【完結】天使の愛は鬼を喰らう〜後日談1〜

大竹あやめ

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第四話

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 とはいえ、せっかく首里城に来たのだ、色々見て回ろう、と歩いていると、シーサーを見つける。狛犬こまいぬとは違う、何とも言えない姿に、緋嶺はなんだか可愛く思えてきた。実際は犬ではなく、獅子らしいのだけれど。

「……これ、いろんな表情があるんだな」

 空港にもいろんなシーサーがいたけれど、首里城のシーサーはキリッとしている。お土産屋で見かけたコミカルな顔のものを思い出して、家の玄関に飾るのもいいな、と鷹使に提案する。

「最終日には国際通りで買い物するから、そこで買えばいい」

「うん、そうする」

 緋嶺はそう言って、シーサーと並んだ鷹使をスマホのカメラで撮った。無防備な鷹使の表情と、キリッとしたシーサーとの対比が面白くて笑う。

「……笑いすぎだ」

 そう言ってスマホを奪われ、笑っているところを撮られた。

「あ、撮るならシーサーと一緒に……」

 そう言ってシーサーのそばに行こうとして、緋嶺は鋭い視線を感じ、思わず動きを止める。しかしその一瞬だけで、後は沖縄独特の暑い空気が流れるだけだった。

「……鷹使、今……」

「ああ」

 やはりまた鷹使も気付いたようだ、彼は目を閉じ辺りを探っている。

「……逃げたな」

「ったく、何なんだよ……」

 これだけ鋭い視線を送るくせに、こちらから何かしようとすると逃げるのは、どういった意図なのだろう? 緋嶺は首を捻る。もしかして、空港の時と同じ者の視線だろうか、と鷹使に聞いてみた。

「……多分な。本当に何も仕掛けてくるつもりはないようだから、無視すればいい」

「……そんなもんかなぁ?」

 気にするな、という鷹使の言葉に、緋嶺は半信半疑ながらも頷く。

 そのあとは人の流れに沿って中を巡り、駐車場に戻る途中で、沖縄ならではのジュースを買う。シークワーサー味の炭酸飲料だ。

 緋嶺はそれをひと口飲んで驚く。地元でも、違うフレーバーの同じ名前のジュースは売っているけれど、柑橘系の爽やかな酸っぱさと甘みが、炭酸の強い刺激と一緒に喉を通ると、暑さも清々しくなるほどの美味しさだ。

「鷹使! これ、すっげー美味い!」

 思わず飲みかけのペットボトルを差し出すと、鷹使は嬉しそうにそれを受け取る。そこで緋嶺は、子供のようにはしゃいでいたことに気付き、恥ずかしくなって身体ごと明後日の方に向いた。

「……本当だ、美味いな」

 しかし鷹使は珍しくからかわない。余計にいたたまれなくなって、緋嶺は口を尖らせる。

「何だよ。笑いたきゃ笑えよ」

「……いや」

 そう言って、鷹使は無言で緋嶺の頭をくしゃくしゃと撫でた。その仕草に優しさといたわりを感じてしまい、緋嶺は照れ隠しでその手を払ってしまう。

「お前は、そうやって笑ってろ」

 行くぞ、と歩き出す鷹使。緋嶺は、なぜ彼がからかわないのか気付いてしまい、やはり優しいな、と顔が熱くなった。

(やっぱり、俺が元気ないの、気にしてたんだな……) 

 そもそもこの旅行も、緋嶺を元気付ける為に鷹使が提案してくれたのだ。

(めいっぱい楽しむって言ったそばから、気を遣われてちゃ世話ないな)

 緋嶺は自分の命を狙ってきた、人ならざるものの五大勢力のうち、天使と悪魔、麒麟きりんおさを味方につけた。鬼と龍の長は倒したけれど、それに巻き込まれる形で悪魔のセナ、麒麟の索冥さくめいをその手に掛けてしまったのだ。

 罪悪感で口の中が苦くなる。

(……ダメだ。また鷹使が心配する)

 緋嶺は考えることを止める。ふとした瞬間に彼らのことを思い出してしまうので、まだまだ時間が必要かな、と小さくため息をついた。
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