溺愛弁護士の裏の顔 〜僕はあなたを信じます

波木真帆

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なんだか気になる

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「優一さん……あの、ありがとうございます。優一さんの言葉で目が覚めました。僕、ずっと兄さんのためにって思ってましたけど、これからは自分自身のために一生懸命頑張ってみます」

「ああ、君ならやれるよ。今、大学何年生かな?」

「三年生です。いくつかの企業でインターンに参加したりはしているんですけど、これといった目標の企業があるわけじゃなくて……どうしようかと悩んでるところなんです」

「そうなのか……。ちなみにお兄さんはどんなところにお勤めなのかな? 東京に出張に来ると言っていたから沖縄にいらっしゃるんだろう?」

「はい。兄は今、西表島で観光業の会社の社長秘書のような仕事をしてます」

「西表島で……観光業?」

「はい。その、兄によくしてくださっている社長さんが東京にも会社を持っていて、東京と西表を行ったり来たりしてるんです」

「へぇ……そうなのか。それは大変だな」

「はい。それで、兄は社長さんが東京に行っている間は社長代理として頑張っているみたいで……以前社長さんと一緒に食事をさせていただく機会があったんですけど、その時、仰ってくださったんです。兄がいるから私は西表の会社を任せて東京でも仕事ができるんだって。僕もこういうふうに誰かをサポートできるような仕事がしたいんですけど、どういうふうに探したらいいのかもわからなくて……なかなか難しいですね」

本当はこんなにもお世話になっている祐悟さんの会社で働けたら……なんて思ってたけど、僕なんかじゃ兄さんの半分も役に立てないだろうからな……。

「実は今日、本当はある企業さんのOB訪問に行く予定だったんです」

「OB訪問?」

「はい。ちょっと気になってた会社に同じ大学の先輩が入社されてて……ゼミも違うし、5年上の方なんで直接お会いしたことはないですけど、僕がそこの会社が気になってるっていうのを人伝に聞いたみたいでわざわざ連絡をくださったんです。それで仕事内容とかいろいろとお話伺うつもりだったんですけど……」

「そういえば、昨日無理やりバイトを入れられたって言ってたな?」

「そうなんです。店長には予定も入ってるから無理ですって断ったんですけど、僕が来ないと店を休むことになるがいいかって……僕のせいでいろんな人に迷惑かけると思ったらいかないわけにはいかなくて……」

「そうか……じゃあ、OB訪問は?」

「店長の電話の後にすぐに連絡してお断りしました。せっかく時間を作っていただいたのに申し訳なかったです……。声が少し怒ってらっしゃるように聞こえたので、もう多分次回はないかもしれません……」

本当、こんなことになるなら頑張って店長の頼みを断ってOB訪問に行けばよかった。
今更後悔しても遅いけど……。
はぁーっとため息をつく僕を見ながら、優一さんは

「いや多分、その彼は違う目的がありそうな気がするから行かなくてよかった気もするが……」

何かぼそっと呟いていたけれど、僕の耳には届かなかった。
優一さん、今なんて言ったんだろう?
聞いてみようかな……。
どうしよう。

そう悩んでいると、急に

「ねぇ、次の仕事の当てはあるのかな?」

と尋ねられた。

「いいえ。でもすぐに見つけないと。兄には迷惑かけられないし……」

「なら、もしよかったらうちで働かないか? ちょうど事務作業や雑用をやってくれる人を募集しようと思っていたところなんだ。君が来てくれたら助かるよ」

「えっ……良いんですか? ぜひお願いします!!」

そんな願ってもないお話に、僕はさっきのことも、そして遠慮することも忘れて前のめりになって頼んでしまった。

「ふふっ。人助けしてよかったな。君みたいな良い人材を見つけることができた。今日はこの後時間ある?」

「はい。大丈夫です」

「なら、食事が終わったら事務所に案内するよ」

なんだか怒涛の展開に胸のドキドキが止まらない。
こんなことが現実に起きるなんて!!
僕の持っている運を今日全て使い果たしたのかもしれないな。


「お待たせしました~!」

ちょうど話が一区切りしたタイミングで料理が運ばれた。

コトリと目の前に置かれたオムライスからはいつものように良い匂いが漂っている。
ああ、美味しそう。

優一さんの目の前に置かれたミックスフライも見るからに美味しそうに揚がっていて、香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。
こんな美味しそうな匂いを嗅ぎながらオムライスが食べられるなんて幸せだな。
本当に今日の僕はツイてるな。

なんて思いながら、

「いただきまーす!」

と手を合わせると、優一さんが自分のお皿からカニクリームコロッケを一つ、取り分け用の小さなお皿に入れて渡してくれた。

「えっ?」

何? どういうこと?

「よかったら食べてくれないか? ちょっと多そうなんだ。残すのは勿体無いしね」

「い、良いんですか?」

「ああ。大学生ならこれくらい食べられるだろう?」

「はい。ありがとうございます。いただきます!」

渡されたカニクリームコロッケはキラキラと輝いて見える。
ああ……夢にまでみたミックスフライのカニクリームコロッケ……。
実はこれが一番食べてみたかったんだ。

早速箸を入れると、サクッと良い音がする。

熱々のクリームにはふんだんに本物のカニの身が入っていてとてつもなく美味しいっ!

「んふっ……おいひぃ……っ」

「ふふっ」

僕が食べていると、優一さんがニコニコと嬉しそうに笑顔を浮かべる。

「あの……?」

「ああ、ごめん。いや、美味しそうに食べるなぁと思って。こんなに嬉しそうに食べてくれると私も嬉しいよ」

なんだかすごく恥ずかしいけれど、美味しいものは美味しいし。

「あの、よかったらこのオムライス、どうぞ」

「良いのか?」

「はい。僕、まだ口つけてないので、好きなだけ食べてください」

「好きなだけ……ふふっ。ありがとう。じゃあ、『あ~ん』」

「えっ?」

目の前で大きな口を開ける優一さんをみて、一瞬どういう意味なのかわからなかったけれど、もしかしてこれは僕が食べさせるってこと?

兄さんとはよくやるし、そんな大したことではないけれど……良いのかな?

「ほら、早く」

「あっ、はいっ」

口を開けたままの優一さんに急かされるようにスプーンで一口掬って優一さんの口に持っていくと、彼は嬉しそうにそれをパクリと食べた。

「ああ、美味しいな」

「――っ!」

なんだろう……。
子どもみたいな笑顔を見せる優一さんがなんだかすごく気になる……。
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