上 下
4 / 18

第三話

しおりを挟む
「つ、疲れた……っ」

 次の日の朝、那覇空港に到着した緋嶺は、飛行機を降りるなり座り込んでしまう。

「おい、まだ荷物の受け取りがあるぞ」

 大体そんな所で座り込んでいると邪魔だろう、と涼しい顔をした鷹使が見下ろしてきた。手を引かれ立ち上がった緋嶺は、恨めしそうに彼を睨む。

「飛べるなら飛行機で行かなくてもいいだろ……?」

「馬鹿言え。俺だって、この距離をお前と荷物抱えて飛ぶのは疲れる。それに……」

 そんなことをしたら目立ってしょうがないだろ、と鷹使は呆れ顔だ。

「うぅ……あんな生きた心地がしない乗り物なんて、金輪際乗りたくない……」

「まぁ、帰りも乗るけどな」

 冷静な鷹使の声に、緋嶺はもう一度彼を睨んだ。しかし、後ろから鋭い視線を感じて思わず振り返る。

「……」

「どうした?」

 鷹使の訝しげな声がする。緋嶺は少し気配を探ってみたけれど、人間がチラホラいるだけで、他に怪しいことはない。

「いや、なんでもない」

 緋嶺が歩き出すと、鷹使も隣を歩き出した。

(何だろう……?)

 気配はないのに、視線を感じる。これは人ならざるもの特有の感覚だ。得体の知れないモノに監視されているようで、緋嶺はそっと鷹使を呼んだ。

「……誰かに監視されてる」

 真っ直ぐ前を見ながら、相手に気取られぬよう、唇の動きも最低限にする。

「放っておけ。こちらに何かする気なら、とっくに行動を起こしてる」

 やはり鷹使も気付いていたようだ。緋嶺は鷹使の言葉に納得すると、こちらに近付くようなら警戒することにした。

 その後、荷物を受け取りレンタカーを借りて、鷹使の運転で旅行は進む。
 今回の旅行プランは、全て鷹使が考えてくれた。せっかくだからもてなしてやる、と言われ、どうしてそんなに偉そうなんだと思ったけれど、それでも嬉しさが勝ってしまったことは口が裂けても言えない。気付かれているかもしれないけれど。

 程なくして二人は最初の目的地に着くと、車を降りて入口へと向かう。薄暗い屋内を抜けて外に出ると、出迎えたのは赤瓦と赤い柱が印象的な、守礼門だ。首里城とはまたベタだな、と緋嶺は思う。

 緋嶺はそこまで建築物に興味はないけれど、過去にここに生きていた人々が、どんな想いで造ったり、暮らしていたのかは少しだけ興味がある。

 すると、鷹使が隣でボソリと呟いた。

緋月ひづきの瞳の色に似ているな……」

 緋嶺はハッと彼を見る。緋月とは、緋嶺の父親の名前だ。異種間で交わった罪で処刑されたという彼は、最期に緋嶺を人間界に落とした。弁柄べんがら桐油とうゆを塗布してあるというその柱は、確かに緋嶺の記憶にある、緋月の瞳に似ている。

 緋嶺は守礼門をくぐりながら、遠くを見やった。自分を護るために、亡くなった人たちを思い出したからだ。沖縄独特の雰囲気をもつ空が、何だか悲しげに見える。

「……悪い」

 それに気付いた鷹使が頭をくしゃくしゃと撫でた。鷹使の声色からして、彼も少し感傷的になったのだろう。

「いや……」

 鷹使は緋嶺の両親と緋嶺、三人共生きていて欲しかったはずだ。それなのに自分ばかりが、いつまでも傷付いている様子を見せるのは、愛する人を悲しませることにならないだろうか? 鷹使が命懸けで自分を護ってくれたように、自分も鷹使を支えたい。最近はそう思えるようになってきた。

「鷹使。この旅行、めいっぱい楽しむぞ」

 緋嶺は伴侶に向かって笑ってみせる。鷹使は優しく目を細めて笑った。

「ああ。……お前はやはり、グルメツアーの方が良さそうだな」

 予定変更だ、と鷹使はニヤリと口の端をあげる。そして彼の優しさに、緋嶺は照れ隠しで肩を叩くのだ。本当に、この人は緋嶺のことを考えてくれる。

 敵わないなぁ、と緋嶺はそっとため息をついた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

変幻自在の領主は美しい両性具有の伴侶を淫らに変える

琴葉悠
BL
遠い未来。 人ならざる者達が、人を支配し、統治する世界。 様々な統治者が居たが、被支配層の間で名前で最も有名なのは四大真祖と呼ばれる統治者たちだった。 だが、統治者たちの間では更に上の存在が有名だった。 誰も彼の存在に逆らうことなかれ―― そう言われる程の存在がいた。 その名はニエンテ―― 見る者によって姿を変えると言う謎の存在。 その存在が住まう城に、六本の脚をもつ馬達が走る馬車と、同じような六本脚の無数の馬たちが引く大型の馬車が向かっていた。 その馬車の中にば絶世の美貌を持つ青年が花嫁衣装を纏っていた──

隠れSな攻めの短編集

あかさたな!
BL
こちら全話独立、オトナな短編集です。 1話1話完結しています。 いきなりオトナな内容に入るのでご注意を。 今回はソフトからドがつくくらいのSまで、いろんなタイプの攻めがみられる短編集です!隠れSとか、メガネSとか、年下Sとか…⁉︎ 【お仕置きで奥の処女をもらう参謀】【口の中をいじめる歯医者】 【独占欲で使用人をいじめる王様】 【無自覚Sがトイレを我慢させる】 【召喚された勇者は魔術師の性癖(ケモ耳)に巻き込まれる】 【勝手にイくことを許さない許嫁】 【胸の敏感なところだけでいかせたいいじめっ子】 【自称Sをしばく女装っ子の部下】 【魔王を公開処刑する勇者】 【酔うとエスになるカテキョ】 【虎視眈々と下剋上を狙うヴァンパイアの眷属】 【貴族坊ちゃんの弱みを握った庶民】 【主人を調教する奴隷】 2022/04/15を持って、こちらの短編集は完結とさせていただきます。 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 前作に ・年下攻め ・いじわるな溺愛攻め ・下剋上っぽい関係 短編集も完結してるで、プロフィールからぜひ!

首輪をつけたら俺たちは

倉藤
BL
 家賃はいらない、その代わりペットになって欲しい。そう言って差し出された首輪を、林田蓮太郎は悩んだ末に受け取った。  貧乏大学生として日々アルバイトと節約にいそしむ林田。いつも懐は寂しく、将来への不安と絶望感が拭えない。そんなどん底の毎日を送っていたところに話しかけてきた謎の男、鬼崎亮平。男はルームシェアという形で林田に住む場所をタダで提供してくれるという。それだけならば良かったが、犬用の首輪をつけろと要求された。  林田は首輪をつけて共に暮らすことを決意する。そしてルームシェアがスタートするも、鬼崎は硬派で優しく、思っていたような展開にならない。手を出されないことに焦れた林田は自分から悪戯を仕掛けてしまった。しかしどんなに身体の距離縮めても、なぜか鬼崎の心はまだ遠くにある。———ねぇ、鬼崎さん。俺のことどう想ってるの? ◇自作の短編【ご主人様とルームシェア】を一人称表記に直して長編に書き換えたものです ◇変更点→後半部、攻めの設定等々 ◇R18シーン多めかと思われます ◇シリアス注意 他サイトにも掲載

「優秀で美青年な友人の精液を飲むと頭が良くなってイケメンになれるらしい」ので、友人にお願いしてみた。

和泉奏
BL
頭も良くて美青年な完璧男な友人から液を搾取する話。

甥の性奴隷に堕ちた叔父さま

月歌(ツキウタ)
BL
甥の性奴隷として叔父が色々される話

公開凌辱される話まとめ

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 ・性奴隷を飼う街 元敵兵を性奴隷として飼っている街の話です。 ・玩具でアナルを焦らされる話 猫じゃらし型の玩具を開発済アナルに挿れられて啼かされる話です。

とろけてなくなる

瀬楽英津子
BL
ヤクザの車を傷を付けた櫻井雅(さくらいみやび)十八歳は、多額の借金を背負わされ、ゲイ風俗で働かされることになってしまった。 連れて行かれたのは教育係の逢坂英二(おうさかえいじ)の自宅マンション。 雅はそこで、逢坂英二(おうさかえいじ)に性技を教わることになるが、逢坂英二(おうさかえいじ)は、ガサツで乱暴な男だった。  無骨なヤクザ×ドライな少年。  歳の差。

たとえ性別が変わっても

てと
BL
ある日。親友の性別が変わって──。 ※TS要素を含むBL作品です。

処理中です...