そのことを大地に言うと、大地はひどく驚いたような顔をした。
 部屋にPCがないということで驚いたんじゃなく、スマホでエロ動画見てオナニーしてるって俺が自然に口にしたことが、大地にとってはビックリするようなことだったらしい。
 「なんだおめえオナニーしねえのか」
 「……す、するよ」
 「エロ動画見ねえんか?あ!おめえはエロアニメ専門だな!」
 「……」
 大地は真っ赤になった。
 俺はアニメでオナニーしたことはないが、がぜん興味わいてきたな。
 「大地、エロアニメのDVD持ってんのか。持ってたら貸してくれ」
 大地はしばらくためらっていたが、本棚の奥、マンガの裏からDVDをいくつか出してきてくれた。
 いずれも、日曜の朝にやってる女の子向けのアニメのキャラクターが、巨乳になってHするような感じのモンだ。
 「おう、こりゃいいや。全部借りていいんか。大地オナニーできなくなんねか?」
 「大丈夫だよ。その……ダウンロードした動画もあるから……」
 「そうか。じゃ、借りとくわ。今晩見るぞ!」
 俺がDVD振り回しながら、「オナニーするぞ宣言」すると、ドアをノックする音が聞こえた。
 「大地、入っていい?」
 おふくろさんだ。
 泡食ってソファの隙間にDVDを隠した。
 
 おふくろさんは、お盆の上にオレンジジュースと山盛りのクッキーを乗せて現れた。
 「おばさんの手作りだけど、よかったら食べてね」
 俺は甘いものそんなに好きじゃないんだけど、これはうまかった。
 バターが効いてるのか、作り方がうまいのかよくわからんが、市販品の倍もおいしかったよ。
 「お母さんの得意技なんだ」
 大地は自慢そうに言った。
 おふくろさんには夕飯もよかった食べて行ってと言われ、ちょっとその気にもなったけど、今日は大会向けの稽古があるので、最低でも6時までは道場に行かなきゃならない。
 今日は稽古があるんでもう行きますと言うと、おふくろさんは本当に残念そうな顔してた。
 おふくろさんが、たぶんめったにないであろう「息子の友だち」の来訪を、心底喜んでいるのは痛いほど感じた。
 
 別れ際、俺は大地に言った。
 取られた金は「龍団」から必ず取り返すこと。
 取られた金の流れは俺が調べること(狙われる可能性があるので)。
 同じ理由で、登下校は必ず俺と一緒にすること。
 朝は、団地の東西の合流地点である高木商店前で落ち合うこと。
 俺のいないときに、龍団の連中に襲われるようなことがあったら、すぐ電話できるように、スマホの画面に俺の番号のショートカットを作っとくこと。
 そして、そのために、自分で両親に一切の事情を説明すること。
 これは、大地が自分でやらなきゃいけない。
 大地は、力強くうなずいてくれたよ。

 俺はおふくろさんのクッキーを袋一杯土産にもらって、道場に向かったんだ。
 もちろん、エロアニメのDVDも鞄の中に隠して。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

モブが公園で泣いていた少女に、ハンカチを渡したらなぜか友達になりました~彼女の可愛いところを知っている男子はこの世で俺だけ~

くまたに
青春
冷姫と呼ばれる美少女と友達になった。 初めての異性の友達と、新しいことに沢山挑戦してみることに。 そんな中彼女が見せる幸せそうに笑う表情を知っている男子は、恐らくモブ一人。 冷姫とモブによる砂糖のように甘い日々は誰にもバレることなく隠し通すことができるのか! カクヨム・小説家になろうでも記載しています!

女子高生は小悪魔だ~教師のボクはこんな毎日送ってます

藤 ゆう
青春
ボクはある私立女子高の体育教師。大学をでて、初めての赴任だった。 「男子がいないからなぁ、ブリっ子もしないし、かなり地がでるぞ…おまえ食われるなよ(笑)」 先輩に聞いていたから少しは身構えていたけれど… 色んな(笑)事件がまきおこる。 どこもこんなものなのか? 新米のボクにはわからないけれど、ついにスタートした可愛い小悪魔たちとの毎日。

義妹たちの為ならば!

ジャムム
青春
これは、一人暮らしをしていた普通の男子高校生と父の再婚により二人の義妹たちとの家族愛を描いた作品となっています。 主人公は義妹たちに大きなことを隠しており、バレないように義妹たちを助けたり、世話をしたりと良き兄として生活をしていきます。義妹たちは気付けるのか…?

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

Missing you

廣瀬純一
青春
突然消えた彼女を探しに山口県に訪れた伊東達也が自転車で県内の各市を巡り様々な体験や不思議な体験をする話

魂の集う場所へ ~最後に誓った想い~

花房こはる
青春
「アカシック・ギフト・ストーリー」シリーズ第7弾。 これは、実際の人の過去世(前世)を一つのストーリーとして綴った物語です。 貿易商を父に持つシュリアは、幼馴染のサイとお互い気兼ねなく付き合える仲だった。 ある日、サイの家が火事になり、全焼してしまった。サイは、財産すべてを失ってしまったサイの家族を支えるため、シュリアの父の貿易船の下働きとして働くことになった。 ずっと一緒だった二人の人生が違う道へと分かれてしまった。 いつか再び二人がともにまた同じ道を歩むことができるよう、シュリアは願い動き出す。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

処理中です...