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第三話
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「つ、疲れた……っ」
次の日の朝、那覇空港に到着した緋嶺は、飛行機を降りるなり座り込んでしまう。
「おい、まだ荷物の受け取りがあるぞ」
大体そんな所で座り込んでいると邪魔だろう、と涼しい顔をした鷹使が見下ろしてきた。手を引かれ立ち上がった緋嶺は、恨めしそうに彼を睨む。
「飛べるなら飛行機で行かなくてもいいだろ……?」
「馬鹿言え。俺だって、この距離をお前と荷物抱えて飛ぶのは疲れる。それに……」
そんなことをしたら目立ってしょうがないだろ、と鷹使は呆れ顔だ。
「うぅ……あんな生きた心地がしない乗り物なんて、金輪際乗りたくない……」
「まぁ、帰りも乗るけどな」
冷静な鷹使の声に、緋嶺はもう一度彼を睨んだ。しかし、後ろから鋭い視線を感じて思わず振り返る。
「……」
「どうした?」
鷹使の訝しげな声がする。緋嶺は少し気配を探ってみたけれど、人間がチラホラいるだけで、他に怪しいことはない。
「いや、なんでもない」
緋嶺が歩き出すと、鷹使も隣を歩き出した。
(何だろう……?)
気配はないのに、視線を感じる。これは人ならざるもの特有の感覚だ。得体の知れないモノに監視されているようで、緋嶺はそっと鷹使を呼んだ。
「……誰かに監視されてる」
真っ直ぐ前を見ながら、相手に気取られぬよう、唇の動きも最低限にする。
「放っておけ。こちらに何かする気なら、とっくに行動を起こしてる」
やはり鷹使も気付いていたようだ。緋嶺は鷹使の言葉に納得すると、こちらに近付くようなら警戒することにした。
その後、荷物を受け取りレンタカーを借りて、鷹使の運転で旅行は進む。
今回の旅行プランは、全て鷹使が考えてくれた。せっかくだからもてなしてやる、と言われ、どうしてそんなに偉そうなんだと思ったけれど、それでも嬉しさが勝ってしまったことは口が裂けても言えない。気付かれているかもしれないけれど。
程なくして二人は最初の目的地に着くと、車を降りて入口へと向かう。薄暗い屋内を抜けて外に出ると、出迎えたのは赤瓦と赤い柱が印象的な、守礼門だ。首里城とはまたベタだな、と緋嶺は思う。
緋嶺はそこまで建築物に興味はないけれど、過去にここに生きていた人々が、どんな想いで造ったり、暮らしていたのかは少しだけ興味がある。
すると、鷹使が隣でボソリと呟いた。
「緋月の瞳の色に似ているな……」
緋嶺はハッと彼を見る。緋月とは、緋嶺の父親の名前だ。異種間で交わった罪で処刑されたという彼は、最期に緋嶺を人間界に落とした。弁柄桐油を塗布してあるというその柱は、確かに緋嶺の記憶にある、緋月の瞳に似ている。
緋嶺は守礼門をくぐりながら、遠くを見やった。自分を護るために、亡くなった人たちを思い出したからだ。沖縄独特の雰囲気をもつ空が、何だか悲しげに見える。
「……悪い」
それに気付いた鷹使が頭をくしゃくしゃと撫でた。鷹使の声色からして、彼も少し感傷的になったのだろう。
「いや……」
鷹使は緋嶺の両親と緋嶺、三人共生きていて欲しかったはずだ。それなのに自分ばかりが、いつまでも傷付いている様子を見せるのは、愛する人を悲しませることにならないだろうか? 鷹使が命懸けで自分を護ってくれたように、自分も鷹使を支えたい。最近はそう思えるようになってきた。
「鷹使。この旅行、めいっぱい楽しむぞ」
緋嶺は伴侶に向かって笑ってみせる。鷹使は優しく目を細めて笑った。
「ああ。……お前はやはり、グルメツアーの方が良さそうだな」
予定変更だ、と鷹使はニヤリと口の端をあげる。そして彼の優しさに、緋嶺は照れ隠しで肩を叩くのだ。本当に、この人は緋嶺のことを考えてくれる。
敵わないなぁ、と緋嶺はそっとため息をついた。
次の日の朝、那覇空港に到着した緋嶺は、飛行機を降りるなり座り込んでしまう。
「おい、まだ荷物の受け取りがあるぞ」
大体そんな所で座り込んでいると邪魔だろう、と涼しい顔をした鷹使が見下ろしてきた。手を引かれ立ち上がった緋嶺は、恨めしそうに彼を睨む。
「飛べるなら飛行機で行かなくてもいいだろ……?」
「馬鹿言え。俺だって、この距離をお前と荷物抱えて飛ぶのは疲れる。それに……」
そんなことをしたら目立ってしょうがないだろ、と鷹使は呆れ顔だ。
「うぅ……あんな生きた心地がしない乗り物なんて、金輪際乗りたくない……」
「まぁ、帰りも乗るけどな」
冷静な鷹使の声に、緋嶺はもう一度彼を睨んだ。しかし、後ろから鋭い視線を感じて思わず振り返る。
「……」
「どうした?」
鷹使の訝しげな声がする。緋嶺は少し気配を探ってみたけれど、人間がチラホラいるだけで、他に怪しいことはない。
「いや、なんでもない」
緋嶺が歩き出すと、鷹使も隣を歩き出した。
(何だろう……?)
気配はないのに、視線を感じる。これは人ならざるもの特有の感覚だ。得体の知れないモノに監視されているようで、緋嶺はそっと鷹使を呼んだ。
「……誰かに監視されてる」
真っ直ぐ前を見ながら、相手に気取られぬよう、唇の動きも最低限にする。
「放っておけ。こちらに何かする気なら、とっくに行動を起こしてる」
やはり鷹使も気付いていたようだ。緋嶺は鷹使の言葉に納得すると、こちらに近付くようなら警戒することにした。
その後、荷物を受け取りレンタカーを借りて、鷹使の運転で旅行は進む。
今回の旅行プランは、全て鷹使が考えてくれた。せっかくだからもてなしてやる、と言われ、どうしてそんなに偉そうなんだと思ったけれど、それでも嬉しさが勝ってしまったことは口が裂けても言えない。気付かれているかもしれないけれど。
程なくして二人は最初の目的地に着くと、車を降りて入口へと向かう。薄暗い屋内を抜けて外に出ると、出迎えたのは赤瓦と赤い柱が印象的な、守礼門だ。首里城とはまたベタだな、と緋嶺は思う。
緋嶺はそこまで建築物に興味はないけれど、過去にここに生きていた人々が、どんな想いで造ったり、暮らしていたのかは少しだけ興味がある。
すると、鷹使が隣でボソリと呟いた。
「緋月の瞳の色に似ているな……」
緋嶺はハッと彼を見る。緋月とは、緋嶺の父親の名前だ。異種間で交わった罪で処刑されたという彼は、最期に緋嶺を人間界に落とした。弁柄桐油を塗布してあるというその柱は、確かに緋嶺の記憶にある、緋月の瞳に似ている。
緋嶺は守礼門をくぐりながら、遠くを見やった。自分を護るために、亡くなった人たちを思い出したからだ。沖縄独特の雰囲気をもつ空が、何だか悲しげに見える。
「……悪い」
それに気付いた鷹使が頭をくしゃくしゃと撫でた。鷹使の声色からして、彼も少し感傷的になったのだろう。
「いや……」
鷹使は緋嶺の両親と緋嶺、三人共生きていて欲しかったはずだ。それなのに自分ばかりが、いつまでも傷付いている様子を見せるのは、愛する人を悲しませることにならないだろうか? 鷹使が命懸けで自分を護ってくれたように、自分も鷹使を支えたい。最近はそう思えるようになってきた。
「鷹使。この旅行、めいっぱい楽しむぞ」
緋嶺は伴侶に向かって笑ってみせる。鷹使は優しく目を細めて笑った。
「ああ。……お前はやはり、グルメツアーの方が良さそうだな」
予定変更だ、と鷹使はニヤリと口の端をあげる。そして彼の優しさに、緋嶺は照れ隠しで肩を叩くのだ。本当に、この人は緋嶺のことを考えてくれる。
敵わないなぁ、と緋嶺はそっとため息をついた。
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