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15.マチルダへのご褒美①
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「マ…チ、ル…ダ…!」
全身に激痛が走り、うずくまりながらも、俺は声を振り絞った。
最悪だ。予想はついていたことだが…改めて現実を目の当たりにすると、最悪という言葉しか出てこない。マチルダまでもが魔王の手に堕ちていたのだから。
「アレン、約束は守れよな」
一体何のことだ。そう言葉にするよりも先に、マチルダは俺に近づき、俺の髪を荒っぽく掴んだ。そして、俺の顔を地面に力いっぱい押し付けた。
「魔王様に土下座するって約束しただろ。男ならちゃんと約束は守らないとな」
俺の顔に激痛が走る。マチルダの馬鹿力で、鼻と頬が押しつぶされされてしまいそうだ。何とか抵抗を試みようとしても、マチルダの力は凄まじくて、脚をばたつかせるのが精一杯だ。
「ふふふ。無様だな。アレン、お前はマチルダの助けがなければ土下座もできないようだな」
「ミネルヴァ、アレン君をあまり虐めてやるな。勇者である手前、魔王である私に土下座をするなどできぬだろう」
「ふふふ。一番のサディストがよく言うな♪」
目の前では、相変わらずミネルヴァが俺に対しては冷たい言葉を吐き捨てている。その一方で、魔王に対しては甘えた声で親しげに話をしている。
「さてアレン君、今になって土下座をしてくれたのは有難い限りのだが…先ほどミネルヴァは、『チャンスは一度きり』と言った。私は自分の女の言ったことは尊重したい」
「そういうことだ、アレン。お前は魔王が与えた最初で最後のチャンスを棒に振ったんだ」
ミネルヴァと魔王はニヤニヤと俺を見下している。初めからこうなることを計算していたのだろう。チャンスとやらを本気で与えるつもりなんてなかったんだ。
「その上、奇襲攻撃で魔王様に襲い掛かるなんてな。まったく卑怯な男だよ、お前は」
俺を押さえつけているマチルダは、苛立った声で俺を罵る。そんなに俺が魔王に奇襲をしかけたことが腹立たしいのだろうか。
「危ないところだったよ。ありがとう、マチルダ」
「あんっ、んんうぅ…♪」
そしてマチルダも…ミネルヴァと同じように、魔王に対しては媚びたような甘い声で返事をする。男勝りのマチルダのこんな声、俺は聞いたことがない。
「魔王様…言う通りにコイツを捕まえたんだ。それに今もアタシ、頑張ったんだ。ご褒美ぃ♪」
何だよ。俺は「コイツ」扱いなのかよ。ふざけるな。お前は俺と魔王を退治しようとしていたんだ。そいつは敵なんだ。そう言いたくなる気持ちがふつふつと沸き立ってくる。
当のマチルダは、俺のことは眼中にないようで、力任せに俺を無理やり押さえつけているだけだった。そして、あとはまるで忠犬のように、魔王からの言葉をじっと待っているのた。
「もちろんだ。マチルダ、君にはとっておきのご褒美をあげよう」
すると、俺の身体を押さえつけていた馬鹿力がなくなった。魔王がマチルダの手を取り、立ち上がらせ、マチルダを抱きよせたようだ。
「んんううぅっ…♪」
魔王に抱き寄せられたマチルダはとても嬉しそうだ。野生的な鋭い目はすっかり蕩けて、情熱的な視線で魔王の顔をじっと見つめている。マチルダに尻尾が生えていたのなら、尻尾を何度も振って、その喜びを表現してそうだ。
そして魔王はマチルダを抱き寄せながら、俺に勝ち誇った顔を見せている。
「アレン君、私はこれから君の目の前でマチルダを抱くつもりだ。申し訳ないが、マチルダはもう君の仲間ではない。私の女なのだ」
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