ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

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私が尊重すべきなのは……

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<side磯山卓>

私たちでさえ、心を開いてくれるのに少し時間がかかったというのに、昇はいとも簡単に直純くんの心に入ってしまったようだ。

昇が帰ると言った時のあの悲しげな表情……。

やはり昇が直純くんを最愛の存在だと感じたように、直純くん自身はわからずとも、無意識に昇が最愛の存在だと感じているのかもしれない。

あんな表情をされては、昇も帰るのが辛かっただろうな。
少しでも早くこの家で生活できるように毅を説得すると言って帰って行ったが、毅は出発までの残りの時間を家族で過ごしたいと言っていた。
それまで直純くんが待っていられるかどうか……。

それが心配だな。

昇が帰った後、絢斗が直純くんを心配してリース作りに誘っていたが、うまく集中できないようだ。
やはり昇と離れたことが今の直純くんにとって耐え難いことなのだろう。

おやつも食べたがらないくらいに落ち込んでいたから、夕食も減らしてみたが、それでも箸が進まなかったようだ。

「無理して食べなくていいよ」

絢斗の言葉に、何度もごめんなさいと言って箸を置いていた。

ここにきて食事を残したのは初めてのことだろう。

「ねぇ、早く昇くんをここで住まわせられないかな? このままじゃ、直純くんが……」

夕食を終え、直純くんが風呂に入るとすぐに心配そうな表情で絢斗がそう言ってきた。

「そうだな……。あれほど極端に気持ちが落ち込むとは思わなかったな。それほど直純くんにとって昇の存在が大きくなっているということか……」

「うん、本人は全く気づいていないけどね。ねぇ、卓さんから、毅さんにお願いできない?」

「そうだな……だが、これから昇と離れて暮らすことになる毅の気持ちもわかるんだ。出発までのわずかな時間、家族で過ごしたいと言われたらそれまで奪うのは毅にも酷だろう」

「それはそうだけど……」

「とりあえず一晩様子を見よう。どうしてものときは明日の朝にでも連絡してみるよ」

「うん、お願いね」

いつもはお風呂から楽しそうに上がってくる直純くんの表情が暗い。

絢斗が

「今日は早く寝た方がいい」

と声をかけると、レモン水を少しだけ飲み、早々にベッドに入った。
その後ろ姿がなんとも寂しそうでたまらなかった。

部屋の様子を伺っていたが、部屋から出る様子はない。

なんとか眠れたようだな。

ホッとして、私たちも今日は早く床に就く。

「今頃、昇くんはどうしてるかな?」

「毅の望むように家族の時間を過ごしているんだろう。昇は両親思いの良い子だからな」

「それでも、今の直純くんの様子を知ったら、すぐに帰ってくるんじゃないかな?」

「ああ、だからそれを告げるべきか悩んでいる」

「毅さんの気持ちも昇くんの気持ちも、それに直純くんの気持ちも全部わかるから辛いところだね」

絢斗に言われて、ドキッとする。

今の私は誰の気持ちを一番尊重するべきなのか。

私は直純くんを守るためにこの家で預かることを決めたんじゃなかったか?
それなら何を置いても直純くんを守らなくてはいけないんじゃないか?

毅は大事な弟だが、直純くんは私の息子同然。
その彼にあんな寂しそうな表情をさせたまま、何日も過ごさせるのは父親として、許されないのではないか?

「絢斗……ちょっと、直純くんの様子を見てくるよ」

「うん、私も一緒に行く」

笑顔になった絢斗と一緒に直純くんの部屋に向かう。

そっと扉を開け、中に入ると、

「えっ……いない……」

ベッドはもぬけの殻。

直純くんの姿は見えなかった。

もしかして、外に出たのか?

いや、そんな物音はしなかった。

「卓さん、あっちを見てみよう」

焦る私を横目に絢斗は冷静に声をかけてくる。

「絢斗、心当たりがあるのか?」

「なんとなく……来て」

絢斗に手を取られ、直純くんの部屋を出ると、絢斗はそのまま隣の客間の扉を開けた。

「絢斗、ここは……」

「しっ。静かに」

小声でそう注意されて慌てて口を噤む。

そして、そっと中に入ると、入り口から漏れる光に照らされてベッドの膨らみが見えた。

「あっ!」

そこには丸まって首まで布団に潜り込んだ直純くんの姿があった。

「きっと、寂しかったんだよ……だから、昇くんの匂いを探したんだと思う」

「そうか……」

もうそれほどまでに直純くんが昇を求めているのなら、これ以上離れ離れにさせるわけにはいかない。

私は何かあった時のためにと持っていたスマホを取り出し、客間のベッドで眠る直純くんの写真を撮り、

<昇、すぐに戻ってこい。直純くんを悲しませるな>

というメッセージと共に送った。

これできっと明日の朝には、昇は来てくれるはずだ。

毅には私から話しておこう。
直純くんのこれまでの環境も全て……。

あいつならきっとわかってくれるはずだ。

だが、それから二十分も経たないうちに昇が我が家にやってきたことには、流石に驚きを隠せなかった。
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