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成瀬法律事務所
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食事を終え、
「さぁ、行こうか」
とテーブルの上にあった伝票をさっと取ってレジの方へと進んでいく優一さんを追いかけて、急いで財布を取り出した。
「あの、これ……」
手渡そうとした500円を優一さんは笑顔で
「今日はご馳走させて」
と僕の手をぎゅっと手を握りしめて言ってくれた。
ご馳走になるなんて申し訳ないけれど、これ以上断るのも失礼なのかもしれない。
「あの、ありがとうございます。ご馳走さまです」
「ふふっ。どういたしまして」
ああ、だめだ。
穏やかで優しい笑顔を見せてくれる優一さんにどんどん惹かれていく自分がいる。
助けてくれた恩人にそんな思いを持っちゃだめだってわかってるのに……。
「ここがうちの事務所だよ」
「うわっ、大きなお家ですね」
優一さんの車に乗って案内されたのはさっきの喫茶店から電車で2駅ほど離れた、大きな駅から徒歩で5分ほどの距離にあるお屋敷みたいな大きな家。
その入り口に『成瀬法律事務所』と書かれた看板がかかっていた。
東京でこんな大きなお屋敷みたいな家ってすごいな。
「建物は大きいんだが、2階から上は自宅なんだ。だから大したことないよ。今は私ともうひとりの弁護士、あとパラリーガルの子がひとりの3人でやってるんだ。事務作業やら雑用やらが追いつかなくてね、真琴くんがきてくれることになって助かるよ」
わっ、真琴くんって名前で呼んでくれた。
優一さんに名前呼ばれるのがこんなに嬉しいなんて思わなかったな。
「あの、パラリーガル……って?」
「ああ、そうか。パラリーガルというのはね、弁護士の秘書みたいなものかな。電話や来客の応対はもちろん、私たちのスケジュール管理をしてくれたり、事務所に届く郵便物を処理したり、裁判に必要な書類の準備と提出をしてくれたり……あとは裁判所や弁護士会へ挨拶に行ったりしてくれてるんだよ。今はそれプラス事務作業や雑用なんかもやってもらってたから、相当大変だったはずだよ。だから真琴くんがきてくれて彼が一番喜ぶだろうな」
パラリーガルってそんな大変な仕事なんだ……。
でもすっごくやりがいはありそう。
「お疲れー」
そう言いながら、中に入った優一さんにスーツ姿の長身の男性が
「お疲れー。あの案件、無事に終わったから……って、その可愛い子、誰? 新しい依頼人? にしてはお前の様子が違うな」
と興味津々で駆け寄ってきた。
うわっ、この人もすごいイケメンだ。
「おい、氷室、近づきすぎだ。翼くん、頼むよ。ちゃんと見張っといてくれ」
「ふふっ。はいはい。誠一さん、だめですよ。お客さんを怖がらせないでください」
翼くんと呼ばれた彼がスッと氷室さんの横に駆け寄ると、氷室さんは
「大丈夫だって。俺には翼だけだから。わかるだろう?」
と蕩けるような甘い声を彼にかけた。
「ふふっ。誠一さんったら」
「翼……」
うわっ、一瞬にして二人の世界に入ってしまった。
えっ……もしかしてこの二人って……?
見ているだけで顔が赤くなってしまう。
「おい、そろそろいいか? 彼の紹介をしたいんだけど」
「ああ、悪い悪い」
と言いつつも悪びれた様子もなく、氷室さんと翼くんの視線が僕に向けられる。
「今日からここで資料整理と雑用を手伝ってもらうことになった、砂川真琴くんだ。真琴くん。こっちが私と同じ弁護士の氷室誠一。大学の同期なんだ。そしてこっちがパラリーガルの西森翼くんだよ。資料に関しては彼が詳しいからわからないことがあったら翼くんに聞いて。真琴くん、挨拶できる?」
「はい。桜城大学3年生の砂川真琴です。ご迷惑にならないように精一杯頑張りますのでどうぞよろしくお願いします」
僕が頭を下げると、翼くんと呼ばれていた彼がにっこりと笑顔を向けてくれた。
「ふふっ。砂川くん、可愛い。僕のことは翼でいいよ。僕も真琴って呼んでいい?」
「あ、はい。ぜひ」
よかった。
翼さん、すごく優しそう。
仲良くなれそうだな。
「へぇ、桜城大学の子か。じゃあ、ゆくゆくは弁護士を目指してるの?」
「いえ、そんな……僕が弁護士だなんて……」
「じゃあ、僕と同じパラリーガルになるといいよ。そうしたら成瀬さんも楽になるでしょ?」
「ああ、そうだな。真琴くんが頑張ってくれたら嬉しいな」
「はい。僕、頑張りたいです!」
「ふふっ。真琴くん、可愛いな。じゃあ、俺が手取り足取り教えてやろうか?」
「えっ?」
「誠一さんっ!!」
「氷室っ!!」
「あ、いや。翼、冗談だって」
「もうっ! 本気で怒りますよ!」
少し拗ねた顔の彼を氷室さんがそっと抱きしめて、耳元で何かを囁くと彼は一気に顔を赤らめて小さく頷いていた。
「はぁーっ、真琴くん。悪いな、氷室の揶揄いも、この二人の痴話喧嘩もいつものことだから気にしないでいいよ」
「あ、はい。わかりました」
でも、さっき彼は氷室さんになんて言われたんだろう?
気になるなぁ。
「さぁ、行こうか」
とテーブルの上にあった伝票をさっと取ってレジの方へと進んでいく優一さんを追いかけて、急いで財布を取り出した。
「あの、これ……」
手渡そうとした500円を優一さんは笑顔で
「今日はご馳走させて」
と僕の手をぎゅっと手を握りしめて言ってくれた。
ご馳走になるなんて申し訳ないけれど、これ以上断るのも失礼なのかもしれない。
「あの、ありがとうございます。ご馳走さまです」
「ふふっ。どういたしまして」
ああ、だめだ。
穏やかで優しい笑顔を見せてくれる優一さんにどんどん惹かれていく自分がいる。
助けてくれた恩人にそんな思いを持っちゃだめだってわかってるのに……。
「ここがうちの事務所だよ」
「うわっ、大きなお家ですね」
優一さんの車に乗って案内されたのはさっきの喫茶店から電車で2駅ほど離れた、大きな駅から徒歩で5分ほどの距離にあるお屋敷みたいな大きな家。
その入り口に『成瀬法律事務所』と書かれた看板がかかっていた。
東京でこんな大きなお屋敷みたいな家ってすごいな。
「建物は大きいんだが、2階から上は自宅なんだ。だから大したことないよ。今は私ともうひとりの弁護士、あとパラリーガルの子がひとりの3人でやってるんだ。事務作業やら雑用やらが追いつかなくてね、真琴くんがきてくれることになって助かるよ」
わっ、真琴くんって名前で呼んでくれた。
優一さんに名前呼ばれるのがこんなに嬉しいなんて思わなかったな。
「あの、パラリーガル……って?」
「ああ、そうか。パラリーガルというのはね、弁護士の秘書みたいなものかな。電話や来客の応対はもちろん、私たちのスケジュール管理をしてくれたり、事務所に届く郵便物を処理したり、裁判に必要な書類の準備と提出をしてくれたり……あとは裁判所や弁護士会へ挨拶に行ったりしてくれてるんだよ。今はそれプラス事務作業や雑用なんかもやってもらってたから、相当大変だったはずだよ。だから真琴くんがきてくれて彼が一番喜ぶだろうな」
パラリーガルってそんな大変な仕事なんだ……。
でもすっごくやりがいはありそう。
「お疲れー」
そう言いながら、中に入った優一さんにスーツ姿の長身の男性が
「お疲れー。あの案件、無事に終わったから……って、その可愛い子、誰? 新しい依頼人? にしてはお前の様子が違うな」
と興味津々で駆け寄ってきた。
うわっ、この人もすごいイケメンだ。
「おい、氷室、近づきすぎだ。翼くん、頼むよ。ちゃんと見張っといてくれ」
「ふふっ。はいはい。誠一さん、だめですよ。お客さんを怖がらせないでください」
翼くんと呼ばれた彼がスッと氷室さんの横に駆け寄ると、氷室さんは
「大丈夫だって。俺には翼だけだから。わかるだろう?」
と蕩けるような甘い声を彼にかけた。
「ふふっ。誠一さんったら」
「翼……」
うわっ、一瞬にして二人の世界に入ってしまった。
えっ……もしかしてこの二人って……?
見ているだけで顔が赤くなってしまう。
「おい、そろそろいいか? 彼の紹介をしたいんだけど」
「ああ、悪い悪い」
と言いつつも悪びれた様子もなく、氷室さんと翼くんの視線が僕に向けられる。
「今日からここで資料整理と雑用を手伝ってもらうことになった、砂川真琴くんだ。真琴くん。こっちが私と同じ弁護士の氷室誠一。大学の同期なんだ。そしてこっちがパラリーガルの西森翼くんだよ。資料に関しては彼が詳しいからわからないことがあったら翼くんに聞いて。真琴くん、挨拶できる?」
「はい。桜城大学3年生の砂川真琴です。ご迷惑にならないように精一杯頑張りますのでどうぞよろしくお願いします」
僕が頭を下げると、翼くんと呼ばれていた彼がにっこりと笑顔を向けてくれた。
「ふふっ。砂川くん、可愛い。僕のことは翼でいいよ。僕も真琴って呼んでいい?」
「あ、はい。ぜひ」
よかった。
翼さん、すごく優しそう。
仲良くなれそうだな。
「へぇ、桜城大学の子か。じゃあ、ゆくゆくは弁護士を目指してるの?」
「いえ、そんな……僕が弁護士だなんて……」
「じゃあ、僕と同じパラリーガルになるといいよ。そうしたら成瀬さんも楽になるでしょ?」
「ああ、そうだな。真琴くんが頑張ってくれたら嬉しいな」
「はい。僕、頑張りたいです!」
「ふふっ。真琴くん、可愛いな。じゃあ、俺が手取り足取り教えてやろうか?」
「えっ?」
「誠一さんっ!!」
「氷室っ!!」
「あ、いや。翼、冗談だって」
「もうっ! 本気で怒りますよ!」
少し拗ねた顔の彼を氷室さんがそっと抱きしめて、耳元で何かを囁くと彼は一気に顔を赤らめて小さく頷いていた。
「はぁーっ、真琴くん。悪いな、氷室の揶揄いも、この二人の痴話喧嘩もいつものことだから気にしないでいいよ」
「あ、はい。わかりました」
でも、さっき彼は氷室さんになんて言われたんだろう?
気になるなぁ。
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