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人族イーアス編
Chapter 076 お酒はほどほどに
しおりを挟む大地震から三日。
ようやく首都マイティ―ロールに帰ってきたが、地震により古い建物が崩れたり等の被害で、二次被害を及ぼすような危険物は除去し、応急対策は終わったもののまだ国中が浮足立っている。
例の『新しく更新された地下迷宮』は、自分達が撤退してから一日も経たずに大量の魔物があふれ出したみたいで、クレア騎士団を中心に討伐隊の編成を行っており、自分達もすぐに討伐隊に組み込まれる予定とのことだった。クレア騎士団の他に五つの騎士団と騎士見習いも含め、約一〇〇〇人の国軍が編成された。
脅威度は『国家単位相当』で、近隣でさっそく被害が出始めており、ビルドア帝国の国境付近にも近いことから、早急な鎮圧が必要とされている。三日後、地下迷宮から四方八方に散らばった魔物を駆逐しつつ、地下迷宮をぐるっと包囲し、その輪を縮めていく。
地下迷宮より這い出てきた魔物は、通常の魔物の強化種だったため、かなりの被害が出たものの、クレア騎士団と全体を指揮する『赤星アレン』の活躍により、どうにか地上の鎮圧に成功し、そのまま地下迷宮に侵入し第一層内をあらかた魔物を駆逐したところで討伐隊の任務は達成した。
首都マイティ―ロールへの帰りの野営地で、赤星アレンの天幕に呼ばれた。
「君たちが、例の大地震前に変形前の地下迷宮を見たという三人だね?」
赤星アレンがそう問うと、いつも周囲に生意気で不機嫌そうな態度を取っているドリヤンが、カチコチになって返事をする。
「はい、俺が見つけました」
「君がイーアス君?」
赤星アレンは首をかしげる。
「あれ? ナインからは『イーアス君が壁に触れた』から奥の壁が壊れて、黒い函を見つけたと聞いたんだけど?」
「それ…は……。」
ドリヤンはこの自由国オルオのみならず、世界中の人族で最も高名で憧れの存在に褒めてもらおうと『ちょっと』嘘をついたがすぐに墓穴を掘ったことに気付く。
「僕が聞きたいのは『触れたから壁が壊れた』ことなんだ……君がイーアス君かな? ……ってあれ? どこかで会ったかな?」
数年前に村の近くで熊に助けてもらったことがある話をすると、左手を上向きにして右手の拳でポンと叩く。
「あの時の子か⁉ 本当に来たんだね……。 気持ちもあの頃と変わってないのか、凄いね!」
アレンは少し嬉しそうにしながら、天賜品【天眼鏡】を後ろの配下に持ってこさせ、イーアスのステータスを見せてくれと頼んでくる。
「……うん、分かった」
アレンは、イーアスのステータスを確認した後、一人納得し「今日はゆっくり休むといいよ」と告げられ、三人は天幕を後にした。天幕を出て自分達の野営地に戻る途中、ドリヤンがイーアスに食って掛かる。
「てめー雑草、アレン様に媚び売りやがって、このゴマすり野郎め!」
え? ゴマすったように見えた? ドリヤンの方が媚売っているように見えたけど……。
それを指摘すると、また逆上して余計、面倒なことになりそうなので、罵詈雑言を浴びせられるが、放置することにした。
★
数日後、マイティ―ロールの待ち合わせ場所で、ドリアン、ベッキー、イーアスの三人で騎士ナインを待っていたが、いつまで経ってもナインが現れない。お昼に差し掛かったところで、ようやく別のクレア騎士団のメガネを掛けたちょっと貧弱そうな男性の騎士が来た。
彼は「今日は別件で来れなくなったナイン様の代役で来たからよろしくお願いします」と僕たちに丁寧に挨拶してきた。
随分とおどおどしていて、見た目は頼りないように見える。
「それで、今日はどうしましょうか?」
メガネを掛けた騎士が小さな声で聞いてくると普段、ナインの前では、借りてきた小動物のように大人しくしているドリヤンが、急に勢いづく……。
「はあ? アンタ、俺たちの引率なんだから俺たちに聞いてんじゃねぇよ!」
まあ、確かに一理あるけど……そんなに強い言い方をしなくても。メガネを掛けた騎士は、ドリヤンに凄まれてすっかり委縮してしまっている。
「あっ、いや、別に僕は君たちを教えられるような大層な肩書も実力もないし……今日の行動は君たちにお任せしようかなー、なんて思ったりして……」
それを聞いたドリヤンは初め呆けていたが、次第に悪そうな顔になる。
「じゃあ、今日は息抜きで豪華な昼飯だ! でもメシ代は全部、アンタ持ちな?」
「いや、それはちょっと……」
「はあ?」
「あっ、いや……はい、それでいいです……」
この人、この性格でよく騎士団に入れたな……。しばらく町の中を適当に食事ができるお店を探してゆっくり歩いていると、広場で何か催しものがやっているのが目に入った。
集まっている人に背中から声を掛け、何をしているのかその内容を教えてもらうと『バケツでゴー』という葡萄酒の早飲み競争のイベントをやっているそうで、未成年も葡萄酒ではなく、葡萄水で参加ができるそうだ。
「よし、皆で出ようぜっ、俺、一気飲み得意なんだ! なあ、やるよな雑草?」
やらないと答えたら、また後で面倒くさそうなので了承した。メガネ先生もベッキーもオーケーらしい。
ベッキーは「葡萄だけに、勝負どう? なんちゃって~⁉」と、いつもの『発作』が始まったが僕も含めてスルーした。さて、参加手続きをして、しばらく舞台袖で他の出場者を眺めていたら、ようやく僕たち四人の出番になった。
「おい、メガネ先生ぇ、そんなヒョロっちい体で、酒なんて飲めるのか?」
「いえ、僕はお酒はあまり得意じゃなくて」
「ああ? 今更やめるなんて言わないよなぁ?」
「はっ、はい! 飲ませていただきますぅ!?」
うーん、メガネ先生、完全にドリヤンに「なめられて」しまっている。
「はい、それでは皆さん準備はいいですか~! それではよーい、始め」
僕は目の前のバケツに入っている葡萄水に口をつける。うっ、思ったよりキツ!?
「降参!」
飲み始めて三秒でベッキーが白旗を上げた、はやっ!?
(苦しい、もうダメ!!)僕もこれでも結構、頑張ったが半分くらい残った、オエッ、苦しい……。
僕とベッキーが降参し、残るはドリヤンとメガネ先生になった。二人ともほぼ互角で飲み進めていたが、最後に僅差でドリヤンが葡萄水を飲み切り、バケツを高く掲げる。
「よっしゃー、雑魚ども、俺様の偉大さを味わうといい。はっはっはっはっ『ぐひゅ?』」
ドリヤンが勝利に酔いしれ、高笑いしていると、葡萄酒を飲み切った後、下にうつ向いていたメガネ先生に突然、両方のほっぺをボールを握るように片手で潰され、変な声を出す。
「おう、ドリヤンだか『ドリアン』だが果物みたいな名前しやがって……」
完全に目がイッちゃった酔っぱらいができ上がっている。
「ふぇんふぇい先生、ひょっほちょっと、ひはいへす痛いです」
「ぬぁーーーんだぁーとぉぉぉ、俺の注いだのが飲めんっていうのか、ああん?」
あっ……メガネ先生、飲むと変身するタイプだった……たまにいるよね、人格が変わる人……。
ドリヤンとメガネ先生は、なぜか二杯目に突入して、飲み切った後、二人ともバタッと倒れた。
このふたり、どうしよう?
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