悪魔さまの言うとおり～わたし、執事になります⁉︎～

第4章 迷いの森で、実践授業！

（5）美しい獣

「な、なんですの、あれ！」

　迷路を抜けて校舎に向けて歩いて、十分くらい経ったときだ。イエローさんが、目を丸めて「ほら、あれ！」と指でなにかを示した。今度はなに？

（わ、なにあれ。きれい……！）

　そこにいたのは、一頭の動物だった。キツネに似てる。でも、わたしよりずっと大きくて、背中には鳥みたいな翼がある。毛並みは銀色。日暮れの薄暗い中でも、きらきらとまぶしくて、……きれいだ。

　でも、わたしたちを見て、歯をむき出しにしながら、低くうなっている。

「シルバーフォックスね。魔界動物よ。美しいけれど気性が荒いの」

　ロゼが眉を寄せて言った。

「えーっと、魔界に住んでる動物ってこと？　凶暴なの？」
「『魔犬』や『魔鳥』と比べるとましだけれど……、凶暴だと思っていいわ」

　なにそれ、怖そう。だけど、シトリンは笑った。

「大丈夫だよ～、リリイ。魔犬みたいな本当に怖いのは、この森にいないから。上級生の授業のために、たまーに連れてくることはあるらしいけど。……それにシルバーフォックスはまだ安全。こっちが不用意に近づかなきゃ襲ってこないしね」
「あ、そうなんだ。よかった」
「だけど、あのシルバーフォックスは子どもだね。どうしてこんなところにいるのかな～。彼らは耳がいいから、悪魔のいる場所には普通、近づかないんだけど」

　シトリンの言葉に、イエローさんが首をかしげた。

「これもソフィ先生の罠ってことですの？」
「いえいえ、お嬢。ぼくたちの授業でシルバーフォックスは使わないと思いますよ。ましなほうとはいえ、危険ですし。ていうかあの子、怪我してますね」

　あ、ほんとだ！　よく見ると、身体がふらふらと揺れている。胸のあたりの毛並みも、土と血で汚れていた。……ひどい怪我かも。

　じっと観察していたロゼが、くちびるに指をそえてつぶやいた。

「あの怪我、魔力の痕跡がある。生徒のだれかが、攻撃魔法をかけたのかもしれないわね」
「え、攻撃魔法？　それって……」

　ついさっき見た、イエローさんの攻撃魔法を思い出す。この子は、あんな怖い魔法で怪我をしたってこと？　そんな。