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第10話

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 一郎は狙撃する形で遠くから仁科華の背中にとても細くて小さな針を撃った。
 背中に針が刺さると、仁科華はビクリとカラダを震わせ、目の焦点が定まっておらず放心した状態になる。

「……だから」
「どうした華?」

 鬨人が様子のおかしい仁科華に気が付いた。
 雷汰がいるセーブ地点まで引き返し、合流するとそのまま出口を目指していた。

 配信は完全に炎上していて、亜理紗はやむなく配信を切断した。だが、切断する前に仁科華のURLを載せた一部の視聴者がいた。そこから彼女のチャンネル視聴者数がぐんぐんと伸び続け、配信を始めた頃は100人もいなかったのに今では10,000人を超えていて、今なお視聴者数の増加は止まっていない。

 鬨人や麗音が配信を止めるように求めたが、「えー、でもせっかく視聴者の皆さんが私のチャンネルに来てくれているから~」と配信を止める素振りは見られなかった。

 その華が急にカラダが仰け反ったかと思うと恐ろしいことを次々と呟き出した。



「視聴者なんてクズばかりだから……そもそも視聴者なんて、ギフトをくれないヤツなんてゴミだし。まあ私みたいな金持ちが貧乏な視聴者ごときに金をもらうなんてありえないから別にどうでもいいし。それより私のおバカなペットのふたりは意外とうまく炎上させてくれたじゃない。これであのクソ亜理紗の人生をめちゃくちゃにできたし、面白いったらありゃしない。まあ、私がイジメてめちゃくちゃになったヤツなんて腐るほどいるけど……アイツらゴミ虫って今ごろ何をしてるのかな? 虫けらの分際で私の機嫌を損ねた奴らが悪いのよ。亜理紗を潰したら次は麗音の番。アイツ、なにかにつけて亜理紗の肩ばっか持ちやがって、ふざけるのも大概にしてくれないかしら? 麗音はいつものクラスでハブりの刑に処そうっと。PTA会長のママに言えば教師も見て見ぬフリしてくれるし、私に歯向かった罪をちゃんと償わせないといけないわね。それにしても炎上させてるヤツってバカばっかだよね? 知りもしないのにスマホやパソコンの画面の先で自分のちっちゃい人生経験だけを物差しにして人を裁こうなんて厚かましいにも程があるわ。でもバカだからこそ扱いやすいのだけれども……」



 仁科華は、延々と己の内に溜まっている毒を吐き続けた。途中で他のクラスの女子ふたりの本名や自分の取り巻きの生徒、あと仁科華に便宜を図っている教師の名前まで洗いざらい呟いていった。

 これにより仁科華のチャンネルはどんどん拡散され視聴者数は10万人を超えた。

「え……私、今ちょっと意識飛んじゃったかも」
「お前、もうダメかも」

 仁科華の自白剤の効果が切れて意識を取り戻した。
 鬨人の冷ややかな視線。亜理紗や麗音は目を逸らして華を見ようとしていない。

 それよりも一番気になるのは……。

「華っち、人生終了じゃん」

 嘲笑の目……華にとって到底受け入れられない視線を雷汰が遠慮なく向けてくる。

「え、ちょっと意味がわかんない」

 名無し
 :ちょっと意味がわかんなーい、じゃねえこの下衆が!?
 名無し
 :ワイ、目が覚めた。アリサちゃんのところへ帰る
 名無し
 :このニュースで飯のおかわりが3杯はいけそうwww

 華は、すぐに自分の立場が悪くなったのを理解して、配信アプリを即座に切断した。

「ねえ……私、なにか口走っちゃったの?」
「さあな、後で動画で見れば?」

 焦る。
 急に背筋が冷たくなってきた。
 だが、同時にクラスメイトが自分に冷たいことに対して、グツグツと怒りが込み上げてきた。

 でもここで怒ったら負け。
 ここは押しに弱い亜理紗を使って、なんとか学校関係を今まで通りに修復しないと。

「亜理紗ちゃんは私のこと信じてくれるよね?」
「ゴメン、ちょっと無理、かな……」

 なにその目?
 哀れんでる?
 お前みたいな雑魚がこの私を?

 亜理紗コイツ……調子に乗りやがって!?
 回りくどいのはもうやめだ。
 明日にでも絶対に立ち直れないように親の力を借りて徹底的に潰してやるッ!

「そう……じゃあ明日が楽しみね、底辺クズな亜理紗ちゃん」
「おまえ……やっぱり、それが本性なのかよ」
「なによ、悪い? アンタ達全員、ママに言って後悔させてやるから!」

 鬨人ももう要らない・・・・
 こんなに自分が苦しいのにみんなで私のことを見下しやがって。
 鬨人や他の連中にも宣戦布告した。
 親の力がどれだけこの世で強力なのかをわからせてやる。

「すげ……撮れ高バッチリなんだけど」
「は? 雷汰、アンタまさか!?」

 雷汰は周りに浮いている3つのライブカメラである黒い球をダンジョンでも魔物に勘付かれように使われるシークレットモードに切り替えてそのまま配信を続けていた。コメントを非表示にすることで、さらに配信しているのを華に悟られないように隠していた。

「覚えてなさい!」

 仁科華は捨て台詞を残して、ひとりでダンジョンから抜け出すための帰還用アイテムで帰ってしまった。

 一郎はすばやくバックドアからダンジョンを出て、何食わぬ顔で仁科華を家の外へと送り出した。

 まさか彼女があそこまで徹底的に自滅するとは思いもよらなかった。いじめを白状させるくらいのつもりで自白剤を用いたが、まさかあれほどまで心に闇を抱えていたなんて……。

 ダンジョンに潜る前にお茶の中に薬効を上げるための作動薬を混ぜておいた。そのため、少量の自白剤入りの注射針を刺しただけで、見事なまでに仁科華は盛大に自爆した。




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