〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな

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11、ずっと前から……

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 馬車の前には、ロード侯爵が立っている。
 この状況が把握出来ずに、立ち止まったまま動けずにいると、ロード侯爵がこちらに向かって歩いて来る。

 どうしたらいいのか分からずに、隣に立っているレイバンの顔を見る。

 「ジュランのことを調べてくださったのは、団長だよ。姉さんの助けになりたいと、俺に頭を下げたんだ。ずっと姉さんを想い、影で支えてくれた方だ。エスコートしてもらうのに、ピッタリだろう?」

 ずっと遠ざけていたはずのロード侯爵が、私の為に動いてくださっていたなんて……

 私の前で立ち止まったロード侯爵は、手を差し出してにっこりと笑った。
  
 「俺にエスコートさせてくれませんか?」

 無意識に、その手を掴んでいた。その手は熱を帯びていく。
 ロード侯爵の気持ちが同情だとしても、私の気持ちはハッキリしていた。ロード侯爵と、それほど親しかったわけではないし、お会いした回数も多くはない。それでも私の心は、彼でいっぱいになっていた。
 ロード侯爵は、私に勇気を与えてくれた人だ。彼に命を救われ、心を救われた。
 
 「よろしくお願いします」

 私の返事に、嬉しそうにはにかむロード侯爵。初めて見る姿に、ドキドキする。
 これからジュラン様に、復讐しようとしているくせに、まるで少女に戻ったみたいに浮かれている。
 これから私がすることを目の当たりにしたら、ロード侯爵に幻滅されるかもしれない。それでも、私が前に進むためにはこうするしかない。

 ロード侯爵が用意してくださった馬車に乗り込み、夜会が行われる会場へと出発する。
 ロード侯爵が目の前に座っているのが、まだ信じられない。恥ずかしさからか、顔を見ることが出来ない。

 「ずっと目を合わせてくれない気か?」

 私の目を見ようと、顔を覗き込まれて心臓の鼓動が跳ね上がる。

 「……こんなに長い時間、ロード侯爵とご一緒するのは初めてで、戸惑っています」

 今までは、ジュラン様の友人として接して来た。自分の気持ちに気付いてしまったから、これからどう接していいのか分からずにいる。

 「俺が、怖いか?」

 「怖くなんてありません!」

 即答した私を見て、ロード侯爵はクスクスと笑っている。

 「やっと顔を見てくれたね」

 あんなに顔を見るのが恥ずかしかったのに、今は彼から目を離すことが出来ない。
 大きな藍色の瞳に、形のいい唇。白い肌に、銀色の短髪で、誰もが見惚れてしまう程美しい。ジュラン様以外見ていなかった私の目に、今はとても美しい男性が映っている。

 「惚れた?」

 からかうように言ったロード侯爵の言葉に、思わず頷いてしまいそうになった。
 冗談で言っているのだから、本気で答えてしまったら引かれてしまう。

 「ロード侯爵の方こそ、私に惚れました?」

 冗談を冗談で返したつもりだった……

 「惚れてる。ずっと前から」

 思いもよらなかった返事が返ってきた。

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