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12、好きです
しおりを挟む「え? あの……な……んで……」
しどろもどろになっている私の頬に、ロード侯爵の指先が触れた。
「痕が消えて本当に良かったが、残っていても美しかった。ジュランは、俺が君のことを好きだと知りながら、君に近付いた」
頬から指を離すと、ロード侯爵は悲しそうな顔をして下を向いた。
「ジュラン様よりも先に、私をご存知だったのですか?」
「知っていた。君とジュランが初めて会った夜会で、俺は君に想いを伝えるつもりだった。あいつもそれを知っていたのに、君に一目惚れをし、先に想いを伝えた」
「そんなこと、全く知りませんでした……」
悲しそうな目で、私を見つめるロード侯爵。私は彼を、ずっと傷付けていたようだ。
「君をジュランには渡したくなかった。俺が好きだからという気持ちもあったが、何よりジュランは女性にだらしなかったから。だが、ジュランに惹かれていく君を見ていると、何も言えなかった」
だからあの時、『俺は嫌われているからね』と言っていたのか。私のせいで、2人の友情は壊れていた。何も知らずに、彼を傷付けていたことに胸が傷んだ。
「私……知らないうちに、ロード侯爵に酷いことをしていたのですね」
「酷いことをされた覚えはないよ。俺は、君に出会って救われたんだ。君は、覚えてはいないようだけどね」
悲しそうな顔をして下を向いていたロード侯爵の表情が、少しだけ明るくなったような気がする。
「10年前、俺は両親を事故でいっぺんになくし、川辺で1人で泣いていた。その時、慰めてくれた小さな女の子がいたんだ。その子は、好きなだけ泣いていいと、ずっと隣に座って背中を撫でてくれていた。そのおかげで、俺はひとりじゃないと思えた。あの日出会った小さな女の子に、俺は救われたんだ」
その時のこと、覚えてる。泣いていた男の子が、ロード侯爵だったなんて……
「あの日以来、俺は君に夢中なんだ」
心臓が、バクバクして苦しい。
知らなかったとはいえ、ロード侯爵を……ハンク様を傷付けていた私が、彼を愛してもいいのだろうか……
そう思っても、この想いを止めることは出来そうにない。
「ハンク様が、好きです」
ハンク様は予想していなかったのか、目を見開いて驚いている。
“好き”と口にしたことで、想いが溢れだしてくる。
「私のせいで、沢山傷付けてごめんなさい。私の為に、色々してくれてありがとうございます。こんな私を、好きになってくれてありがとう……ハンク様が、愛しい……」
言い終わると同時に、ハンク様の腕に包まれていた。ハンク様の温もりに包まれながら、背中に腕を回す。
「やっと、捕まえた……」
耳元で囁かれ、顔が一気に熱くなった。
こんなに幸せな気持ちになったのは、何時ぶりだろう。すごくドキドキするのに、心地良い。
このまま時が、止まってしまえばいいのに……
幸せな時間はあっという間に過ぎ、馬車は夜会が開かれる会場へと到着した。
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