溺愛弁護士の裏の顔 〜僕はあなたを信じます

波木真帆

文字の大きさ
上 下
7 / 88

これって現実?

しおりを挟む
「ぐはっ――っ!!」

苦しげな声が微かに耳に入ってくる中、大きくて逞しい身体に抱きしめられた僕の頭上から

「もう大丈夫だよ」

と安心する声が耳に飛び込んでくる。

えっ?
この声って……。

そっと見上げると、そこには優一さんの姿があった。
なんでここに優一さんが?

「あ、あの……」

「怖い思いをさせて悪かった」

「いえ、そ、んな……あの、でも、なんでここに……?」

「詳しいことは後で。まずはこいつをなんとかしてからだ」

混乱する僕を抱きしめたまま優一さんが鋭い視線を向けた先には、さっきまで僕を押し込もうとしていた車に寄りかかって苦しそうに踠く店長と、その店長を取り押さえている警察官二人の姿があった。

「おいっ、離せよ! 急に何しやがんだ! 俺は何もやってないだろうがっ!」

「うるさい! 静かにしろっ!」

取り押さえている警察官の人からそう怒鳴られた店長は、苦しそうに踠きながら優一さんに目を向けた。

「な――っ! お前――っ、弁護士のくせにこんなこと、していいと思ってんのか? 傷害罪で訴えてやるからな!」

「傷害罪、ね……。あなた、今の状況わかってますか? 彼への暴行罪で現行犯逮捕ですよ」

「た、逮捕? はぁっ? ふざけんなよ! こんなことで逮捕なんてできるわけないだろうが! 離せよっ!」

「ああ、暴れると公務執行妨害もプラスされますよ。言っておきますが、あなたが彼にした内容は全て録画済みです」

「録画? 勝手に人のこと撮るなんてそれこそプライバシーの侵害だろうがっ!」

「犯罪行為にプライバシーの侵害も何もないでしょうが。それに……ちょっと失礼」

そう言いながら、優一さんは僕の上着の内ポケットにスッと手を入れるとそこから何かを取り出した。

えっ? 何これ? 僕、こんなの入れてたっけ?

驚く僕を横目に優一さんは取り出したものを店長と警察官さんに見せながらボタンを押した。

――お前は俺の下で従順に働いてればいいんだよ。ほら、さっさと戻ってきて働けっ!

どうやらボイスレコーダーだったらしいそれからさっきの店長の言葉が響き渡り、店長の顔色がどんどん青褪めていく。

「彼への強要罪も追加されそうですね。それに」

優一さんは僕の腕を持ち上げて、

「あなたが掴んだ指の跡がくっきりと残っている彼のこの腕、これこそ傷害罪ですね。医師の診断書も提出しますので逃げられませんよ」

とはっきりと言い切ると、店長はもうすっかり力が抜けてしまったようで膝から崩れ落ちた。

「ほら、しっかり立てっ!」

結局店長は二人の警察官さんに引き摺られるように、パトカーへと乗せられていった。

僕は目の前で起こる出来事がドラマや映画のように感じられて小さくなっていくパトカーをただ茫然と見つめていた。

「真琴くん、大丈夫?」

その声でハッと我に返り、慌てて優一さんを見ると、さっきまでの厳しい顔が嘘のように僕を優しく見つめていた。

「あ、はい。だ、いじょう、ぶです……」

「全然大丈夫じゃなさそうだな。このまますぐに部屋でゆっくりさせたいんだけど、証拠が消える前に病院で診察を受けさせたいんだ。私がついていくから、一緒に病院に行ってくれないか?」

大した怪我でもないし全然平気だけど、こんなにも心配してくれている優一さんにこれ以上心配かけたくない。

「はい。わかりました」

「――っ、よかった」

僕の言葉に優一さんは安堵のため息を漏らした。

「じゃあ、すぐに行こう!」

「わわっ!」

いきなり優一さんに抱きかかえられて驚いて優一さんの首にしがみつくと

「ふふっ。そうそう、そのまましがみついていて」

と嬉しそうに抱きしめる。
僕はまるでお姫さまのように抱っこされながら、少し離れた場所に停めていた優一さんの車の助手席にそっと乗せられた。

カチャっとシートベルトを閉められて、優一さんが運転席に乗り込んでくる。

「知り合いの病院がすぐ近くにあるからそこに連れていくよ」

そういうと、胸ポケットからスマホを取り出しどこかへメールを送っているようだった。
おそらくその病院に連絡してくれたんだろう。

「じゃあ、行くよ」

すぐ近くと言っていた通り、5分ほどで車は病院に到着した。
駐車場に車を停めると、優一さんは病院ではなくその病院に隣接している大きな家の方に入って行った。

「あの、ここって……?」

「ああ、今日病院は休診日だからね。こっちで診てもらおうと思って。さっきメール送っておいたから大丈夫だよ」

そう言いながら入っていく家は優一さんの事務所のお屋敷と負けず劣らずの大きなお家で驚いてしまう。

そりゃあこんなに大きなお家を持っている知り合いさんがいっぱいいれば、あの大きな家も大したことないなんて言えるんだな……。
優一さんって凄すぎる。
しおりを挟む
感想 73

あなたにおすすめの小説

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

処理中です...