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14.マチルダ
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※
「アレン君、分かっただろう。君と苦楽を共にした仲間はもういないんだ」
「そういうことだ。私は魔王に救ってもらって心の底から幸せだと感じている。アレン、お前はもういらないんだ」
これは悪い夢だ。早く覚めてくれ。幾度となくそう願ったが、この悪夢が覚めることはなかった。
「ミネルヴァ…」
今の俺には力なくミネルヴァの名前を呟くのが精一杯だった。
ああ、どうして俺はあの時、ミネルヴァを1人にしてしまったのだろう。
仲間を失った喪失感、仲間が敵になった衝撃、ミネルヴァを1人にしたことへの後悔、そして、この絶望的な状況…俺の中でドロドロとした負の感情が渦巻き、全身を濁らせていく。
「なあアレン、潔くオスとして負けを認めたらどうだ?お前の勝ち目は万に一つもないぞ」
「なっ…!」
「土下座をして、魔王に許しを乞うんだ。そうした方が貴様のためだと思うぞ?」
突然の提案に驚く俺をよそに、ミネルヴァは呪文を唱えはじめた。そして、あっという間に俺にかけられていた拘束魔法が解除される。
締め付けられていた感覚は残っているが、十分に身体は動く。余力は残っている俺を解放するなんて、本当にミネルヴァは土下座をさせるつもりなのだろうか。
「チャンスは一度きりだぞ?無様に土下座をしたら、貴様のことは解放してやる」
「さあ、アレン君。どうするかを選びなさい」
俺の目の前にいる魔王はにこりと微笑んだ。その笑顔は拍子抜けするくらい敵意がない。目の前に敵がいるにもかかわらずある、あまりにも無防備だ。
「くっ、分かった…!」
「ほう、お前にしては随分と物分かりがいいな」
俺は決意した。魔王の目の前で、ゆっくりと両膝をつき、そして右手、左手と両の手をつく。そして頭を地面につけるそのタイミングで…魔王に向けて飛びかかった。
その時に改めて感じた。魔王の見た目は三下盗賊のヤーザムと同じなのに、威圧感は比にならないくらい。
だからといって、勇者が魔王に対して土下座をするなどあってはならないことだ。俺は立ち止まることなく、魔王に向かった。
「うおおおおおおっ!!」
しかし、俺の拳は魔王には届かなかった。寸前のところで横から凄まじい衝撃が襲ったのだ。
「ぐはあっ!」
俺は衝撃に吹っ飛ばされ、壁へと激突した。衝突の轟音が室内に響くと同時に、俺の身体にに激痛が走る。呼吸できないほどに息が苦しい。
だけど、俺にはこの馬鹿力には覚えがある…
「おいおい、やりすぎるなよ?」
「悪いな。コイツ、ご主人様に手出そうとしたから、ついカッとなっちまったよ」
やはりそうだ。俺にはそのハキハキとした声にも、明るく豪快な口調にも聞き覚えがある。
床に横たわる俺は、地を這うようにして、ゆっくりと顔を上げた。
「よお、久しぶりだな、アレン」
そこには旅を共にしたもう1人の仲間、マチルダが立っていた。
「アレン君、分かっただろう。君と苦楽を共にした仲間はもういないんだ」
「そういうことだ。私は魔王に救ってもらって心の底から幸せだと感じている。アレン、お前はもういらないんだ」
これは悪い夢だ。早く覚めてくれ。幾度となくそう願ったが、この悪夢が覚めることはなかった。
「ミネルヴァ…」
今の俺には力なくミネルヴァの名前を呟くのが精一杯だった。
ああ、どうして俺はあの時、ミネルヴァを1人にしてしまったのだろう。
仲間を失った喪失感、仲間が敵になった衝撃、ミネルヴァを1人にしたことへの後悔、そして、この絶望的な状況…俺の中でドロドロとした負の感情が渦巻き、全身を濁らせていく。
「なあアレン、潔くオスとして負けを認めたらどうだ?お前の勝ち目は万に一つもないぞ」
「なっ…!」
「土下座をして、魔王に許しを乞うんだ。そうした方が貴様のためだと思うぞ?」
突然の提案に驚く俺をよそに、ミネルヴァは呪文を唱えはじめた。そして、あっという間に俺にかけられていた拘束魔法が解除される。
締め付けられていた感覚は残っているが、十分に身体は動く。余力は残っている俺を解放するなんて、本当にミネルヴァは土下座をさせるつもりなのだろうか。
「チャンスは一度きりだぞ?無様に土下座をしたら、貴様のことは解放してやる」
「さあ、アレン君。どうするかを選びなさい」
俺の目の前にいる魔王はにこりと微笑んだ。その笑顔は拍子抜けするくらい敵意がない。目の前に敵がいるにもかかわらずある、あまりにも無防備だ。
「くっ、分かった…!」
「ほう、お前にしては随分と物分かりがいいな」
俺は決意した。魔王の目の前で、ゆっくりと両膝をつき、そして右手、左手と両の手をつく。そして頭を地面につけるそのタイミングで…魔王に向けて飛びかかった。
その時に改めて感じた。魔王の見た目は三下盗賊のヤーザムと同じなのに、威圧感は比にならないくらい。
だからといって、勇者が魔王に対して土下座をするなどあってはならないことだ。俺は立ち止まることなく、魔王に向かった。
「うおおおおおおっ!!」
しかし、俺の拳は魔王には届かなかった。寸前のところで横から凄まじい衝撃が襲ったのだ。
「ぐはあっ!」
俺は衝撃に吹っ飛ばされ、壁へと激突した。衝突の轟音が室内に響くと同時に、俺の身体にに激痛が走る。呼吸できないほどに息が苦しい。
だけど、俺にはこの馬鹿力には覚えがある…
「おいおい、やりすぎるなよ?」
「悪いな。コイツ、ご主人様に手出そうとしたから、ついカッとなっちまったよ」
やはりそうだ。俺にはそのハキハキとした声にも、明るく豪快な口調にも聞き覚えがある。
床に横たわる俺は、地を這うようにして、ゆっくりと顔を上げた。
「よお、久しぶりだな、アレン」
そこには旅を共にしたもう1人の仲間、マチルダが立っていた。
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