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第11話

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 亜理紗のダンジョンでのライブ配信は直後に動画として編集され、瞬く間に拡散されていった。そして数時間もしないうちに日本の検索ランキング上位に食い込んでしまった。

 その動画の中では仁科華のとんでもなくダークな発言がさらに誇張され、もはや犯罪者のようなレッテルが張られることとなった。これを受けて仁科華は翌日にはアメリカへの留学することが決まり、そのまま学校には顔を出さなかった。

 仁科華の父親はアメリカで浄水器の製品の開発、販売を行っている。5年前のアメリカ進出当初よりも業績は右肩上がりで、ずいぶんと儲かっている。おそらくほとぼりが冷めるまで、父親の元で雲隠れしようというのが狙いなのかもしれない。

 彼女の言いなりになっていた教師や同級生たちはネット上で炎上し、住所や氏名、家族構成まで晒されるなど、ひどい目に遭っている。教師の方はなにかしらの懲戒処分が下される可能性もある。

 仁科華はというと、両親に頼み、弁護士グループによるネット上で批判したユーザーの開示請求と民事訴訟を辞さない構えを見せている。そのため思ったよりも炎上しておらず、Webニュースやテレビでの報道もそこまで大きく取り沙汰されず小康状態を保っていた。

 これで亜理紗の交友関係はひとまず落ち着いたとみられる。家庭の問題が片付いた田中一郎は、飯塚楼の件について捜査を進めることにした。

 数日間、盗聴器で彼の動向を探っていたところ、何件か不正ダンジョンに関わる取引の疑いがある相手が浮上してきた。

 ひとつは登録されていない法人ダンジョンコアの売買。こちらは日本に移住してきた西アジア国籍の犯罪組織が絡んでいる。だが、犯行が雑なのでダンジョン庁特捜部に任せても特に問題はないと見ている。外国犯罪組織に日本の警察機構の弱点や法律の抜け穴を教えているが、これだけでは飯塚楼を検挙することは難しい。

 もうひとつは海外闇ブローカーへの未登録の個人ダンジョンコアの大量発注。個人ダンジョン自体は大量に未登録ダンジョンを所有していても使用しなければ犯罪にはならない。個人ダンジョンは白銀兎がいるダンジョンのようなレアなものから何もないダンジョンなど当たり外れがある。ダンジョン多国間条約で個人ダンジョンコアの国外への流出または流入は固く禁止されているため、海外から日本国内へ持ち込むのは非常にリスクが高い。陸・海・空それぞれで法の番人が目を光らせているので、実行は非常に困難。それに無差別に個人ダンジョンコアを買い集めたところで、儲けには繋がらない。

 発注をかけたところまでは押さえたが、実際に現物がなければ飯塚楼を逮捕できない。取引先の海外の闇ブローカーも大量注文であるため、相当数を用意するのは時間が掛かるだろう。実際、取引が始まるまでは飯塚を泳がせておく必要がある。

 そして飯塚を検挙するための本命は東北の某県にある日本酒を製造している蔵元。飯塚はある小さな酒蔵と電話で何度かやりとりをしていて、通話のやりとりの中で「神酒ネクタル」という言葉が出てきた。

 調査班が調べるとその蔵元は先月「命冥加いのちみょうが」という酒を販売しだして、持病の症状改善や万病に効くなどの噂で持ち切りになっているそうだ。5万円という強気の値段での販売にもかかわらず、現在、予約して購入できるのは2年先だという。

 予想としては未登録ダンジョンから新たに発見された新種の魔石である可能性が高い。
 
 その新種の魔石が長命を期待できるものならまだしも、万が一、不老不死の効果がある魔石だとすれば、ダンジョンを巡って第3次世界大戦が勃発する危険性だってある。

 調査自体は今朝方から仙台支部のエージェントが向かったので、成果を期待していた。だが、夕方になって田中一郎が所属している世田谷支部へ応援要請が入った。

 仙台支部からの連絡によると朝から随時エージェントを3人派遣したが、3人とも向かっている途中で消息を絶ったとのこと。仙台支部の分析班がGPSで追跡したところ、途中の山道で3人とも行方がわからなくなったため、全国各支部のトップエージェントの派遣要請があった。

 それから約6時間後。
 札幌支部、斉藤大介。
 堺支部、林航はやしわたる
 世田谷支部、田中一郎の3人が仙台支部が入っているビルの一室で顔を揃えた。

「よし、行くぞふたりとも!」
「あ、あの……お手柔らかにお願いします」

 札幌支部の斉藤大介はかなり体育会系の中年。
 歳は40代半ばくらいで一郎よりひと回りほど歳が離れていそうに見える。9月に入ったこの時期、仙台では15度近くまで気温が下がっているにもかかわらず黒のタンクトップに半ズボンという極めて涼しそうな恰好をしている。あちこちの筋肉が盛り上がっていて彫像が生命を宿したような見た目をしている。

 堺支部、林航はやしわたるは20代後半くらいで長い前髪で片目を隠していて、先ほど自己紹介したあともずっと視線が泳いでいる。関西人ではないのかと仙台支部の人間が質問したところ、歴とした大阪の生まれ育ちだそう。関西弁ではなく関西人独特のオーラもない。時代は移り変わりゆくものだと田中は思った。



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