恋するつま先~オネェさんネイリストは甘やかし体質~

マチバリ

文字の大きさ
3 / 13

03

しおりを挟む

「あら、寝ちゃってた?」
「だいじょび、です」

戻ってきた楠木さんに呼び掛けられ、慌てて口を開いて出た声は我ながら全然大丈夫じゃない。楠木さんはちょっとだけ笑って、私の正面にあった低い椅子に腰かけた。私の膝の位置に楠木さんの顔があり、急に恥ずかしさと気まずさに襲われてしまう。眠気もどこかに行ってしまった。逃げたしたくて腰を浮かせようとするけど、私の両脚はお湯につかったままで、逃げようにも逃げ場はない。

「あ、あの」
「大丈夫、力を抜いて」

楠木さんはバスタオルを膝に広げると、足湯の機械から私の右足だけを引き抜いた。ぽたぽたと水滴で濡れた足先をバスタオルが優しく包む。高級な肌触りが畏れ多くて身体を強張らせていると、楠木さんは面白そうに笑って、だいじょうぶよ、と優しい声で囁いてくれた。

「こんなに腫れて。可哀相に。疲れてたでしょう?」

労わる声音が凄く優しい。綺麗に拭き上げられた足先に楠木さんの綺麗な指先が触れる。神聖なものを汚してしまったような妙な罪悪感があるのに、その光景から目が離せない。

「まずはマッサージね」

ポンプ式のボトルから乳白色のクリームを出すと、楠木さんの綺麗な手が私の足にそれを塗り付けていく。お湯で温められていた皮膚にクリームは少しだけ冷たく感じて、つま先が勝手にピクリと跳ねた。
足の甲や踵、足裏をまんべんなく撫でながらクリームが肌に刷り込まれていく。足の指と指の間にも丁寧に塗り込められて、指を一本一本摘まむように引っ張られると、固まっていた筋肉や神経がピリピリと痺れて痛気持ちいい。

「新しい靴でずっと押さえつけてたから腫れちゃってるじゃない。駄目よ、もう少し柔らかい靴にしなきゃ」
「はい…」

ちょっとだけ怒った口調の楠木さんが、私のつま先をやさしい手つきで何度も撫でていく。

「せっかくきれいな足なんだから」
「そんな」

そんな事これまで一度だって言われた事はなかった。サイズだって平均だし。

「立ち仕事だったのね。ほら、ふくらはぎまでパンパン」

踵を掌で包むように揉んでいた手が滑って、アキレスから辿るようにふくらはぎへと這い上がってくる。綺麗で長い指私のふくらはぎを包むように揉みこんで撫でまわしていく感触は、マッサージというよりもずっとソフトで随分優しい。

「んぅ」

思わず鼻から自分の声とは信じたくないような甘い声が出てしまった。人からこんな風に体を触ってもらったのが初めてで、脳が誤作動を起こしてしまったらしい。恥ずかしいやら情けないやらで顔から火が出そうだ。

「……」

楠木さんも目を丸くして私の顔を見ている。ああ、呆れられたし、浅ましいとか気持ち悪いとか思われたかもしれないと血の気が引く。

「敏感な子ね」

ふふ、と楠木さんが艶やかな笑みを浮かべる。その顔があまりに綺麗で息を飲んで固まっていると、ふくらはぎを撫でていた手がすす、と上がって、ひざ掛けに隠されていた私の膝裏まで這い上がっていく。

「ひゃっ」

関節の裏側は皮膚が薄いし、人から触れられるとこが無いせいか、そこに他人の指があるという感触が未知すぎて処理が追いつかない。窪んだ部分を爪がくすぐる様に撫でていくと、むず痒さとくすぐったさと、熱が広がるような不思議な感覚がそこからじわじわと広がっていく。

「ここもね、時々マッサージしてあげなきゃだめよ。血のめぐりが悪くなっちゃうの」
「は、はい」

あくまでマッサージだと微笑む楠木さんの瞳はちょっと意地悪だ。本当なのかからかわれているのか判断が付かない。膝裏をくすぐっていた指先が滑ってふくらはぎへと戻ってきた。ほっと息をついたのもつかの間、ふくらはぎを四本の爪先でゆっくりと引っ掻くようにソフトに撫でられてしまう。

「ひぃんっ」

また、甘えてた声が出てしまう。只のマッサージなのに、こんな声が出てしまっていいのだろうか。

「くすぐったい?」
「ちょ、ちょっとだけ」
「我慢してね。ちゃんと気持ちよくしてあげるから」

にっこりとほほ笑んだ楠木さんの顔は綺麗で、胸の奥が苦しくなる位。オネェさんでなかったら恋してただろうな、とぼんやり見惚れている間に、またクリームが増やされて、ふくらはぎから足の裏まで丹念に揉みあげられた。ぬちゃぬちゃと肌に吸い込まれきれないクリームが音を立てて、なんだかちょっとだけえっちだ。
足指の間に指が滑り込んでぬるぬると抜き差しされると、やはり誰かに触れてもらう事などない指の間の敏感な皮膚に与えられる刺激に、何とも言えない痺れが足先から広がっていく。

「んんっ」

ぶるりと背中が震えて仰け反る。ただ、足をマッサージされているだけなのに、こんな気持ちになるのは正しい事なのだろうか。疲れすぎていて、正常な考えが出来ない私は成すがままに足を弄ばれ、身をよじる。楠木さんはそんな私をじっと見つめたまま、楽しそうに口元で弧を描いていた。

「かわいい」
「え?」

からかわれているのだと気が付いて、恥ずかしさで顔が痛い。

「じゃあ、次は左ね」

ようやく右足が解放されるが、今度は左足も同様にしつこいほどのマッサージをされてしまった。

「ん、んっ」

的確な強さと刺激で確かに足の疲労感はどこかへ行ってしまったが、時々悪戯な動きで私の身体はあらぬ反応をしてしまう。人から触れられるという経験値が圧倒的に足りないせいだと、情けなくて恥ずかしかった。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

訳あって、お見合いした推しに激似のクールな美容外科医と利害一致のソロ活婚をしたはずが溺愛婚になりました

羽村 美海
恋愛
【タイトルがどうもしっくりこなくて変更しました<(_ _)>】 狂言界の名門として知られる高邑家の娘として生を受けた杏璃は、『イケメン狂言師』として人気の双子の従兄に蝶よ花よと可愛がられてきた。 過干渉気味な従兄のおかげで異性と出会う機会もなく、退屈な日常を過ごしていた。 いつか恋愛小説やコミックスに登場するヒーローのような素敵な相手が現れて、退屈な日常から連れ出してくれるかも……なんて夢見てきた。 だが待っていたのは、理想の王子様像そのもののアニキャラ『氷のプリンス』との出会いだった。 以来、保育士として働く傍ら、ソロ活と称して推し活を満喫中。 そんな杏璃の元に突如縁談話が舞い込んでくるのだが、見合い当日、相手にドタキャンされてしまう。 そこに現れたのが、なんと推し――氷のプリンスにそっくりな美容外科医・鷹村央輔だった。 しかも見合い相手にドタキャンされたという。 ――これはきっと夢に違いない。 そう思っていた矢先、伯母の提案により央輔と見合いをすることになり、それがきっかけで利害一致のソロ活婚をすることに。 確かに麗しい美貌なんかソックリだけど、無表情で無愛想だし、理想なのは見かけだけ。絶対に好きになんかならない。そう思っていたのに……。推しに激似の甘い美貌で情熱的に迫られて、身も心も甘く淫らに蕩かされる。お見合いから始まるじれあまラブストーリー! ✧• ───── ✾ ───── •✧ ✿高邑杏璃・タカムラアンリ(23) 狂言界の名門として知られる高邑家のお嬢様、人間国宝の孫、推し一筋の保育士、オシャレに興味のない残念女子 ✿鷹村央輔・タカムラオウスケ(33) 業界ナンバーワン鷹村美容整形クリニックの副院長、実は財閥系企業・鷹村グループの御曹司、アニキャラ・氷のプリンスに似たクールな容貌のせいで『美容界の氷のプリンス』と呼ばれている、ある事情からソロ活を満喫中 ✧• ───── ✾ ───── •✧ ※R描写には章題に『※』表記 ※この作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません ※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。 ✿エブリスタ様にて初公開23.10.18✿

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...