ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

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守ってあげたい

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<side昇>

直純くんを胸に抱いたまま眠った夜は、漲る性欲との戦いだったけれど、それ以上に俺を幸せに満ちたりた時間を過ごさせてくれた。

俺よりも一回り以上小さな直純くんを腕に抱き、安心しきった顔で幸せそうに眠る姿を見られるのは何よりも変え難い。
そう、自分の欲望よりもずっと。

これまで誰かを自分のプライベートな部分に入り込ませたことなど一度もなかった。
それなのに、直純くんを胸に抱いた時、自分の欠けていた部分が塞がったようなそんな気がした。

やっぱり直純くんは俺にとって失ってはいけない存在なんだと改めて感じた。

だから、俺は朝食を終えて、早々に自宅に戻ることにした。

父さんが海外赴任の間、伯父さんの家に住まわせてもらうことは、俺の大学合格と引き換えに認めてもらったけれど、父さんは海外に出発するその日まで、家族で暮らす事を希望していた。

一旦はそれでも仕方がない。
そのあとはずっと直純くんのそばに居られるのだから……。
そう納得しようと思っていた。

けれど、一緒に寝てわかったんだ。

もう一日だって離れていたくない。

だから、すぐに伯父さん家に移れるように父さんを説得しようと考えたんだ。

――えっ、もう……帰っちゃう、んですか……?

俺が帰るというと、少し潤んだ目でそう言ってくれた直純くん。
そんな顔を見せられたら、本当は帰りたくなかった。

でも、これからのためだと、必死に思いを断ち切って自宅に戻った。
家に向かっている間も考えることは直純くんのことばかり。

自宅に帰ると、両親は手放しで出迎えてくれたけれど、

「昇……お前、何かあったのか?」

と顔を見てすぐにそんな言葉をかけられた。

「なんで?」

「なんでって……見るからに行く前と顔つきが違うじゃないか」

「卓さんの家で何かいいことでもあったんじゃないの?」

自分では気づかなかった表情の変化に両親はすぐに気がついたようだ。

直純くんのことを話したらどうなるだろう……。
一緒にいたいから、日本を離れたくない。

この地に留まりたい最優先の理由が将来のことでも大学のことでもないと知られたら、あの約束も反故にされてしまうんじゃないか。
そんなことが頭をよぎった。

けれど、直純くんの存在を無しにはしたくなかった。

「そのことがあったから、急いで帰ってきたんだ。父さんと母さんに話がある。リビングで待ってて」

そう言って、俺は荷物を部屋に置きに行った。

この部屋ともお別れ。
だが、寂しさよりも今は直純くんのことで頭がいっぱいだった。

「それで、話ってなんだ? 昨日の話なら、もう了承しただろう。兄さんとも約束したし、今更変えるつもりは無い」

「そのことはわかってくれてありがたいと思ってる。そうじゃなくて、俺はこれからのことを話したいんだ」

「これからのこと?」

「ああ、父さんたちがフランスに発つまで、ここで親子三人で過ごしたいって話だったけど……悪い。すぐに伯父さん家で生活を始めたいんだ」

「――っ、なぜだ? もうあと少ししか無いのに……」

「ごめん……実は、今伯父さん家に直純くんっていう中学生の子がいるんだ。その子のそばに居てやりたい。少しの時間も離れていたく無いんだ」

「な――っ、お前……それって……」

「俺は彼に好意を持ってる。それは誤魔化したりしない。でも……そばに居てやりたいのはそれだけが理由じゃ無いんだ」

辛い思いをして生きてきた直純くんが笑顔を見せてくれるようになった。
その笑顔を守ってやりたい。

「昇は本気でその子を守ってあげたいのね」

「母さん…‥そうなんだ」

「二葉、どういうことだ?」

「少し絢斗さんから話を聞いていたの。母親に洗脳されて、抑圧的な生活を送っていた子を預かってるって。なかなか洗脳が解けなくて、手探り状態だけどようやく心を開いてきてくれているって。今回の昇の宿泊も、その彼とうまく付き合っていけるかどうかのお試しだったのよね」

「母親に洗脳? そんな子が……」

父さんは驚きを隠せないみたいだ。

「父さん、母さん。頼むから許してほしい。少しでも早くそばに居てやりたいんだ」

「まぁ、待て。少し落ち着け。お前がそう突っ走るのはわかる。だが、彼の気持ちを聞いたのか? もしかしたら、お前が帰ってホッとしてるかもしれないぞ」

「そんなこと……っ」

「絶対にないと言い切れるか? 一晩様子を見ても遅くはないだろう。お前だって、この家から出て兄さん家で暮らすなら、荷物をまとめる時間もいるだろう。とりあえず、今日は部屋の片付けをしなさい。まだしばらく日にちがある。彼がどうしてもお前を必要とするなら、兄さんからでも連絡が来るはずだ。そうだろう?」

「――っ! わ、わかった。じゃあ、伯父さんから連絡が来たらすぐに向かうから。それでいいだろ」

「ああ、わかった。好きにしろ!」

「よし!」

俺は言質をとったとばかりに声を上げ、急いで部屋に戻り荷物をまとめ始めた。

この家は海外赴任の間もそのままにしておくそうだから、いつだって取りに来られる。
最低限必要なものだけまとめればいい。

そう考えたが、意外と荷物はあるものだ。

処分するものもわけながら片付けを進めているとあっという間に夜になっていた。

だいぶ片付いたな。
これなら連絡が来次第、すぐにいけそうだ。

ああ……今頃、直純くんは何をしているんだろうな……。

俺のことを少しは思い出してくれているだろうか……。

昨夜は楽しかった。
ずっと直純くんが腕の中にいてくれて……。

それなのに、今は部屋に一人。
まるで半身をもがれたように寂しい。

ベッドに入ってもなかなか寝付けず、勉強でもしようかと机に向かっていると、突然スマホから通知音が聞こえた。

こんな夜中に一体誰が……?

画面を見ると、そこには伯父さんの名前があった。

写真付き?

意味もわからずにとりあえず画面を開くと

「――っ!!!!! これは、直純くん??」

ベッドに丸まって眠る直純くんの姿。

「これ……俺が、いた客間?」

それがわかった瞬間、言葉にならない衝撃が走った。

<昇、すぐに戻ってこい。直純くんを悲しませるな>

写真にはこんなメッセージもついていて、俺はすぐに部屋を飛び出し。

「父さん! 母さん!!」

二人の部屋の扉を叩いた。

「どうしたんだ? こんな夜中に」

「伯父さんから連絡が来た。すぐに戻るよ!」

「はっ? 今から? どうして……」

そんな言葉を告げる父さんに、さっきのメッセージを見せる。

「俺に会いたくて、俺が昨日寝ていたベッドに潜り込んで寝ているんだ! こんなにまで俺を恋しがってくれている子をこれ以上一人にしたくない!!」

「そんなにまで、昇のことを……」

父さんも母さんも驚いていたものの、最後にはわかったと言ってくれた。

すぐに最低限の荷物をまとめて出ようとすると、

「私が兄さん家まで送るよ」

と父さんが言ってくれた。

そうして、俺はあのメッセージをもらって二十分ほどで直純くんの元に戻ってきたんだ。
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