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人族イーアス編
Chapter 075 大地震
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翌日、集合場所にクレアの騎士ナイン、ベッキー、ドリヤンとイーアスの四人しか集まらず、同じ班の女子生徒二人は本当に来なかった。ナインは、自分達の恰好や荷物をざっと見て話す。
「……それでは足りんな、ついてこい」
連れてこられたのは、野外専門商店で今から、地下迷宮に潜るので必要なものを買い足すように指示を受けた。松明と油、縄、磁針、構造用白地図、簡易食、水を買う。
「戦闘用の小刀《ナイフ》のなるべく大きいものも買っておけ」
ナインの指示で、柄が握りやすいものから選んで購入した。代金は騎士団養成所から所要経費として支払うとのことで、ナインが手札で支払いを済ませる。
調達したものは三人で手分けして、それぞれの荷物入れに納める。自由国オルオには無数の地下迷宮が存在する。
その難易度は様々だが、すべての迷宮は随分と昔に『踏破済み』だが、定期的に生まれてくる魔物の討伐と魔物討伐によって発生する色見石、魔物部位の獲得が主目的の他にダンジョン固有の資源等も手に入るので、そういったものを目当てに日々、数多くの冒険者たちが地下迷宮に潜っていく。
こういった地下迷宮がもたらす資源が自由国オルオの経済を大きく支えており、冒険者ギルドも世界で最大の規模を誇る。
今回、向かう地下迷宮は首都マイティ―ロールから真東に三日程行ったところにあり、ビルドア帝国との国境に程近いところに位置している地下迷宮で、自由国オルオの地下迷宮の中では深さはさほどでもないが、中に入ると方向感感覚が麻痺してしまうほど広く入り組んでいる……。
僕たちは、地下迷宮に到着すると、探索するべくさっそく中に潜り始める。前衛はイーアス、斥候がドリヤンで支援担当をベッキーが担い、後衛をナインが担当する。
迷宮はすべて攻略済みのため、構造の描かれた地図が存在するが、ナインは実習であるため、敢えて自分で地図作成するようにと安価な白地図をボクらに買わせた。
休憩も挟みながら、中層まで潜ることができた。上層では、頻繁に会っていた冒険者の姿も下の層におりるに従って、数が減っていき、数層に渡って冒険者とは出会っていない。
ベッキーが頭を搔いて、なにか呟いている。
「あれー、おかしいなあ……どっかで間違えた?」
作図担当を任されたベッキーは、自分で記してきた地図を見て首を傾げている。
どうやら地図の通りだと、この先に大きな空間があってもよさそうな配置になっているのに、先の方を見ると行き止まりになっているとのことだ。
斥候役のドリヤンが念のため、行き止まりになっているところを隈なく調べてみるが、隠し切替装置のようなものもなく、徒労に終わった。
(うーん、でも、なにか『引っかかる』んだよな……。)
『ピシッ』「ッ⁉」──イーアスが奥の何もない行き止まりの壁の部分を何気に触ると、奥の壁に罅が入り、壁がガラガラと音を立てて崩れ、ぽっかりとその先の通路が松明の光に照らされ、浮かび上がる。
最後尾にいるナインが皆に警告する。
「この先は未踏破領域……。なにが出るか分からないから気をつけろ」
順番を交替しナインが前に行き、イーアスが後方へと下がる。それだけ危険の可能性があるという事だろう。
少し歩くと大きな空間に出た。やはり、ベッキーの地図は間違っていなかったようだ……だが。
大きな空間の中央に、真っ黒な巨大な『函』がある。
慎重に近づき、小刀の先を箱の表面に当ててみると、よほど硬いのか、まったく刃が刺さる気配がない。
試しにベッキーが手で、トントンと叩く動作をしたが、いっこうにその音が鳴らない。
「これは、世界各地で発見されている『謎の黒い函』だ。未だかつてこれが、何なのか解き明かしたものはいないと聞く……。しかし、この国での存在は最初の発見ということになる」
ナインがそう言うとベッキーに黒い函を簡単にスケッチさせて、撤退を指示する。大きなこの空間から出ようとした矢先に、黒い函が少しだけ、震えた。黒い箱を見ると、これまでなかった数字が箱の表面に浮かび上がっており、その数字が一秒単位で減っていく。
「一七,九九七…一七,九九六……」
「イヤな感じだ……。即、この地下迷宮から離脱する」
ナインの合図により早足で大きい空間を出て、これまでベッキーが書き繋げてきた地図を見ながら大急ぎで上階へと登る。不思議なことに下の階に潜っていく時はあんなに沸いていた魔物が鳴りを潜め、一度も遭遇することなく、地下迷宮の地上出口に到着した。
四人が地下迷宮の外に出た途端、異変が起きる。周囲の森の無数の鳥が一斉に飛び立つ。
何事かと周囲を見ていると。
『ドォォォォォォォンッ』──すぐそばで爆発が起きたのかと、錯覚するほどの大きな音と、ビリビリと空気の揺れを感じる。その直後。
ゴゴゴゴッ、グランッ……、グランッ、グラン
地響きがしたかと思うと突然、かつて経験したことのない程に大きく地面が揺れて全員、立っていられず、その場で蹲る。
大きな揺れの最中にメキメキッ、と地下迷宮の入口とその周辺が崩壊しながら、地中から巨大な何かが盛り上がってきた。
揺れが次第に収まり、地中から盛り上がったものを見ると先ほどまで、そこにあった地下迷宮とは別の『地下迷宮』が、ぽっかりとその口を開いている。
規模が全く違っていて、入口がちょっとした山くらいの大きさがある。
「中にいた連中は恐らく全員助かるまい」
ナインが冷静な声で、そうつぶやく。
登ってくるときにすれ違った冒険者に声を掛けたが、ほんの一部だろう。
「嫌な予感がする、ここも離れるぞ」
ナインに言われ、急いで地下迷宮を後にし、マイティ―ロールへの帰路についた。
「……それでは足りんな、ついてこい」
連れてこられたのは、野外専門商店で今から、地下迷宮に潜るので必要なものを買い足すように指示を受けた。松明と油、縄、磁針、構造用白地図、簡易食、水を買う。
「戦闘用の小刀《ナイフ》のなるべく大きいものも買っておけ」
ナインの指示で、柄が握りやすいものから選んで購入した。代金は騎士団養成所から所要経費として支払うとのことで、ナインが手札で支払いを済ませる。
調達したものは三人で手分けして、それぞれの荷物入れに納める。自由国オルオには無数の地下迷宮が存在する。
その難易度は様々だが、すべての迷宮は随分と昔に『踏破済み』だが、定期的に生まれてくる魔物の討伐と魔物討伐によって発生する色見石、魔物部位の獲得が主目的の他にダンジョン固有の資源等も手に入るので、そういったものを目当てに日々、数多くの冒険者たちが地下迷宮に潜っていく。
こういった地下迷宮がもたらす資源が自由国オルオの経済を大きく支えており、冒険者ギルドも世界で最大の規模を誇る。
今回、向かう地下迷宮は首都マイティ―ロールから真東に三日程行ったところにあり、ビルドア帝国との国境に程近いところに位置している地下迷宮で、自由国オルオの地下迷宮の中では深さはさほどでもないが、中に入ると方向感感覚が麻痺してしまうほど広く入り組んでいる……。
僕たちは、地下迷宮に到着すると、探索するべくさっそく中に潜り始める。前衛はイーアス、斥候がドリヤンで支援担当をベッキーが担い、後衛をナインが担当する。
迷宮はすべて攻略済みのため、構造の描かれた地図が存在するが、ナインは実習であるため、敢えて自分で地図作成するようにと安価な白地図をボクらに買わせた。
休憩も挟みながら、中層まで潜ることができた。上層では、頻繁に会っていた冒険者の姿も下の層におりるに従って、数が減っていき、数層に渡って冒険者とは出会っていない。
ベッキーが頭を搔いて、なにか呟いている。
「あれー、おかしいなあ……どっかで間違えた?」
作図担当を任されたベッキーは、自分で記してきた地図を見て首を傾げている。
どうやら地図の通りだと、この先に大きな空間があってもよさそうな配置になっているのに、先の方を見ると行き止まりになっているとのことだ。
斥候役のドリヤンが念のため、行き止まりになっているところを隈なく調べてみるが、隠し切替装置のようなものもなく、徒労に終わった。
(うーん、でも、なにか『引っかかる』んだよな……。)
『ピシッ』「ッ⁉」──イーアスが奥の何もない行き止まりの壁の部分を何気に触ると、奥の壁に罅が入り、壁がガラガラと音を立てて崩れ、ぽっかりとその先の通路が松明の光に照らされ、浮かび上がる。
最後尾にいるナインが皆に警告する。
「この先は未踏破領域……。なにが出るか分からないから気をつけろ」
順番を交替しナインが前に行き、イーアスが後方へと下がる。それだけ危険の可能性があるという事だろう。
少し歩くと大きな空間に出た。やはり、ベッキーの地図は間違っていなかったようだ……だが。
大きな空間の中央に、真っ黒な巨大な『函』がある。
慎重に近づき、小刀の先を箱の表面に当ててみると、よほど硬いのか、まったく刃が刺さる気配がない。
試しにベッキーが手で、トントンと叩く動作をしたが、いっこうにその音が鳴らない。
「これは、世界各地で発見されている『謎の黒い函』だ。未だかつてこれが、何なのか解き明かしたものはいないと聞く……。しかし、この国での存在は最初の発見ということになる」
ナインがそう言うとベッキーに黒い函を簡単にスケッチさせて、撤退を指示する。大きなこの空間から出ようとした矢先に、黒い函が少しだけ、震えた。黒い箱を見ると、これまでなかった数字が箱の表面に浮かび上がっており、その数字が一秒単位で減っていく。
「一七,九九七…一七,九九六……」
「イヤな感じだ……。即、この地下迷宮から離脱する」
ナインの合図により早足で大きい空間を出て、これまでベッキーが書き繋げてきた地図を見ながら大急ぎで上階へと登る。不思議なことに下の階に潜っていく時はあんなに沸いていた魔物が鳴りを潜め、一度も遭遇することなく、地下迷宮の地上出口に到着した。
四人が地下迷宮の外に出た途端、異変が起きる。周囲の森の無数の鳥が一斉に飛び立つ。
何事かと周囲を見ていると。
『ドォォォォォォォンッ』──すぐそばで爆発が起きたのかと、錯覚するほどの大きな音と、ビリビリと空気の揺れを感じる。その直後。
ゴゴゴゴッ、グランッ……、グランッ、グラン
地響きがしたかと思うと突然、かつて経験したことのない程に大きく地面が揺れて全員、立っていられず、その場で蹲る。
大きな揺れの最中にメキメキッ、と地下迷宮の入口とその周辺が崩壊しながら、地中から巨大な何かが盛り上がってきた。
揺れが次第に収まり、地中から盛り上がったものを見ると先ほどまで、そこにあった地下迷宮とは別の『地下迷宮』が、ぽっかりとその口を開いている。
規模が全く違っていて、入口がちょっとした山くらいの大きさがある。
「中にいた連中は恐らく全員助かるまい」
ナインが冷静な声で、そうつぶやく。
登ってくるときにすれ違った冒険者に声を掛けたが、ほんの一部だろう。
「嫌な予感がする、ここも離れるぞ」
ナインに言われ、急いで地下迷宮を後にし、マイティ―ロールへの帰路についた。
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