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第6章 退学のピンチ!

(7)つかまえた!

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 外は思っていたより明るかった。満月のおかげだ。もうすっかり、使い魔もロゼの姿も見えない。それでもわたしは、迷わず目的地に向かって走っていた。

(急がないと!)

 家から三つ路地を進んで、ひとつの長い階段をのぼって、その先の角を曲がる。そこにあるのは、四つの細い道が交差する地点。よし、間に合った!

 わたしは、ふうっと息を吸い込む。目を閉じて、耳を澄ませた。夜は静かだ。風が草をなでる音。虫の鳴き声。ふだん気にしない音も、ぜんぶ聞こえる。ずっと遠くで聞こえる車の音、わたしの、すこし速い胸の音。

 それから――、右の道から近づいてくる足音!

「うん、予定通り!」

 暗闇から、小さな黒い影が駆けてくる。それを追いかける男の子の姿も見えた。

「リリイ! 行ったよ!」
「オッケー!」

 わたしは腕をいっぱい広げる。うん、大丈夫、いける!

「……はーい、つかまえたーっ!」

 走ってくる黒い影を、腕の中にぼすん、と、しっかりキャッチ!

「もう逃げられないからね!」

 腕の中を見ると、黒いツヤツヤな毛並みをした猫が、ふすーっと鼻を鳴らした。見た目は、ふつうの黒猫だ。かわいい……。

「って、ちょっと、暴れないで!」

 黒猫は、ジタバタと手足を動かす。悲鳴を上げたわたしから、ロゼはひょいっと猫をつまみあげた。

「まったく、手間がかかるなあ。おとなしくしててくれる?」

 じろっとロゼが視線を送れば、猫はとたんにおとなしくなった。というか、おびえているみたいだ。……わかるよ、悪魔ににらまれたときの怖さ。かわいそうになって、わたしはそっと黒猫ののどもとをなでる。

 ……でもこの子、わたしに悪夢を見せたんだよね。やっぱり、ちょっと恨めしい。

「うまくいったね。リリイのおかげだよ。ありがとう」

 ロゼはわたしを見て、ふわりとほほ笑んだ。うっ、王子スマイルだ。ちょっとどきっとしちゃって、恥ずかしい。相手は友だちのロゼなのにね。どきっ、じゃないよ、わたし!

 あわてて、ぶんぶんと首をふる。

「ロゼがうまく追い詰めてくれたからだよ。けっこう走り回ってもらったのに、ロゼってば、息切れもしてないし。すごいね」
「魔法で身体能力を上げたからね。これくらいは余裕かな」

 ロゼは涼しい顔だ。へえ、魔法って、ほんとに便利。

「でも、リリイもすごいよ。使い魔の走る道を予想するなんて。未来を読む魔法みたいだ」
「いやいや、わたしのは、そんなにすごいものじゃないよ」

 ロゼにはあらかじめ、どこをどう走って使い魔を追い詰めてほしいか、伝えてあった。で、追い詰めた先に、わたしが待機していたんだよ。でもこれは魔法でもなんでもない。

「うちのチョコがね、むかし、よく脱走してたんだ」
「ああ、あのわんちゃん?」
「そうそう。チョコが逃げるとね、さっきロゼが走ってきた道を、わたしも同じように走ったんだ」

 この迷路で追いかけっこする必勝法なんだ。あのルートなら、追い詰められる。脱走するチョコを追いかけた経験が、ここで役に立つとは思わなかった。
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