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本編
第十一話 それは偶然だった①
しおりを挟むこうしていつまでも子供のように駄々をこね引き篭もっても、結局目の前の現実から逃げる事も叶わなかった私の心には虚しさだけが残った。
ただ無駄に時間だけが過ぎていき、いつしか私はいつまでもこんな生活を続けていてはいけないと思い始めた。
そしてその日、本当に久しぶりに図書室に足を運んでみる事にした。
久しぶりに見る自室以外の景色はとても新鮮で、私の目にはまるで初めて見るような光景に映った。
図書室に着き、どんな本を読もうか考えながら本棚を見ていくと部屋の隅にある棚の上段に、この場所には不釣り合いな一冊の本が置かれていた。
我が家の図書室はきちんと管理者がいるから、埃を被った書物は一つもないはずなのに。
でもその本は随分と薄汚れ埃も積っていてお世辞にも綺麗とは言えない状態だった。
今まで誰にも気付かれた事がなかったかのように、埃まみれの本は静かにその場所に佇んでいる。
でも私は、その本にどうしてだか強烈に目を引かれた。
ただの本なのに。明らかに周りにある本とは存在感が違ったのだ。埃まみれの本にしては神々しさすら感じ、気付けば私は吸い寄せられるようにその本に向かい足を進めていた。
黒い背表紙に金のような色で文字が書かれているが、汚れが酷く目を凝らして見ても書かれている文字を上手く読む事が出来ない。
自分の意思ではない何かに導かれるようにその本へ自然と手を伸ばしてみると、触れた瞬間ほんの一瞬だがうっすらと光ったような気がした。
そのたった一瞬の出来事に私は目の錯覚かと瞬きをするも、もう光は消え手元には先程と同じ薄汚れた本があるだけだった。
私は心の赴くまま軽く埃を落とすと、適当な本と一緒にこっそり自室に持ち帰る事にした。
何故かいつもより心臓の鼓動が早く、私は酷く気分が高揚していた。
そしてこの本を持っている事を絶対に人に見つかってはいけないという衝動にも駆られた。
経験した事のない緊張感の中滑り込むように自室に入り、人払いをしてからそっと本の背表紙に触れ慎重に埃を落としていく。
背表紙はかなり埃まみれで薄汚れていたのに対し、中身は真逆で文字が薄くなっている事もなくまるで新品のような綺麗さだった。
一ページ一ページゆっくりめくり、夢中で読み進めていたからなのか読み終わる頃には部屋の中は薄暗く肌寒さすら感じる時間になっていた。それでも今の私にはむしろその肌寒い気温が丁度良く感じていた。
読み終わった本をそっと膝に置き、先ほどまで読んでいたその衝撃の内容に思わず言葉が口を衝いて出ていた。
「悪魔の召喚……」
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