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第5章 狼人族
23 あゆみの日3
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あれから一週間。
私はバッカスを手始めに、すべての狼人族に水浴びをさせた。最初みんな嫌がってたけど、バッカスの権力を笠に着た私の命令は絶対だった。
バッカスはと言えば。あれからも定期的に湖に水浴びをしに行くようになってくれた。まあ、そうしなきゃ毛づくろいボイコットするって脅したからもあるけど。
あの後バッカスは私の言いなりに色々してたことに気が付いて慌てて私に家事を全て押し付けて来た。
「せめて俺のペットとしての自覚を持つように家事くらいやれ」
「……いいけどね。私ご飯作るの決して上手じゃないよ。洗濯だってもう全員の服絶対洗わせてくれって思ってはいるけど、あの湖に毎回入るのは無理だから。せめて瓶に水くらい汲んできてよ」
「ぐっ……仕方ない」
昔誰かが『交渉ってのは自分がどれくらい妥協しているかを見せながら自分の欲しい物を手に入れる事だ』って言ってたけど、きっとこういう事だよね。
数日後には私は自分の部屋を手に入れて、ゆうゆうと朝日が昇る頃に起きだしてその日のグループの狼人族たちを引き連れて湖に行って水浴びをさせながら洗濯を終わらせ、その後は簡単な食事の手伝いをして、夜までキレイになったモフモフの毛づくろいを続けると言う実は結構快適な生活を手に入れていた。
あ、最初の二日はバッカスの部屋で寝ましたよ。
仕方ないから床で。
バッカスが丸くなって寝てた。
寝床のシーツは仕方ないから裏返して最初の日は我慢した。
「あゆみ、コリンが足を切った。これどうしたらいい?」
「ああ、その程度なら確かにあなた達が舐めてれば直るね。ほら、口をクツの実のジュースで濯いでから」
クツの実は森に生っている凄く酸っぱい果実だ。正に味はレモン。勿論狼人族の天敵。
でもこれ間違いなく消毒効果があると思う。染みる薬はいい薬だって近所のおじいちゃん先生が言ってたし。
だからそれを水で薄めた物で先に口を濯いでから治療をさせている。みんな一様に嫌がるけど、結果傷がいつもより綺麗に早く治るのを見て結局従ってくれている。
まあ、こんなのは治療とも言えないけどさ。正直本当に酷い怪我なんて私には何もしてあげられない。痛み止めとか薬もないから殆ど自然治癒のお手伝いくらいしか出来ない。治療院……やっぱり便利だったな。
私が余ったクツの実のジュースを美味しく頂きながら様子を見てるとバッカスが気色悪そうにこちらを伺う。
「バッカスも飲む?」
「そんな物飲めるか!」
親切心で言ってあげたんだけどな。
私達がそんな事をやっている所に一匹……じゃなかった一人の狼人族の人が慌ててかけて来た。
「族長、またあのハーフ・エルフが笛吹いてますぜ」
「また性懲りもなくあの曲か?」
「いえ、それが……どうも葬送曲のようで」
え? 葬送曲って一体誰の?
驚いている私にバッカスがニヤリと笑って私を見る。
「結構お前のだったりしてな」
「え? 私?」
「ああ、だって普通俺たちに捕まってこんなに長く生きてるとは思わないだろう」
「……あなた達普通は殺してたの?」
「俺たちを攻撃する奴は勿論殺すさ」
「……私だって攻撃したよ」
「あんたのは攻撃っていうのも恥ずかしい様なもんだったがな。ありゃ油断した俺が馬鹿だっただけだ」
変なの。
私この人を殺しちゃったと思ってたのに。
「さてどうする」
そう言って何故かバッカスが私の顔を覗き込んだ。
「アイツらお前が死んだと思ってるみたいだぜ。もう帰る場所もないかもな」
「ひ、酷い。今までいっぱい毛づくろいしてあげて来たのに、そんな事を言ったら私が傷つくの分かってて今言ったでしょ!」
私の『傷つきました』を身振り付きでアピールした指摘にバッカスがちょっと眉を顰める。
ほんと、付き合ってみればこの狼人族、馬鹿みたいに紳士的であろうとする、変なプライドがある人たちなんだよね。ある意味扱いやすい、って言っちゃいけないかな?
「すまない」
ね。バッカスは結構ちゃんと謝ってくれる。
「悪いと思ったなら私の話も聞いて。あのね、私……」
私はバッカスにちょっと思い付いた事を持ち掛けた。
……私、もしかすると結構酷い奴かもしれない。
バッカスもちょっと不貞腐れた顔でこっち見てる。
でも、仕方ないよね。多分これが一番みんなにとっていい方法だと思うし。
私は遠くから流れてくる笛の根をBGMにバッカスと額を突き合わせてとっておきの『悪だくみ』を練り始めたのだった。
私はバッカスを手始めに、すべての狼人族に水浴びをさせた。最初みんな嫌がってたけど、バッカスの権力を笠に着た私の命令は絶対だった。
バッカスはと言えば。あれからも定期的に湖に水浴びをしに行くようになってくれた。まあ、そうしなきゃ毛づくろいボイコットするって脅したからもあるけど。
あの後バッカスは私の言いなりに色々してたことに気が付いて慌てて私に家事を全て押し付けて来た。
「せめて俺のペットとしての自覚を持つように家事くらいやれ」
「……いいけどね。私ご飯作るの決して上手じゃないよ。洗濯だってもう全員の服絶対洗わせてくれって思ってはいるけど、あの湖に毎回入るのは無理だから。せめて瓶に水くらい汲んできてよ」
「ぐっ……仕方ない」
昔誰かが『交渉ってのは自分がどれくらい妥協しているかを見せながら自分の欲しい物を手に入れる事だ』って言ってたけど、きっとこういう事だよね。
数日後には私は自分の部屋を手に入れて、ゆうゆうと朝日が昇る頃に起きだしてその日のグループの狼人族たちを引き連れて湖に行って水浴びをさせながら洗濯を終わらせ、その後は簡単な食事の手伝いをして、夜までキレイになったモフモフの毛づくろいを続けると言う実は結構快適な生活を手に入れていた。
あ、最初の二日はバッカスの部屋で寝ましたよ。
仕方ないから床で。
バッカスが丸くなって寝てた。
寝床のシーツは仕方ないから裏返して最初の日は我慢した。
「あゆみ、コリンが足を切った。これどうしたらいい?」
「ああ、その程度なら確かにあなた達が舐めてれば直るね。ほら、口をクツの実のジュースで濯いでから」
クツの実は森に生っている凄く酸っぱい果実だ。正に味はレモン。勿論狼人族の天敵。
でもこれ間違いなく消毒効果があると思う。染みる薬はいい薬だって近所のおじいちゃん先生が言ってたし。
だからそれを水で薄めた物で先に口を濯いでから治療をさせている。みんな一様に嫌がるけど、結果傷がいつもより綺麗に早く治るのを見て結局従ってくれている。
まあ、こんなのは治療とも言えないけどさ。正直本当に酷い怪我なんて私には何もしてあげられない。痛み止めとか薬もないから殆ど自然治癒のお手伝いくらいしか出来ない。治療院……やっぱり便利だったな。
私が余ったクツの実のジュースを美味しく頂きながら様子を見てるとバッカスが気色悪そうにこちらを伺う。
「バッカスも飲む?」
「そんな物飲めるか!」
親切心で言ってあげたんだけどな。
私達がそんな事をやっている所に一匹……じゃなかった一人の狼人族の人が慌ててかけて来た。
「族長、またあのハーフ・エルフが笛吹いてますぜ」
「また性懲りもなくあの曲か?」
「いえ、それが……どうも葬送曲のようで」
え? 葬送曲って一体誰の?
驚いている私にバッカスがニヤリと笑って私を見る。
「結構お前のだったりしてな」
「え? 私?」
「ああ、だって普通俺たちに捕まってこんなに長く生きてるとは思わないだろう」
「……あなた達普通は殺してたの?」
「俺たちを攻撃する奴は勿論殺すさ」
「……私だって攻撃したよ」
「あんたのは攻撃っていうのも恥ずかしい様なもんだったがな。ありゃ油断した俺が馬鹿だっただけだ」
変なの。
私この人を殺しちゃったと思ってたのに。
「さてどうする」
そう言って何故かバッカスが私の顔を覗き込んだ。
「アイツらお前が死んだと思ってるみたいだぜ。もう帰る場所もないかもな」
「ひ、酷い。今までいっぱい毛づくろいしてあげて来たのに、そんな事を言ったら私が傷つくの分かってて今言ったでしょ!」
私の『傷つきました』を身振り付きでアピールした指摘にバッカスがちょっと眉を顰める。
ほんと、付き合ってみればこの狼人族、馬鹿みたいに紳士的であろうとする、変なプライドがある人たちなんだよね。ある意味扱いやすい、って言っちゃいけないかな?
「すまない」
ね。バッカスは結構ちゃんと謝ってくれる。
「悪いと思ったなら私の話も聞いて。あのね、私……」
私はバッカスにちょっと思い付いた事を持ち掛けた。
……私、もしかすると結構酷い奴かもしれない。
バッカスもちょっと不貞腐れた顔でこっち見てる。
でも、仕方ないよね。多分これが一番みんなにとっていい方法だと思うし。
私は遠くから流れてくる笛の根をBGMにバッカスと額を突き合わせてとっておきの『悪だくみ』を練り始めたのだった。
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