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本編

第九話 ズタズタな心①

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「お嬢様、だいぶ顔色も良くなりましたね。ノーラは安心しました」
「そうね、体調が良くなったのは看病してくれたノーラのお陰よ。ありがとうノーラ」
「お礼なんて言わないで下さい。大事なお嬢様が元気になるのならノーラは寝ないで看病してもへっちゃらです!」

 そう笑顔で胸を張るノーラに、自身の弱さで寝込んでしまった事に対する申し訳なさと、こんなにも慕ってくれる人が側にいてくれる事の嬉しさで、私は心が押し潰されそうになった。

 あの父と話をした日の翌日、私は本当に体調を崩してしまいしばらく動く事が出来なくなってしまった。
 あの日たった数時間で様々な事が起こり、体だけでなく心もかなり疲労したようで結局回復するまでに何日もかかってしまった。

 寝込んでいる間あの二人が微笑み合い寄り添っている夢を、何度も繰り返し見ていた私は目が覚めると度々泣いている事があった。
 目を覚ましても今が夢なのか現実なのか区別が付かず、近くに控えていたノーラに大丈夫だと手を握られ優しく声をかけてもらい、ようやく落ち着きを取り戻す事が出来ていた。

 そしてやっと上体を起こせるまでに回復した私は、今日から少しづつリハビリの為に身体を動かしていく練習をする事になっている。
 本当に日に日に体調も良くなってきているのが自分でも分かった。
 こうして他愛のない話が出来るまでに回復したのもノーラの献身的な看病のお陰だった。

「お嬢様、少しづつ元の食事に戻る事が出来る様に精一杯このノーラがお手伝いさせていただきますね」
「ふふっ、ノーラが居れば安心ね」
「はい、是非お任せ下さい!では、お嬢様。まずはお医者様から許可が降りたミルク粥から始めていきましょうね」
「ええ、分かったわ」

 正直今の私はノーラの明るさに救われていた。こうして明るく振る舞ってくれるノーラといるとアイザック様と父の一件を少しでも忘れる事が出来たからだった。
 ゆっくり時間をかけミルク粥を食べ終わった私がベッドに上体を起こしたまま寛いでいると、片付けから戻ってきたノーラが何やら躊躇うように手を前で動かしているのが視界に移った。その仕草から何となく言いたい事が分かってしまった私は、ノーラが話しやすい様にこちらから声をかける事にした。

「ノーラ言ってもいいのよ」
「で、ですがお嬢様はまだ体調が万全ではありませんし」
「ノーラのお陰でだいぶ良くなったから大丈夫よ」
「実はその、昨日お嬢様宛に手紙が届いたのです」
「……アイザック様から?」
「アイザック様と……エミリー様からです」
「……」
「お嬢様、やっぱり」
「いいえ、大丈夫よ。その手紙を持ってきてくれる?」

 無理矢理笑顔を作った私にノーラは何か言いたそうな表情をしていたが、正直今は何も聞かれたくなかった私は無理矢理笑顔を貼り付けたまま手紙を受け取り、深呼吸をしてから開封し読み進めた。
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