南国特有のスコールが初恋を連れてきてくれました

波木真帆

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嬉しい贈り物

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私は砂川さんと彼女の間にさっと入り、

「砂川さんからこちらのアイスが美味しいとお薦めいただいたんですよ」

と笑顔を向けると、彼女はポッと頬を染めながら私を見た。

「あ、あの……悠真さんのお友達の方ですか?」

「ええ、そうなんです。今日はたまたまあそこの宿に泊まることになったんですが、あなたを紹介していただけたのでツイてましたね」

「えっ、そんな……私、恥ずかしい……」

赤く染めた頬を両手で押さえながら、私を上目遣いで見つめてくる。
さっきまで砂川さんに必死にアプローチしていたというのに……。


「これも砂川さんの車がパンクしたおかげですね。後輪が2つともパンクするなんて驚きましたけど」

「えっ? パンク? エンジンが壊れたんでしょ?」

「いえ、パンクですよ。私も一緒に乗ってましたから。危うく海に落ちるところでしたよ」

「そんな訳ない! だって私がエンジンに――あっ!」

慌てて口を手で押さえる彼女に、

「エンジンに、なんですか?」

と尋ねると、

「えっ、いや、その……」

と挙動不審な態度を見せる彼女を見てこれはもう間違いないと思った。

「あなたが彼の車を意図的に故障させたんですね?」

「ちが――っ、だって、悠真さん最近石垣に来ても日帰りばかりで全然ここに来てくれないから!
車を壊せば、今日はもう西表には戻れないと思って……それで……」

泣き出す彼女を前に、私は

「いいですか? あなたのやったことは犯罪ですよ。一歩間違えれば彼の命が危険に晒されるところだったんです。警察に連絡しますから」

と冷静に話すと、

「なんでよ! 私が悪いんじゃない! 悠真さんが私を避けるから! だからここに来てもらおうと思ってちょっと車をいじっただけじゃない! 別に怪我してるわけでもないし。だから私は悪くない!」

と大声で叫び出した。

「あなたがそう思うのなら警察でもそう主張なさったらいい。あなたの味方をしてくれる優秀な弁護士が見つかるといいですね。言っときますが、私は彼のためにあなたとその弁護士と戦いますよ」

「えっ? どういうこと……?」

「私は弁護士なんですよ。ちなみにあなたがさっき語ったことは全て録音済みですから、あなたが彼の車を意図的に壊して彼を危険に晒そうとしたことは明白ですよ」

「嘘……っ」

顔面蒼白で力無くその場に座り込んだ彼女をほったらかしにして、私は急いで警察に電話をかけた。
5分もしないうちに近くの交番から警察官が二名やってきて、私は事情を説明した。

「すみませんが、この店のアイスも調べてください。彼女がなにか細工をしている可能性があります」

「――っ! そ、そんなこと何もしてない! 勝手に触らないで!」

私の言葉に力無く座り込んでいた彼女が青褪めた顔で急に立ち上がり暴れ始めた。
その姿に警察官たちも私の話に信憑性があると感じたのか、すぐに応援を呼び始めた。

少し青褪めた顔をしている砂川さんに、

「大丈夫ですか? 少し顔色が悪いですよ」

と声をかけると、

「すみません。余計なことに巻き込んでしまって」

と頭を下げてくる。

砂川さんが悪いことなんて何もしていないのに。

「いいえ、今日は無事に済みましたが、今回のことが公にならなければ次はもっと酷い手を使ってあなたを引き止めようとしたかもしれません。ですから、今日私がいるときに犯人を捕まえることができてよかったんですよ」

「安慶名さん……ありがとうございます」

知らないうちに変な女に狙われていた彼が、こんな言葉で癒せるなどとは思ってはいないが少しホッとした顔を見せてくれたのがせめてもの救いだった。

それから応援にきた警察官たちに事情を説明し、ようやく宿へと戻ったのはもうすっかり日も暮れて暗くなってしまっていた。

あんなことがあったばかりだ。
食欲もまだないかもしれない。

「砂川さん、洋服を見に行きませんか? 着替えが必要でしょう」

「あ、そうですね」

彼はようやく少し笑顔を見せてくれた。
よかった。ちょうど良い気分転換になりそうだ。

宿の中にあるお店はさすが浅香さんのお店だけあって、生地もデザインもセンスも抜群な上に、値段はそこまで高価すぎない。
いいものだけを吟味しておいているという印象だ。

「私、その……下着を選んできますね」

少し赤い顔をしながら私のそばを離れる彼の姿を見て、すぐにあの時の美しい肢体が脳裏に甦ってくる。
いい加減頭から消し去らなければと思っているのに、私の服の下にあんなにも美しい身体が隠れているのかと思うだけで昂ってしまう。

本当にこんなこと初めてだ。
私は自分の心に戸惑いながら、下着を選ぶ彼に背を向け彼に似合う服を選び始めた。

明日は一緒に西表の会社に向かうのだから、クリーニングに出しているあのスーツを着るんだろうが、私が選んだ服も着て欲しい。

そう思いながら服を見ていると、彼に似合いそうなシャツとズボンを見つけた。
私はそれを合わせてとり、彼の元へと持っていった。

「安慶名さんも買い物されますか?」

「いえ、これは砂川さんの服です。試着してみませんか?」

「えっ、でも……」

「さぁ、どうぞ」

半ば強引に試着室へと案内し、彼が出てくるのを待った。

しばらく経って試着室のカーテンが開き

「どうでしょうか?」

「――っ!」

出てきた彼に思わず見惚れた。

彼に似合うと思って手渡した服だが、想像以上に似合っていて実に美しい。

「よくお似合いですよ、これにしましょう」

綺麗に畳まれた服を持ち試着室から出てきた彼の手から服を受け取り、

「下着は決まりましたか?」

と問いかけると少し恥ずかしそうに『はい』と言いながら、

「あの、こちらは安慶名さんの下着です。先ほど私がお借りしてしまったもののお返しにと選ばせていただきました」

と見せてくれた。

「私のことはお気遣い頂かなくても……」

「いえ、それじゃあ私の気がすみません」

「そうですか? ではお言葉に甘えて。その代わりこちらの服は私が贈らせていただきますね」

「えっ、そんな……下着と洋服では値段も……」

「ふふっ。いいんですよ。選ぶのも楽しかったので喜んでいただけたほうが嬉しいですよ」

そう言って、彼の服をレジへと持っていき包んでもらった。

彼はその後ろから自分と私の下着をレジに出し同じく包んでもらっていた。

私の選んだ服を彼が着てくれるばかりか、私の下着を選んでくれるとは……。
嬉しすぎておかしくなりそうだな。
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