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人族イーアス編
Chapter 077 宿敵と書いて、イヤなヤツと呼ぶ
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今日もいつものように騎士団の建物入口でナイン待ちをしていると、ナインが如何にも機嫌悪そうに歩いてくる。
(今日は荒れる……)
「おい、お前たち、今日は合同での実習になった……」
やはり声に険を感じる。何だろう?
「いいか? 一言だけ言っておく……『絶対に負けるな』」
え? 何に負けないようにすればいいんだろう? と疑問を抱いている間に『その答え』がやってきた。
「お──ほっほっほっほっほっほっ、あら? 『不作法、無骨、野暮』の塊のナインさんではいらっしゃいませんか?」
階段の上から現れたのは、桃色と白色の組み合わせで、装飾がふんだんにあしらわれた豪華な鎧になぜか手には扇を持った女性が少し顔をあげ、こちらを見下ろしている。が、階段の上から頭も上に上げているので最早、こちらを見ていない……。
女性の後ろには、見覚えのある見習い騎士の女の子が三人控えている。そのうちの二人は、こちらの班に最初いた女子二人だ。
「クリシュナ……」
ナインは凄くイヤそうな顔をして、彼女を見ている。
「さぁて、そこの貴方達、今日は、私達の班の下僕をやるのよ」
「ふざけるのは大概にしろ! 合同依頼だろう!」
「ええ、そういったつもりよ? 下僕調教でしょ?」
噛み合ってない。いや、向こうに合わせて貰わなくていいと思う……。
クリシュナ……恐らくナインと対等に話してる時点で予想がつく。おそらくナインと同じ『クレアの騎士』のひとり。
「それで~~。むさ苦しいアナタとそこの下僕たちと、私達で今日は何をすればいいのかしら?」
もう僕らを下僕と呼ぶのは、固定になったようだ……。
「お前も聞いているだろう、今日は騎士団と騎士団養成所の町民への印象向上を任せられただろ?」
「あら、そうでしたの? 騎士団の幹部のオジサンの話なんて聞いてませんでしたわ。まあ何するにしても、貴方たち、無骨さんと下僕さんじゃ、私達の足元にも及ばないでしょうねぇ、おほほほっ」
今日、任務で訪問するのは自宅で介護が困難なお年寄りと、夫婦共働きや片親の子どもを預かる幼老複合施設で、子供は老人を労わる気持ちを、老人は子供と触れて活力の創出と双方に利点を生み出すらしく、最近、ここマイティ―ロールでは同様の施設が増え始めている。
施設に着くと最初に施設長の部屋に通され、施設の簡単な説明を教えてもらう。と、突然、クリシュナがある提案をしてきた。
「施設長、どうでしょう? 私達二つの班で、それぞれ何か披露するというのは?」
「ええ、いいですね、じゃあそれでお願いします。」
参加をクリシュナが勝手に決めてしまった。ナインも不服はないらしい。
舞台袖に案内される。これから順番に舞台で、それぞれ何か出し物を披露するという手はずとなったが、先ほどクリシュナがナインに向かって、「拍手の大きさで勝負よ! 無骨なナインさん。まあ、私の班が圧勝だと思いますけど、おっほほほっ」と言ってきたので、先ほどから、参加に不服は無いが、騎士ナインの機嫌はすこぶる悪くみえる。
先にクリシュナ班が、舞台に立つ。
「我ら~の、大地~を、踏~み~し~め~て~♪」
クレア騎士団の行進曲を歌いはじめたが、クリシュナ班の見習い三人は恥ずかしいのか声が小さく全然聞こえない。クリシュナだけ声量が突出してて、ご老人の皆さんは「おー、よく聞こえるのー」と喜んでいるが、小さい子たちは、大声で一心不乱に歌うクリシュナに怯えて、泣き出す子まで出る始末だった。
クリシュナ達の歌が終わると、ぱらぱらと拍手が聞こえた。
「貴方たちは、舞台でスベッて、怒声でも浴びてきなさい」
歌い切ったことで、悦に入ったクリシュナが、霊峰フガクより高い位置から見下ろして、声を掛けてくる。
僕たちがやるのは……。
「みなさーん、こんにちはぁ~、イーアスお兄さんとぉぉ」
「ベッキーお兄さんで、ベッキーお兄さんの隣にいるのが、悪の大魔王ドリヤンだよ」
舞台袖で打ち合わせしている時、ドリヤンが出しもののネタの話に加わろうとしなかったので、立っているだけで強制参加できるよう会話をうまくコントロールする。
ドリヤンは、悪の魔王と呼ばれて『はあ?』という顔になったが、これも計算のうち。くすりっと観客から笑い声が聞こえた。よしよし。
「今日はお兄さんたちと、この自由国オルオに伝わる童謡を歌いながら、お兄さんたちがやることを真似ができるかなー?」
「はぁーーーい!? デキるーー」
小さい子たちが一斉に手を挙げる。それを見ているお年寄りたちは、孫かひ孫を見るように嬉しそうな顔をしている。
「それじゃいくよー」
ベッキーの歌に合わせて、ボクが手遊びをすると、子どもたちは嬉しそうにそれに倣い、お爺ちゃん、お婆ちゃんもやってくれる人がちらほらと出始めた……。こういった手遊び歌は、孤児院でチビ達によくやってあげたものだ。
歌が終わると、大きな拍手をもらった。舞台袖に戻るとクリシュナが、こちらに吠える。
「下僕共、ずるいわよ。子供に取り入って、拍手貰うなんてなんて意地汚い‼」
何を言っているのか意味が分からない……。
「じゃあ今、あそこに出て行って『誰に』子供や老人が寄ってくるか『数』で勝負なさい」
うーん、別にいいけど……。二班とも舞台袖から下に降りて、広がるとほとんど、ボクとベッキーに集まった。
「お兄ちゃん、他にももっと、手遊び教えてー」、「ずるーい、アタシにも教えてー」
輪になって囲まれているイーアスやベッキーを見て、クリシュナがプルプルしていると、女の子が一人クリシュナのところに駆け寄ってきた。
「ア、アラッ……貴方、見込みあるわねー、私のところに来るなんて」
「おばさん、さっき五月蠅かったから今度、歌う時は静かに歌って」
「お⁉ ……おばさんっ!」
クリシュナは、ハッ⁉ となって横を見ると、ナインが下を向いて、笑いを堪えているのが見えた。
「キィィーーーーー! くやしい、あなたたち、覚えてなさい⁉」
クリシュナがそう捨てゼリフを吐いて、ツカツカと外に出て行き、見習い騎士の女子たちも「待ってください、クリシュナ様ー」と追いかけていった。もう一人、ポツンと立っている男がいる……。ドリヤンだ。
ベッキーを囲んでいる輪の中から一人だけ抜けて、ドリヤンの元に男の子が駆け寄ってきた。
「あ? 俺のところに来ても、なんもしねーぞ!?」
「うっせー、態度でかいんじゃ、バカ魔王!」
ドリヤンは、男の子に悪口を言われ脛を蹴られた。
「チクショーっ! 子どもなんて嫌いだー」と叫んで出て行った。
ヤレヤレだね。
(今日は荒れる……)
「おい、お前たち、今日は合同での実習になった……」
やはり声に険を感じる。何だろう?
「いいか? 一言だけ言っておく……『絶対に負けるな』」
え? 何に負けないようにすればいいんだろう? と疑問を抱いている間に『その答え』がやってきた。
「お──ほっほっほっほっほっほっ、あら? 『不作法、無骨、野暮』の塊のナインさんではいらっしゃいませんか?」
階段の上から現れたのは、桃色と白色の組み合わせで、装飾がふんだんにあしらわれた豪華な鎧になぜか手には扇を持った女性が少し顔をあげ、こちらを見下ろしている。が、階段の上から頭も上に上げているので最早、こちらを見ていない……。
女性の後ろには、見覚えのある見習い騎士の女の子が三人控えている。そのうちの二人は、こちらの班に最初いた女子二人だ。
「クリシュナ……」
ナインは凄くイヤそうな顔をして、彼女を見ている。
「さぁて、そこの貴方達、今日は、私達の班の下僕をやるのよ」
「ふざけるのは大概にしろ! 合同依頼だろう!」
「ええ、そういったつもりよ? 下僕調教でしょ?」
噛み合ってない。いや、向こうに合わせて貰わなくていいと思う……。
クリシュナ……恐らくナインと対等に話してる時点で予想がつく。おそらくナインと同じ『クレアの騎士』のひとり。
「それで~~。むさ苦しいアナタとそこの下僕たちと、私達で今日は何をすればいいのかしら?」
もう僕らを下僕と呼ぶのは、固定になったようだ……。
「お前も聞いているだろう、今日は騎士団と騎士団養成所の町民への印象向上を任せられただろ?」
「あら、そうでしたの? 騎士団の幹部のオジサンの話なんて聞いてませんでしたわ。まあ何するにしても、貴方たち、無骨さんと下僕さんじゃ、私達の足元にも及ばないでしょうねぇ、おほほほっ」
今日、任務で訪問するのは自宅で介護が困難なお年寄りと、夫婦共働きや片親の子どもを預かる幼老複合施設で、子供は老人を労わる気持ちを、老人は子供と触れて活力の創出と双方に利点を生み出すらしく、最近、ここマイティ―ロールでは同様の施設が増え始めている。
施設に着くと最初に施設長の部屋に通され、施設の簡単な説明を教えてもらう。と、突然、クリシュナがある提案をしてきた。
「施設長、どうでしょう? 私達二つの班で、それぞれ何か披露するというのは?」
「ええ、いいですね、じゃあそれでお願いします。」
参加をクリシュナが勝手に決めてしまった。ナインも不服はないらしい。
舞台袖に案内される。これから順番に舞台で、それぞれ何か出し物を披露するという手はずとなったが、先ほどクリシュナがナインに向かって、「拍手の大きさで勝負よ! 無骨なナインさん。まあ、私の班が圧勝だと思いますけど、おっほほほっ」と言ってきたので、先ほどから、参加に不服は無いが、騎士ナインの機嫌はすこぶる悪くみえる。
先にクリシュナ班が、舞台に立つ。
「我ら~の、大地~を、踏~み~し~め~て~♪」
クレア騎士団の行進曲を歌いはじめたが、クリシュナ班の見習い三人は恥ずかしいのか声が小さく全然聞こえない。クリシュナだけ声量が突出してて、ご老人の皆さんは「おー、よく聞こえるのー」と喜んでいるが、小さい子たちは、大声で一心不乱に歌うクリシュナに怯えて、泣き出す子まで出る始末だった。
クリシュナ達の歌が終わると、ぱらぱらと拍手が聞こえた。
「貴方たちは、舞台でスベッて、怒声でも浴びてきなさい」
歌い切ったことで、悦に入ったクリシュナが、霊峰フガクより高い位置から見下ろして、声を掛けてくる。
僕たちがやるのは……。
「みなさーん、こんにちはぁ~、イーアスお兄さんとぉぉ」
「ベッキーお兄さんで、ベッキーお兄さんの隣にいるのが、悪の大魔王ドリヤンだよ」
舞台袖で打ち合わせしている時、ドリヤンが出しもののネタの話に加わろうとしなかったので、立っているだけで強制参加できるよう会話をうまくコントロールする。
ドリヤンは、悪の魔王と呼ばれて『はあ?』という顔になったが、これも計算のうち。くすりっと観客から笑い声が聞こえた。よしよし。
「今日はお兄さんたちと、この自由国オルオに伝わる童謡を歌いながら、お兄さんたちがやることを真似ができるかなー?」
「はぁーーーい!? デキるーー」
小さい子たちが一斉に手を挙げる。それを見ているお年寄りたちは、孫かひ孫を見るように嬉しそうな顔をしている。
「それじゃいくよー」
ベッキーの歌に合わせて、ボクが手遊びをすると、子どもたちは嬉しそうにそれに倣い、お爺ちゃん、お婆ちゃんもやってくれる人がちらほらと出始めた……。こういった手遊び歌は、孤児院でチビ達によくやってあげたものだ。
歌が終わると、大きな拍手をもらった。舞台袖に戻るとクリシュナが、こちらに吠える。
「下僕共、ずるいわよ。子供に取り入って、拍手貰うなんてなんて意地汚い‼」
何を言っているのか意味が分からない……。
「じゃあ今、あそこに出て行って『誰に』子供や老人が寄ってくるか『数』で勝負なさい」
うーん、別にいいけど……。二班とも舞台袖から下に降りて、広がるとほとんど、ボクとベッキーに集まった。
「お兄ちゃん、他にももっと、手遊び教えてー」、「ずるーい、アタシにも教えてー」
輪になって囲まれているイーアスやベッキーを見て、クリシュナがプルプルしていると、女の子が一人クリシュナのところに駆け寄ってきた。
「ア、アラッ……貴方、見込みあるわねー、私のところに来るなんて」
「おばさん、さっき五月蠅かったから今度、歌う時は静かに歌って」
「お⁉ ……おばさんっ!」
クリシュナは、ハッ⁉ となって横を見ると、ナインが下を向いて、笑いを堪えているのが見えた。
「キィィーーーーー! くやしい、あなたたち、覚えてなさい⁉」
クリシュナがそう捨てゼリフを吐いて、ツカツカと外に出て行き、見習い騎士の女子たちも「待ってください、クリシュナ様ー」と追いかけていった。もう一人、ポツンと立っている男がいる……。ドリヤンだ。
ベッキーを囲んでいる輪の中から一人だけ抜けて、ドリヤンの元に男の子が駆け寄ってきた。
「あ? 俺のところに来ても、なんもしねーぞ!?」
「うっせー、態度でかいんじゃ、バカ魔王!」
ドリヤンは、男の子に悪口を言われ脛を蹴られた。
「チクショーっ! 子どもなんて嫌いだー」と叫んで出て行った。
ヤレヤレだね。
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