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言葉も出ない
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午前中にやらなければいけないことをさっさと終わらせて、あとのことは新海に指示を出し、急いで駐車場に向かった。
運転席に乗り込んだ瞬間を見計らったように、上着の内ポケットに入れていたスマホが振動を伝える。
要さんか?
プライベート用のスマホだとわかってすぐに取り出すと画面表示には<氷室誠一>の名前があった。
ほんの少しがっかりした気持ちを持ちながらも、きっと新海の件ですぐに連絡をくれたのだろうと思い、急いで電話をとった。
ーもしもし、氷室。
ー今大丈夫か?
ーああ、今日は午後休取って今から帰るところだから問題ないよ。
ーお前が午後休? 珍しいな。
ーまぁな。
ーははっ。恋人さん絡みか。なるほどな。
どうやら私の声だけで午後休を取った理由に気づかれたようだ。
今日の私は全てにおいて色気を出してしまっているのかもしれない。
要さんとの幸せで濃密な時間を過ごしたのだからそれも仕方ないか。
ーそれで、舞川さんの件が無事に終わったという報告か?
ーああ、新海さんから聞いたのか。そうだ、さっきスアヴィスに足を運んで正式に退職することで合意した。もちろん、退職金も満額貰ったぞ。
ーおお、さすがだな。
こんなにも早く解決できるとは、やっぱり氷室に任せてよかった。
ーそれともう一つ、真壁に報告がある。
ー報告?
ーああ、スアヴィスに搾取されていた舞川さんへのデザイン料の件だが、あれも全て返還させることで合意した。
ーえっ? はっ?
まだその件は調査中だったが、いつの間に?
驚く私をよそに氷室は言葉を続ける。
ー実は、真壁から舞川さんのデザイン料の件を聞いてからすぐに成瀬に相談したんだ。そうしたらすぐに調査に入って、会社ぐるみで舞川さんのデザイン料を搾取している確固たる証拠を掴んできた。
ーうそだろ……っ。
あの話を氷室にしてからまだそんなに時間が経っていないのに。
成瀬の調査能力の高さにただただ驚きしかない。
ーマジだよ。あっちも一応顧問弁護士を同席させてたが、俺の出した証拠資料にぐうの音も出ない様子だったよ。まぁあれだけの証拠を突きつけられたら普通の弁護士なら諦めるな。それで全てのデザイン料を返還するという書類を交わしたから、近日中に舞川さんの口座に振り込まれることになった。
ー近日中に? そう、なのか……すごいな……。
もはや言葉も出ない。
成瀬と氷室が手を組むとこんなにも早く解決するんだな。
成瀬が氷室と一緒に独立した理由がわかった気がする。
ーなぁ、舞川さんへのデザイン料……合計でいくらだったと思う?
ーえっ? いや、全然想像つかないが、数百万くらいか?
専門外のことでデザイン料の相場がよくわからないが、一件あたり多くても数十万ってところだろう。
だが氷室は私の予想に笑い声で返した。
ーははっ。桁が違うよ。九桁目前だぞ。
ー九桁? ええっ?
ー流石の真壁も驚いただろう? 相手が世界中の名だたるセレブだからデザイン料も法外だよな。
法外なんてものじゃない。
いくつデザインをこなしたかわからないが、それでも九桁目前とは……。
舞川さんのデザインがどれだけセレブたちを虜にしているかよくわかる。
ーそれを数万円の残業代くらいしか渡してなかったんだから相当悪質だよ。速やかに全額返還しない場合は、訴えると伝えたらすぐだったな。まぁ、これが公になれば世界中のセレブたちから目をつけられることになるから今後国内外での全ての仕事に就けない事態を招くからな。それだけは避けたかったんだろう。会社を潰してでも金をかき集めて全額返還するということになった。
ーそうか……。氷室と成瀬には世話になったな。
ーいや、本当に大したことはしてないんだ。それに今回は金額が金額だけにこちらも成功報酬をたくさんもらえるからwin-winだよ。
氷室はそんなふうに言っているが、二人でなければ全額を返還してもらうのは難しかっただろう。
ーまぁ、そういうことで舞川さんの件は解決済みだ。当分仕事はしないでいいくらいの余裕はできただろうから、舞川さんも安心してくれるはずだ。お前の部下の新海さんもこれで心配事がなくなっただろう。
ーああ、本当に助かったよ。ありがとう。また何かあったら氷室に頼むよ。
ーははっ。俺の実力を示すことができてよかったよ。じゃあ、近いうちにまた会おうな。
ーありがとう。連絡するよ。
そう言って電話を切ると、新海からメッセージが来ていた。
<氷室先生から全て解決したとの連絡を受けました。その詳細を今日話に来てくださるそうです。警視正のおかげでこんなにも早く解決しました。ありがとうございます。新海>
どうやら私よりも先に氷室は新海に連絡を入れていたようだ。
デザイン料については何の記載もないから、直接話をして喜ばせるつもりなのだろう。
氷室らしい。
だが、舞川さんにとっては自分のデザインが海外でこんなにも評価されていることについて大きな自信になるだろう。早く周平さんの話も進めてやりたいところだな。
運転席に乗り込んだ瞬間を見計らったように、上着の内ポケットに入れていたスマホが振動を伝える。
要さんか?
プライベート用のスマホだとわかってすぐに取り出すと画面表示には<氷室誠一>の名前があった。
ほんの少しがっかりした気持ちを持ちながらも、きっと新海の件ですぐに連絡をくれたのだろうと思い、急いで電話をとった。
ーもしもし、氷室。
ー今大丈夫か?
ーああ、今日は午後休取って今から帰るところだから問題ないよ。
ーお前が午後休? 珍しいな。
ーまぁな。
ーははっ。恋人さん絡みか。なるほどな。
どうやら私の声だけで午後休を取った理由に気づかれたようだ。
今日の私は全てにおいて色気を出してしまっているのかもしれない。
要さんとの幸せで濃密な時間を過ごしたのだからそれも仕方ないか。
ーそれで、舞川さんの件が無事に終わったという報告か?
ーああ、新海さんから聞いたのか。そうだ、さっきスアヴィスに足を運んで正式に退職することで合意した。もちろん、退職金も満額貰ったぞ。
ーおお、さすがだな。
こんなにも早く解決できるとは、やっぱり氷室に任せてよかった。
ーそれともう一つ、真壁に報告がある。
ー報告?
ーああ、スアヴィスに搾取されていた舞川さんへのデザイン料の件だが、あれも全て返還させることで合意した。
ーえっ? はっ?
まだその件は調査中だったが、いつの間に?
驚く私をよそに氷室は言葉を続ける。
ー実は、真壁から舞川さんのデザイン料の件を聞いてからすぐに成瀬に相談したんだ。そうしたらすぐに調査に入って、会社ぐるみで舞川さんのデザイン料を搾取している確固たる証拠を掴んできた。
ーうそだろ……っ。
あの話を氷室にしてからまだそんなに時間が経っていないのに。
成瀬の調査能力の高さにただただ驚きしかない。
ーマジだよ。あっちも一応顧問弁護士を同席させてたが、俺の出した証拠資料にぐうの音も出ない様子だったよ。まぁあれだけの証拠を突きつけられたら普通の弁護士なら諦めるな。それで全てのデザイン料を返還するという書類を交わしたから、近日中に舞川さんの口座に振り込まれることになった。
ー近日中に? そう、なのか……すごいな……。
もはや言葉も出ない。
成瀬と氷室が手を組むとこんなにも早く解決するんだな。
成瀬が氷室と一緒に独立した理由がわかった気がする。
ーなぁ、舞川さんへのデザイン料……合計でいくらだったと思う?
ーえっ? いや、全然想像つかないが、数百万くらいか?
専門外のことでデザイン料の相場がよくわからないが、一件あたり多くても数十万ってところだろう。
だが氷室は私の予想に笑い声で返した。
ーははっ。桁が違うよ。九桁目前だぞ。
ー九桁? ええっ?
ー流石の真壁も驚いただろう? 相手が世界中の名だたるセレブだからデザイン料も法外だよな。
法外なんてものじゃない。
いくつデザインをこなしたかわからないが、それでも九桁目前とは……。
舞川さんのデザインがどれだけセレブたちを虜にしているかよくわかる。
ーそれを数万円の残業代くらいしか渡してなかったんだから相当悪質だよ。速やかに全額返還しない場合は、訴えると伝えたらすぐだったな。まぁ、これが公になれば世界中のセレブたちから目をつけられることになるから今後国内外での全ての仕事に就けない事態を招くからな。それだけは避けたかったんだろう。会社を潰してでも金をかき集めて全額返還するということになった。
ーそうか……。氷室と成瀬には世話になったな。
ーいや、本当に大したことはしてないんだ。それに今回は金額が金額だけにこちらも成功報酬をたくさんもらえるからwin-winだよ。
氷室はそんなふうに言っているが、二人でなければ全額を返還してもらうのは難しかっただろう。
ーまぁ、そういうことで舞川さんの件は解決済みだ。当分仕事はしないでいいくらいの余裕はできただろうから、舞川さんも安心してくれるはずだ。お前の部下の新海さんもこれで心配事がなくなっただろう。
ーああ、本当に助かったよ。ありがとう。また何かあったら氷室に頼むよ。
ーははっ。俺の実力を示すことができてよかったよ。じゃあ、近いうちにまた会おうな。
ーありがとう。連絡するよ。
そう言って電話を切ると、新海からメッセージが来ていた。
<氷室先生から全て解決したとの連絡を受けました。その詳細を今日話に来てくださるそうです。警視正のおかげでこんなにも早く解決しました。ありがとうございます。新海>
どうやら私よりも先に氷室は新海に連絡を入れていたようだ。
デザイン料については何の記載もないから、直接話をして喜ばせるつもりなのだろう。
氷室らしい。
だが、舞川さんにとっては自分のデザインが海外でこんなにも評価されていることについて大きな自信になるだろう。早く周平さんの話も進めてやりたいところだな。
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