【完結】天使の愛は鬼を喰らう〜後日談1〜

大竹あやめ

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第二話

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 車に乗り込んだ緋嶺は、早速車を走らせる。いつもなら運転は鷹使がするけれど、今日はトラックをレンタルしたので、緋嶺の運転だ。

「……疲れたのか?」

「ああ。さすがに、力仕事ではお前には敵わないからな」

 鷹使は本当に疲れているようだ。シートにぐったり沈み込み、大きく息を吐いている。

「それでも、少し荷物を軽くする術とか使ってたじゃないか」

 緋嶺は横目で彼を見ると、馬鹿言え、と鷹使は呆れ顔だ。

「風で荷物を軽くするなど、人間に気付かれずにするのは無理がある」

「……確かに」

 鷹使の口から『人間』という言葉が出てきて、自分もそのカテゴリに入らないのだ、と自覚させられる。

 そう、緋嶺は鬼、鷹使は天使で、人間とは違う生き物なのだ。

 緋嶺はその鬼の能力から、尋常じゃない程の物理的な力を発揮できる。重たいものを運ぶことができるのは、そのせいだ。

 対して鷹使は、天使の風を操る能力と、自分と他人の『気』を操る能力がある。今は見えないけれど、本来の姿はそれはそれは綺麗な、恐ろしい程の純白な羽があらわれるのだ。

「荷物を浮かせるほどの風を起こしたら、確かにびっくりするよなぁ……」

「そういう問題か?」

 そんな話をしながら、トラックを返し自家用車で自宅に戻ってくると、陽は少し傾き始めていた。

「緋嶺」

 車を降りる直前、鷹使に呼ばれる。何? と聞く前に、彼の柔らかい唇に口を塞がれた。

 甘い、蜜のような味がして緋嶺はゴクリと喉を鳴らす。二人の相性が良い証拠のこの味は、何度味わってもクラクラする。

「ん……、ちょ、と……」

 緋嶺は鷹使の肩を押した。素直に離れた彼は、もう少し力を分けてくれ、と再び顔を近づける。

 鷹使と出会って約一年半。その間に二人は天使族の間で行われる、伴侶の契りを交わした。

 緋嶺の両親は鬼と天使で緋嶺は混血だ。それゆえに不確定要素が多く、力が強すぎるという理由で存在を消されそうになっていた。そんな大事なことも知らずに人間界で暮らしていた緋嶺に、鷹使は強引とも取れる方法で緋嶺を家に連れ帰り、一緒に暮らすようになる。

 そして紆余曲折あって、文字通り命懸けで緋嶺を護ってくれた鷹使に、緋嶺は惹かれていった。そして鷹使もまた、緋嶺が産まれてからずっと、緋嶺のことが好きだったと知る。

 鷹使は緋嶺の濡れたように黒い髪を、その細く長い指で梳いてきた。ざわざわと、産毛が逆立つような、でも甘い感覚に、緋嶺の意識はふわふわと微睡まどろんでいく。

 こうして口付けや、身体を繋げることで、お互いの力を分けたり、回復させたりできるのだ。天使はそれを【ちぎり】と呼んでいる。

「ぁ……、たか、し……」

 緋嶺は小さく声を上げると、鷹使は間近で琥珀の瞳を細めた。唇で緋嶺の下唇を食みながら、徐々にそのキスは深くなっていく。

「ちょっと……、ここでするのかよ?」

「……悪い、つい」

 緋嶺は鷹使を少しだけ睨むと、彼は笑った。

「明日から旅行だろ? 今日は残りの準備をしないと」

 そう、緋嶺たちは明日から二泊三日の旅行に行くのだ。緋嶺の命が狙われなくなって全ての決着が着いた時、鷹使が約束してくれた。

 伴侶としての契りを交わしてからの旅行──つまり新婚旅行だ。行き先は沖縄。行ったことがないので緋嶺はとても楽しみにしている。

「じゃあ、続きは家に入ってからな」

 ニヤリと笑う鷹使。わざとからかっていると分かった緋嶺は、かあっと顔が熱くなる。

「だから、しないって!」

 緋嶺は鷹使の肩を叩いた。すると彼は声を上げて笑う。


 それが悔しくて、緋嶺は少し乱暴に鷹使を胸ぐらを掴んで引き寄せると、その薄い唇に口付けをした。
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