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本編

第十話 ズタズタな心②

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 愛しいアリア

 義父上からアリアが体調を崩して寝込んでいる事を聞いたよ。
 茶会の日、やはり体調が悪かったんだね。私がアリアの体調不良にもっと早く気付いてあげられたら良かった。
 本当にすまなかった。
 アリアに会えた事が嬉し体調がよくなったら是非お見舞いに行かせてほしい。返事は急がないから書ける時に手紙をくれると嬉しい。

 一日でも早くアリアが元気になりますように。願いを込めて。

 アイザック


 アイザック様から届いた手紙は私を心配している誠実な婚約者そのものだった。
 あんな光景を見てしまった後だからだろうか?
 何事もなかったかの様に振る舞う婚約者を、一般的な婚約者はどんな想いで受け止めるんだろうか?
 怒ったり悲しんだりするのだろうか……。
 私には愛してもいない婚約者にどこまでも誠実に接してくれる彼に対し、悲しみや怒りよりも今は申し訳なさが先に立った。
 そして次にエミリーから届いた手紙を読み進めた私は、書かれているその内容に言葉を失ってしまった。



 大好きなアリア

 体調を崩したと聞いたけど、大丈夫?私とっても心配しているのよ。
 本当は明後日アリアの屋敷にお邪魔する予定だったんだけど、体調が悪いなら日を改めるわね。
 そうそう!そう言えば、私最近とっても“幸せな事”があったのよ♪♪
 アリアの体調が良くなったら聞いてほしい話が山程あるんだから!
 だから1日でも早く体調が良くなる事を祈っているわ。
 お大事に。連絡待ってるわね!

 エミリー



 (幸せな事……)


 今の私にはその言葉が意味する事は、あの日の茶会で見た二人が抱きしめ合う光景を指しているとしか思えなかった。
 それに示し合わせたかのように同じ日に届いた私宛の手紙。
 私はあの日二人が強く抱きしめ合っていた光景が再び目に浮かんだ。


 (こんな風に二人で私を牽制しなくてもいいのに……)


 体調を崩して目が覚めてから、不思議と涙が出てこなくなってしまった。
 これだけ心が何度もナイフで刺されたかの様に傷付きダラダラと大量の血を流しているのに、不思議と私自身は凪いでいた。


 (私さえいなければ、アイザック様はエミリーと幸せになれるのよね)


 エミリーは男爵令嬢だけれど、アイザック様は侯爵家の人間だ。本当に愛する人がいるならば、多少の無理は押し通す事が出来る。
 私という障害物さえいなければ、二人は結ばれる可能性だってある。
 私自身が婚約解消を望んでいても、私の貴族令嬢という立場が、そして父が許してはくれない。
 私一人ではどうする事も出来ないこの状況に、心に影が差したような陰鬱とした気分になった私は、手紙を畳み急いでベッドに横になった。


「お嬢様、」
「ごめんなさいノーラ。やっぱり少し休む事にするわ」



 もう今は何も見たくも考えたくもない。
 私は現実から目を背けるように、それ以来自然と自室に篭る時間が増えていった。
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