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第9話

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 ドーム状の結界……戦闘フィールドはエリアボスごとにその大きさが変わる。ちなみに今回の【白狒パピオム】は半径約50メートル程度なので森の中に潜んだまま、戦闘フィールド内で見守ることができた。

 かなり苦戦している。
 雷汰は早々にやられて、華はひとりだけ結界で自分を守っている。鬨人が亜理紗と麗音を庇っているが、疲労の色が濃くなってきている。

 このままでは全滅は免れない。
 だが、ここでNPCに扮した一郎が出て行ってしまうと、フィールド内に隠れていたことが露呈してしまうので、あくまで裏方に回るつもりでいる。

 亜理紗の亜空間収納サブストレージにはソーブレードが入っているので、気づかないかもと不安でしょうがなかった……。

 なんとか気が付いてソーブレードを使って次々と現れる蜘蛛を根こそぎ狩っていく。幸い白狒が出てくる蜘蛛は無限ではなく、しばらくすると蜘蛛が出てこなくなった。

 白狒の厄介なところは再生力が極めて高く細胞の分裂、膨張ができる点。
 腕を縦に斬ってしまうと腕が2本になってしまうので、早めに弱点に気がつけばよいのだが……。

 腕が2本になって、亜理紗の腕ではまだ同時に襲ってくる拳に対処しきれていない。
 一郎は、魔法で高圧縮された空気の弾を飛ばして亜理紗を援護した。
 その結果、亜理紗がエリアボスの弱点「核」に気が付き、それを壊して倒したのを見て胸を撫で下ろした。

 視聴者から特大の投げ銭をもらう。
 ダンジョン配信アプリ「Stream Of Dungeon」ではフォロワーが1,000人を超えると投げ銭機能が使える仕様になっている。男子ふたりが機能をオンにしておいたらというアドバイスをダンジョンに入ってすぐに亜理紗にしていたのが聞いていた。

「ねえ、亜理紗ちゃん、このダンジョンってまさか違法じゃないよね?」

 どうにか起き上がった満身創痍の仁科華。
 亜理紗に向かってあらぬ疑いをかけてきた。

「ちょっと、華! それってどういう意味?」

 麗音が割り込んだが、一部の視聴者がすぐに反応した。

 天誅
 :エリア1も攻略してないのにソーブレード持ってるのは、マジありえないw
 モコ
 :違法じゃない? 白銀兎から怪しいと思ってたし
 名無し
 :そうなん? ホントならヤバいじゃん、アリサ氏

 良くない流れ。
 なんとかして、この悪い流れを変えないと……。

(こちら分析班、〇一烏、聞こえますか?)

「こちら〇一烏、三七鹿、どうした?」

 コードネーム三七鹿さんななしか、分析班に所属しており、普段は佐々木という名で日常生活を送っている。

 たまに田中家に寄ってもらっている。
 田中一郎という人物が家族や近所に疑われないようラビキンの後輩社員として偽装任務をこなしてくれている。

(今、天誅及びモコという名のユーザーについて人物を特定しました)

 佐々木は、田中一郎が平凡な日常生活を送る上で障害となりうるものをいかなる手段をもってしても原因を取り除く義務を業務上請け負っている。現在、一郎の娘、田中亜理紗への危害の恐れが危ぶまれている。彼女が不登校になりようものなら近所で噂が立つかもしれない。そうなると田中一郎の家庭は「平凡」とは呼べなくなる。そのため、田中一郎を支援し、敵対組織が確認され次第、対象を排除しようと目下、作戦行動に入っている。

 なるほど先ほどの悪意のある書き込みは仁科華の仕業か。
 どちらも亜理紗と同じ中学に通う学生で同学年だが違うクラス。仁科華の忠実な飼い犬と噂のあるふたり。

 隙あらば炎上させるようにとでも指示しておいたのだろう。
 彼女らの書き込みが呼び水となって、だんだんとチャットが荒れ始めてきた。

 名無し
 :最近違法ダンジョンが出回ってるらしいね
 名無し
 :まずは謝罪からしてもらおうか
 名無し
 :常識なさそうで草

 これだからライブ中継の配信は危うい。
 さっきまで好意的な書き込みばかり多数を占めていたが、一瞬で逆転した。中には「アリサたんは悪くない」、「証拠もないのに叩くのは違法」、「冤罪だったら叩いてる連中全員、出禁な?」と亜理紗を擁護している人たちもいるが、すぐに大勢の批判的なコメントに飲み込まれてしまう。

(今、アンチ抑制プログラムを起動させました)

 佐々木が行ったのは、AI制御による複数の投稿。
 SNSなどで流れる陰謀論でたまに神籬のような組織があるのでは? という動画や書き込みなど噂が流れるが、そういったものはデマだと大衆に信じ込ませるために使用されているプログラム。

 だが、高性能PC1台では、せいぜい100ユーザーから300ユーザー程度の偽装書き込みしか稼働できない。今現在、ログインして書き込みしているのは10,000ユーザーを超えている。これでは焼け石に水もいいところ。

「しかたない。オペレーション【T】を開始する」

 一郎は、念のために準備しておいた下手したら諸刃の剣ともなり得る作戦をやむなく実行することにした。







 仁科華は内心、ほくそ笑んでいた。
 田中亜理紗。成績も運動神経も自分より上で正直、気に入らない。
 そしてなによりムカつくのが、来馬 鬨人くるま ときとが田中亜理紗に好意を抱いていること。
 
 仁科華は、アイドル顔負けの美貌を誇っている。
 そして普段演じているフワフワとしたキャラで同学年の男子はもちろん、2年や3年の男子も鼻を伸ばして自分を見ていることに気が付いている。

 なのに……。
 なのにどうして来馬 鬨人くるま ときと亜理紗アイツのことを気にしている? 田中亜理紗と同じ小学校の連中に聞いたが、中古のマンション暮らしで、とても自分と張り合えるような人間じゃない。

 来馬鬨人の父親は、仁科家が保有している会社で働いているいわば奴隷のようなもの。母親へ言えば、文字通り仲良くしてくれるだろうが、子飼いにはしたくない。 

 要は田中亜理紗が転校なり不登校になれば済む話。
 アイツさえいなくなれば、鬨人はきっと華に振り向いてくれる。

 だからとっととあの女を追い詰めてあげないと・・・・・いけない……。





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