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第4章 迷いの森で、実践授業!
(4)負けない
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「リリイ、平気?」
ロゼが心配そうにわたしを見つめる。それから、キッとイエローさんをにらんだ。
「イエローベリルさん! こんな強力な魔法、危ないでしょう!」
だけどイエローさんは、けろっとしてふり返る。
「あら、平気よ。うちのシトリンが守ってあげたでしょう? なにも問題ないじゃない」
「でも、リリイが怖がってるわ」
「あらあら。これくらいのことで怖がるなんて、見た目はかっこいいのに小心者ね」
ぎくっとわたしの肩が揺れた。
……正直、めちゃくちゃ怖かった。生け垣を吹き飛ばした、イエローさんの魔法が。それにイエローさん、わたしが怪我をするかもなんて心配、してないみたいだったし。わたしがどうなってもいいってこと? クラスメイトなのに……?
「まったく、仕方ないですわね。ほら、どうぞ?」
イエローさんがため息をついて、手を差し出してくる。でもわたしは、その手を取っていいのか戸惑う。
(悪魔ってやっぱり、ものすごく怖い子たちなんじゃないの?)
どっどっど、って、心臓がうるさい。まぶたの裏に、さっきの魔法が焼きついてる――。
「いや~、すみませんね、うちのお嬢、ちょーっと言葉が足りないくせに、余計なことは言っちゃう、困った方でして」
のんびりした声が、わたしたちの緊張した空気に割って入った。シトリンだ。
「でも、おかげで校舎が見えたし、結果オーライってことで、お許しを。いきましょ~?」
あ、本当だ。たしかに森の奥に校舎が現れていた。これなら帰れそうだ。
「ちょっとシトリン、主人に対してぞんざいじゃなくって? なんですの、困った方って!」
「はいはい~。いきますよ、お嬢」
はははっと笑うシトリンに背中をおされて、イエローさんは騒ぎながらも歩いて行く。残されたわたしに、今度はロゼが手を差し出した。
「リリイ、立てる? ……ごめんなさい、怖かったかしら?」
ひやりと冷たい手をとって、「ありがとう」と立ち上がった。
怖かったのは、事実だ。悪魔の生徒と比べて、人間のわたしは弱い。それを、見せつけられた気がした。
(あああ、ダメだ。弱気になってきたかも。でも、ロゼに迷惑はかけたくない!)
「だ、大丈夫。こんなの、ぜんぜん平気だよ。うん、大丈夫!」
ぱちんと頬を叩いて、なんとか笑ってみせた。でも。
「……ねえ、リリイ。無理はしなくていいのよ。怖かったんでしょう?」
ふいに、ロゼがわたしをじっと見つめた。……全部、お見通しみたいな目だ。うそをついても、仕方ないのかも。
「……まあ、うん。ちょっとだけ、怖かったかな」
「そうよね。あのね、リリイ」
「うん?」
「わたし、この前、リリイがわたしのために頑張るって言ってくれて、本当にうれしかったのよ」
「この前って、ダンスの練習をしていたときのこと?」
「ええ。だからね、今度はわたしが、リリイを守ってあげる」
ぎゅうっと、しっかり手をにぎられる。ちょっと痛い、けど。
「だから安心して。怖いことなんて、なにもないわ」
ロゼは、にこりとほほ笑んだ。
……なんだろう。この感じ。笑顔がやさしくて、にぎってくれる手が心強くて。気持ちがふっとゆるむ。ロゼがいれば、大丈夫。そんな気がしてくるんだ。
「……ありがとう、ロゼ。ちょっと元気出たかも」
わたしが笑うと、ロゼも安心したみたいに、空気をふわっとやわらかくさせた。
「いいの、これくらい当然よ。……それに、リリイをいじめていいのは、ご主人さまのわたしだけだもの。他人には手出しさせないわ」
……おっと?
「なにそれ。結局わたし、いじめられるの? 感動台無し!」
「だってリリイ、かわいいから、いじめたくなっちゃうのよ」
ふふっとロゼが笑い声を上げる。わたしも、なんだか笑っちゃう。怖いこと言っても、きっとロゼは、わたしが本当に嫌がることはしないと思うんだよね。
「あなたたちー。いつまでそこにいるつもりですのー? 早く来てくれないかしらー?」
遠くで、イエローさんが手をぶんぶんふっている。
「もう、だれのせいだと思ってるのかしら。わたし、イエローさん、ちょっと苦手だわ」
ロゼがぷくりと頬をふくらませた。
「ほんとにね。……でも、いこっか」
こんなことで、おびえてなんていられないよね。頑張らないと。
イエローさんのおかげで迷路は抜け出せたし。空はちょっと暗くなってきてるけど、なんとか時間内に帰れそうだ。よかった。
――と思ったんだけど、まだまだ、授業は終わらないらしい。
ロゼが心配そうにわたしを見つめる。それから、キッとイエローさんをにらんだ。
「イエローベリルさん! こんな強力な魔法、危ないでしょう!」
だけどイエローさんは、けろっとしてふり返る。
「あら、平気よ。うちのシトリンが守ってあげたでしょう? なにも問題ないじゃない」
「でも、リリイが怖がってるわ」
「あらあら。これくらいのことで怖がるなんて、見た目はかっこいいのに小心者ね」
ぎくっとわたしの肩が揺れた。
……正直、めちゃくちゃ怖かった。生け垣を吹き飛ばした、イエローさんの魔法が。それにイエローさん、わたしが怪我をするかもなんて心配、してないみたいだったし。わたしがどうなってもいいってこと? クラスメイトなのに……?
「まったく、仕方ないですわね。ほら、どうぞ?」
イエローさんがため息をついて、手を差し出してくる。でもわたしは、その手を取っていいのか戸惑う。
(悪魔ってやっぱり、ものすごく怖い子たちなんじゃないの?)
どっどっど、って、心臓がうるさい。まぶたの裏に、さっきの魔法が焼きついてる――。
「いや~、すみませんね、うちのお嬢、ちょーっと言葉が足りないくせに、余計なことは言っちゃう、困った方でして」
のんびりした声が、わたしたちの緊張した空気に割って入った。シトリンだ。
「でも、おかげで校舎が見えたし、結果オーライってことで、お許しを。いきましょ~?」
あ、本当だ。たしかに森の奥に校舎が現れていた。これなら帰れそうだ。
「ちょっとシトリン、主人に対してぞんざいじゃなくって? なんですの、困った方って!」
「はいはい~。いきますよ、お嬢」
はははっと笑うシトリンに背中をおされて、イエローさんは騒ぎながらも歩いて行く。残されたわたしに、今度はロゼが手を差し出した。
「リリイ、立てる? ……ごめんなさい、怖かったかしら?」
ひやりと冷たい手をとって、「ありがとう」と立ち上がった。
怖かったのは、事実だ。悪魔の生徒と比べて、人間のわたしは弱い。それを、見せつけられた気がした。
(あああ、ダメだ。弱気になってきたかも。でも、ロゼに迷惑はかけたくない!)
「だ、大丈夫。こんなの、ぜんぜん平気だよ。うん、大丈夫!」
ぱちんと頬を叩いて、なんとか笑ってみせた。でも。
「……ねえ、リリイ。無理はしなくていいのよ。怖かったんでしょう?」
ふいに、ロゼがわたしをじっと見つめた。……全部、お見通しみたいな目だ。うそをついても、仕方ないのかも。
「……まあ、うん。ちょっとだけ、怖かったかな」
「そうよね。あのね、リリイ」
「うん?」
「わたし、この前、リリイがわたしのために頑張るって言ってくれて、本当にうれしかったのよ」
「この前って、ダンスの練習をしていたときのこと?」
「ええ。だからね、今度はわたしが、リリイを守ってあげる」
ぎゅうっと、しっかり手をにぎられる。ちょっと痛い、けど。
「だから安心して。怖いことなんて、なにもないわ」
ロゼは、にこりとほほ笑んだ。
……なんだろう。この感じ。笑顔がやさしくて、にぎってくれる手が心強くて。気持ちがふっとゆるむ。ロゼがいれば、大丈夫。そんな気がしてくるんだ。
「……ありがとう、ロゼ。ちょっと元気出たかも」
わたしが笑うと、ロゼも安心したみたいに、空気をふわっとやわらかくさせた。
「いいの、これくらい当然よ。……それに、リリイをいじめていいのは、ご主人さまのわたしだけだもの。他人には手出しさせないわ」
……おっと?
「なにそれ。結局わたし、いじめられるの? 感動台無し!」
「だってリリイ、かわいいから、いじめたくなっちゃうのよ」
ふふっとロゼが笑い声を上げる。わたしも、なんだか笑っちゃう。怖いこと言っても、きっとロゼは、わたしが本当に嫌がることはしないと思うんだよね。
「あなたたちー。いつまでそこにいるつもりですのー? 早く来てくれないかしらー?」
遠くで、イエローさんが手をぶんぶんふっている。
「もう、だれのせいだと思ってるのかしら。わたし、イエローさん、ちょっと苦手だわ」
ロゼがぷくりと頬をふくらませた。
「ほんとにね。……でも、いこっか」
こんなことで、おびえてなんていられないよね。頑張らないと。
イエローさんのおかげで迷路は抜け出せたし。空はちょっと暗くなってきてるけど、なんとか時間内に帰れそうだ。よかった。
――と思ったんだけど、まだまだ、授業は終わらないらしい。
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