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人族イーアス編

Chapter 139 オリジナル

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 巨大な門がある場所に到着した。ちょうど花園の真ん中で円形の広場の真ん中にある。

 ちなみに【伏魔殿パンデモニウム】が発動される前と後では、違う点が二つある……。

 一つ目は、門が開いていたのに今は固く閉じていること。
 二つ目は門の手前で七~八歳くらいの男の子が玉遊びをしていること……。

 男の子は髪と瞳が黒色で、黄色肌、髪型が特徴的で、長い髪の毛を中央でわけ、左右の耳の横に紐で丸く結った髪型で見たことのない髪型をしている……。

 どう考えてもおかしいよね……。こんな魔物が溢れるところで人の子が玉遊びしてるなんて……。でも、ほら、イーアスがザ・ナート様の【幻想劇場ファンタジーシアター】で鉄塔の上で紛れ込んだ男の子と女の子がいたし……絶対とは言い切れないけど、この目の前の男の子は明らかに怪しい……、そもそもこんな状況で普通遊べる?

 皆、少し離れたところで周囲を警戒しながらヴァンが分身体を作り、分身体が男の子に近づいていく。

「よお、坊主! こんなところで一人で、なんで遊んでんの?」

 ヴァン分身体は爽やかに男の子に質問する……この辺りは流石と言わざるを得ない。ヴァン分身体に話しかけられた黒髪の男の子は持っている玉をポンポンっと地面について手毬唄を口ずさみ始めた。

「ほーろほろ、ほーろほろ、烟をお食べ♪ 玉兎をお食べ♪ 大きくなーれ♪ 大きくなーれ♪」
「おらよ!」

 ヴァンの分身体が、黒髪の男の子がついている玉を横から蹴り飛ばして門の方に転がした。

「あっ、悪りぃ、ついつい蹴っちゃったよ坊主……人の話はちゃんと聞こう。な?」

 玉を手で弾ませていたので下に向いていた男の子の顔がゆっくりと自分より背の高いヴァンの分身体を下から睨み上げる。

「なんだ坊主? 玉を蹴られて気に入らなかったのか? だったら……」『バクッ』

『──ッ⁉』

 ヴァンの分身体が男の子に説法を始めようとしたら、いきなり黒髪の男の子の頭だけが巨大になり、ヴァンの分身体の頭が!?

 やっぱりそうだ……、この子が異神……。

 なぜかは分からないが、【伏魔殿パンデモニウム】が発動される前のあの巨大な手はどこにも無いが、子供の体に不相応な巨大な頭をした『それ』が僕らの前に立っている。

『シュパッ!』──いつ移動したんだろう? いつの間にかマカロニ君が『それ』の真横から斬属性の糸で頭と胴を容易く分離させた。

 凄い戦闘センスだ……、先ほどの下の階からの『砲撃』もマカロニ君考案アイデアのものだったらしい。意識の外からの攻撃は何人も防御不能……、すなわち致命的な一撃となる。

 なにこれ? マカロニ君の【糸】で切断され分離した「頭」と「胴」がそれぞれ形が変わり、黒髪の男の子が二人に増えた!?

 黒髪の男の子の一人がマカロニ君の方にトテトテッと小走りで近寄っていくが、マカロニ君は大仰なくらいに飛び離れて距離を開ける。

「皆、気をつけてねー、ちょっとでも近づくとよー」
「【七色変化レインボーアロー】」

 チャイチャイがもう一人の黒髪の男の子に火、水、土、風、氷、雷、鉄の七つの属性の矢を当てるが、体の部位があちこち消し飛ぶのに、その部分がすぐに「生えて」くる。

「ふむ、切ると、射ると……弱点の属性も見えてこないですね……」

 チャイチャイは近づいてくる男の子から皆と同じように距離を取りながら分析結果を皆に共有する。でも僕たちが使える属性で一つ試していない属性がある……、よしっ。

「よせ、やめろ!」
「【星環ヴェリタス】」星泳力スキル、横薙ぎの光の斬撃を飛ばし男の子に直撃し爆発を引きおこす。

 僕が、スキルを発動、放出する瞬間にヴァンが声で制止したが遅かった……。光は『それ』にとって引き金だったらしい……男の子がみるみるうちに変形、巨大化していく。

 巨大化の過程でもうひとりの男の子も取り込んだ『それ』はあの地下迷宮最下層で激戦を繰り広げた悪魔王デーモンロードにそっくりな姿に変わる。

 え? 悪魔王デーモンロード、そうであれば『光』が弱点なはずなのに……。

(あーあー、今、こっちで解析完了したよ……そいつは悪魔王じゃないね……悪魔王ってのは、とある『もの』がそれを象った模造品、そいつが本物オリジナルみたい……、ちなみにそいつの好物は『光』『闇』、苦手なものは無し……)

 頭の中にザ・ナート様から助言が入ったが、もう少し早く言ってほしかった……、またあとでヴァンが「あの女神、適当過ぎる」と大変不遜なことを言い出すのが目に見える……、それも僕たちが勝てたらの話だけど……。

 悪魔って「とあるもの」が作ったものなんだ……なぜにそんなものをお創りになったんだろう……。試練? 知的生命体の入れ替え? ただの趣味……。

「おーい、イーアス『前』を見ろ!」

 余計なことを考えていると、ヴァンに叱られた。

「あと、皆、何となくだけどまだ『英雄スキル』は使うな、たぶんまだ『先』があるぞ」

 英雄スキル、僕たち一人ひとりに天使様を通じて女神様から与えられた僕たちの〝とっておき〟。

 しかし、英雄スキル無しで悪魔王の姿をしたこの目の前のものに勝てるのだろうか……。

(三〇〇秒切ったよー、急いでー)

 どことなくザ・ナート様の念話の声にも焦りの色がみえた。

『ぽいっ』──『ボオオオオオオオォォ!』

 何かが目の前を横切り、悪魔王の姿をしたものに当たると空間が渦状に捻じれて悪魔王の体の左肩から腰の辺りの半分くらいを消した。

 え? 投げた方向を見るとマカロニ君がいた……これ今使って良かったの? 使って良かったのかよくわからないが、悪魔王だった『それ』はまた形を変容させていく……。

(うぎゃぁぁ黒い玉は『次』に取っとかないとぉぉー)

 ザ・ナート様の声が頭の中で騒いでいる……、ほら……ダメだったみたいだよ?

「なんでー? 今、使わなかったらに行けなかったよー」

 ……確かに他になす術がなかった……というか、黒い玉は最後に使うものとしか思ってなかったから今ここで使うということを誰も思いつかなかった。

 そんなやりとりを仲間内でやっていると『それ』の変形が完了した。これが異神──見た目は、海のタコ……それを醜悪かつ超巨大にしたような姿……。まるで僕らが見えてないかの様に、その図体に似合わず「ヒュン」と城の外に跳んでいった。

「なにする気だ? すぐに後を追うぞ?」

 ヴァンの合図で城のてっぺんから皆、跳躍し巨大蛸の後を追った。

 ★

『ズドッ』──八本の脚の股のところから、金属の様な柱が地面に深々と刺さり、「ギュイィィーン」と音を立てて地下へ掘削を始める。

(それ、アカンやつ、誰か止めて!)

 ザ・ナート様が皆の頭の中で念話で叫んでいる。

『ぽいっ』──『ボオオオオオオオォォ!』

 金属の柱を黒い玉で削り地面から剥がすことができた。あれ? マカロニ君……なんで君、黒い玉を二個持ってるの?

 そう思ったら近くにシュンテイさんがいた……さては取られたな?

「イーアス」
「え? なに?」

 また考え事をしている僕にヴァンが声を掛けてくる。

「勝ちゃあいいんだよ、細かいことは気にするな!」

 ヴァンが「にっ」と笑ってそう告げてきた……そうか……、僕もまた思考の束縛に縛られている口か……。

 難しく考えない……ただひたすら、この目の前の『神に等しき』存在に勝つことに僕は集中することに決めた。
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