溺愛弁護士の裏の顔 〜僕はあなたを信じます

波木真帆

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誰か助けて!

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「真琴くん、こっちにきて。事務所の中、案内するから」

そう言って広い事務所の中を一通り説明してくれた。

「資料、途轍もない量ですね」

「そうなんだ、だから整理してくれる人が見つかってホッとしているよ。明日は土曜日だけど来られるかな?」 

「はい。大丈夫です。何時に来たらいいですか?」

「そうだな、9時に来てもらおうかな。明日雇用契約書用意しておくから判子持ってきてね」

「はい。わかりました」

「じゃあ、駅まで送るよ」

「いえ、そんな。ここから駅まで近いですし、駅降りたらすぐなので大丈夫です」

「そう? 気をつけるんだよ」

「はい。今日は本当にありがとうございました。明日からよろしくお願いします」

優一さんの事務所を出て駅へと向かう。
うちからもそんなに離れてない場所で交通の便が良さそうで本当によかった。

ラッシュ前の比較的人が少ない電車に乗れたおかげで珍しく席に座ることができた。
と言ってもここからだと電車で3駅くらいだからすぐに着いちゃうけど。

あーあ、それにしてもあのコンビニの店長さんの態度は酷かったな。

そもそも僕はあのコンビニで働きたくて働いていたわけじゃない。
あのコンビニでバイトをしていた友人の田淵たぶちくんがバイト帰りに事故に遭って2ヶ月入院することを知って、僕はお見舞いに行ったんだ。
そうしたら、病室から怒鳴り声が聞こえて……慌てて中に入ったら、田淵くんがあの店長からものすごく怒られてたんだ。

お前が休むせいでうちは休業しないといけなくなる。
どうする気なんだ!
さっさと退院してうちに働きに来い!
それができないなら代わりを連れてこい!

そう怒鳴りつけられている田淵くんが可哀想になって、僕が代わりに働きますって言ってしまったんだよね。

田淵くんはそんなことしなくていいって止めてくれたけど、もう店長はそれを聞いて一気に怒鳴るのをやめたからもうそれでいいかって思ってた。
彼が治るまでならと一生懸命バイトしていたのにあんなふうにすぐにクビにされるなんて思っても見なかった。
自分なりに大切な存在だと思ってもらえてると思ってたのにな。
ただ単に都合がいいように使われてただけだったんだな。

田淵くんにはバイトを辞めたことを伝えておこう。
まだ入院中の田淵くんに心配かけてしまうのは申し訳ないけれど、あの状況では辞めるしかなかったし。
田淵くんが治ったら、新しいバイト探すのを手伝おう。

今回の冤罪はすごく嫌だったけど、店長がどんなふうに僕のことを見ていたのかわかってよかったのかも。
優一さんのおかげでさっさと辞めることができたし。

翼さんのように優一さんに必要とされるパラリーガルになれるように頑張ろう!!
もしかしたらこれが僕の天職になれるかも!

なんて、まだ働きもしていないのに気が早すぎだと自分で自分にツッコミを入れながら、僕は電車を降り自宅マンションへと向かった。

僕が住んでるマンションは兄さんの会社の社長さんである倉橋さんの持ち家だけあって、駅からのアクセスもすごくいい。
周りにコンビニもスーパーもあって生活するには十分な場所だ。

ただ、セキュリティも万全でコンシェルジュ付きのこの超高級マンションが大学生の僕には分不相応だという以外は。

こんな田舎っぽい大学生がこんなすごいマンションに入っていくのをおかしいと思われないかなといつも家に入る時ドキドキしてしまう。

いつも通り広い玄関から敷地内に入ろうとしたところで、

「おい! ちょっと待て!」

と聞き慣れた声に呼び止められた。

誰? と振り返ると、そこにはあの店長の姿があった。

「えっ――? な、なんで店長がここにいるんですか?」

「お前が仕事辞めるの撤回させようと思って、わざわざきてやったんだよ。ってか、お前、履歴書に嘘の住所書いてたろ? 居場所突き止めるのに苦労したんだぞ」

「突き止めるって……もしかして、僕のこと尾行してたんですか?」

「ああ。お前があの駅を使うところまでは把握してたからな。今日はずっと駅で見張ってたんだよ。ってか、お前やっぱり男いるんだろ?」

「ど、どういう意味ですか?」

「やっぱあのおばさんが言ってたこと、本当だったんじゃねぇの? 男に貢がせて自分は高級マンションで悠々自適生活かよ」

「そんな、違います! ここは安く借りてるだけで……」

「だからそれがパトロンなんだろ? そうでもなきゃこんな億ションに大学生が住めるわけねぇだろ。お前にそんなに男をたらし込める才能があるとはな。こんなとこ住めるなんてどんだけの男を手玉に取ってんだよ」

何を言っているのか意味がわからない。
でも侮辱されていることだけはわかった。

「いい加減にしてください! おかしなこと言わないでさっさと帰ってください!」

「なんだと?! 俺がわざわざうちでもう一度働かせてやるって言いにきてやったってのに、その言い草はなんだ?」

「働かせる? 結構です。僕、もう別の仕事が決まりましたから」

「はぁ? ふざけんなよ。俺のこと舐めすぎだろ! あの弁護士が味方になったからって大きな顔すんなよ! お前は俺の下で従順に働いてればいいんだよ。ほら、さっさと戻ってきて働けっ!」

「――っ! いたっ! やめてっ! 離してっ! やめてくださいっ!」

ガッと力強く腕を掴まれて、近くに止めてあった車のところまで引き摺られて連れ込まれそうになる。

「ぃや――助けてっ!」

必死に逃げようとしたその時掴まれていた腕が急に離れ、誰かに優しく抱きしめられる感触があった。
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