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彼女が“アンディ”になったきっかけ 2
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ピーマンが抜かれたサラダが食卓に戻った後も、何事もなく平和に時が過ぎ去り、とうとうリュドウィックとオズワルドが王城に戻る時が来た。
結局リュドウィックはロザリアに指一本触れずに帰っていき、男装執事に戻ったアンディを見たオズワルドは、なおも耳まで顔を赤くしながらもリュドウィックに同行した。
「…アンディ。今日のブランチから少しおかしかったけれど、大丈夫なの?」
「えっ!?…あ、はい。も、もちろん大丈夫ですよ、ロザリア様。ご心配おかけしました」
「ううん、いいのよ。…それよりも、本当にあの王子、私を口説きまくった割に全く触れてこなかったわ。多分お父様がいる手前、そういう事が出来なかったんじゃないかって思ったのだけれど、もしお父様がいなかったら、今頃どうなってたかしら」
「はぁ…。それは…うーん」
エンブレスト伯爵がいなかった時のリュドウィックの訪問を想像して、アンディは一瞬肩をブルリと振るわせる。
けれどすぐに、『そういえば夜会での事をより詳しく聞いてなかったな』と思いたち、一旦ロザリアに聞いてみる事にした。
「あの…ロザリア様。殿下に初めて会った夜会の時は、どうだったのですか?」
「ん?あー…その時も確か、指一本触れられていなかったわね。というか、そもそもあの時は複数の男に囲まれてしまって、こういう時にはいつもお父様が助けてくれるんだけれど、結局この日は殿下に助けられたんだったわ。…はぁ~。一応殿下を除いたとしても、本当に男って厄介な生き物よね!」
「……」
本当は『騎士団長も厄介な男じゃない』と言いたいのだが、アンディはその言葉を飲み込んでロザリアに微笑みを向ける。
そして、ロザリアとエンブレスト伯爵に「一旦自室に戻ります」と伝えたあと、アンディは足早に部屋に戻り、扉の鍵を閉めて、近くにある細長い鏡の前に立った。
今のこの姿は、亡くなった弟の”アンディ”に似せて作られたもの。
けれど、行動を男性である弟に似せようと頑張っても、所詮中身はただの女性だ。
ゆっくりと執事服を脱いで、軽くサラシを巻いた胸元を露わにする。
執事の服を着ている時はアンディになるが、今の彼女はただのアナベル子爵令嬢だ。
そして弟が使っている『僕』という一人称をこの時使わなくていいんだと思うと、責任感と使命感という重圧を下ろせたようで、アナベルは安堵の息を漏らした。
(…私は絶対に、女だと知られてはならない。私の秘密を知っていいのは、ロザリアとジェルマンおじ様と、私の両親だけ。…例え事故で騎士団長に胸を揉まれてしまっても、男である事を貫き通さなくちゃ。そして、ゆくゆくはロザリアの結婚を見届けてから執事をやめて、アンディに代わって男としてライトナー子爵家の当主になる。…幸い、私の家は使用人を教育する仕事に就いているから、これだったら絶対にバレないはず…!)
鏡の前で自分の目的と意志を再確認したアナベルは、そのままの状態で部屋に置かれた机に向かい、そこに飾られている写真立てを手にする。
その写真の中には、木の棒を縦に持って騎士の誓いを立てている、幼い弟の姿が映っていた。
(ごめんね、アンディ。貴方の代わりに騎士になれなくて…。だって、私が騎士として死んだら、きっと父上も母上も悲しんで後を追いそうなんだもの。でも、アンディがずっと言っていた『家族を守る』という誓いは絶対に守るから。貴方の代わりに私がアンディになって、ゆくゆくは父上と母上をもっと幸せにするから。だから見守っていて)
そうしてアナベルは、写真の中の弟に自分なりの誓いを立ててから、写真立てを机の上に置き、執事服を着直してロザリアの元に向かったのだった。
結局リュドウィックはロザリアに指一本触れずに帰っていき、男装執事に戻ったアンディを見たオズワルドは、なおも耳まで顔を赤くしながらもリュドウィックに同行した。
「…アンディ。今日のブランチから少しおかしかったけれど、大丈夫なの?」
「えっ!?…あ、はい。も、もちろん大丈夫ですよ、ロザリア様。ご心配おかけしました」
「ううん、いいのよ。…それよりも、本当にあの王子、私を口説きまくった割に全く触れてこなかったわ。多分お父様がいる手前、そういう事が出来なかったんじゃないかって思ったのだけれど、もしお父様がいなかったら、今頃どうなってたかしら」
「はぁ…。それは…うーん」
エンブレスト伯爵がいなかった時のリュドウィックの訪問を想像して、アンディは一瞬肩をブルリと振るわせる。
けれどすぐに、『そういえば夜会での事をより詳しく聞いてなかったな』と思いたち、一旦ロザリアに聞いてみる事にした。
「あの…ロザリア様。殿下に初めて会った夜会の時は、どうだったのですか?」
「ん?あー…その時も確か、指一本触れられていなかったわね。というか、そもそもあの時は複数の男に囲まれてしまって、こういう時にはいつもお父様が助けてくれるんだけれど、結局この日は殿下に助けられたんだったわ。…はぁ~。一応殿下を除いたとしても、本当に男って厄介な生き物よね!」
「……」
本当は『騎士団長も厄介な男じゃない』と言いたいのだが、アンディはその言葉を飲み込んでロザリアに微笑みを向ける。
そして、ロザリアとエンブレスト伯爵に「一旦自室に戻ります」と伝えたあと、アンディは足早に部屋に戻り、扉の鍵を閉めて、近くにある細長い鏡の前に立った。
今のこの姿は、亡くなった弟の”アンディ”に似せて作られたもの。
けれど、行動を男性である弟に似せようと頑張っても、所詮中身はただの女性だ。
ゆっくりと執事服を脱いで、軽くサラシを巻いた胸元を露わにする。
執事の服を着ている時はアンディになるが、今の彼女はただのアナベル子爵令嬢だ。
そして弟が使っている『僕』という一人称をこの時使わなくていいんだと思うと、責任感と使命感という重圧を下ろせたようで、アナベルは安堵の息を漏らした。
(…私は絶対に、女だと知られてはならない。私の秘密を知っていいのは、ロザリアとジェルマンおじ様と、私の両親だけ。…例え事故で騎士団長に胸を揉まれてしまっても、男である事を貫き通さなくちゃ。そして、ゆくゆくはロザリアの結婚を見届けてから執事をやめて、アンディに代わって男としてライトナー子爵家の当主になる。…幸い、私の家は使用人を教育する仕事に就いているから、これだったら絶対にバレないはず…!)
鏡の前で自分の目的と意志を再確認したアナベルは、そのままの状態で部屋に置かれた机に向かい、そこに飾られている写真立てを手にする。
その写真の中には、木の棒を縦に持って騎士の誓いを立てている、幼い弟の姿が映っていた。
(ごめんね、アンディ。貴方の代わりに騎士になれなくて…。だって、私が騎士として死んだら、きっと父上も母上も悲しんで後を追いそうなんだもの。でも、アンディがずっと言っていた『家族を守る』という誓いは絶対に守るから。貴方の代わりに私がアンディになって、ゆくゆくは父上と母上をもっと幸せにするから。だから見守っていて)
そうしてアナベルは、写真の中の弟に自分なりの誓いを立ててから、写真立てを机の上に置き、執事服を着直してロザリアの元に向かったのだった。
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