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ラミロの変化
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<sideセオドア>
怒りに満ちた形相でラミロが私たちの元にやってきたのをみた時はどうなることかと思ったが、ラミロが自分の浅はかさに気づいてくれてよかった。
あれだけの注目を浴びるマモルを一人で待たせていたら、きっととんでもないことになっていたとラミロにもわかったはずだからな。
それにしてもマモルが地面に落ちてしまったサンドイッチを自分のティッシュで包み、その上、汚れた石段まで綺麗に拭いとるとは思いもしなかった。
この広場には清掃員が常駐しているし、私たちのすぐそばにもいた。
あのものたちに任せればいいのに、マモルは当然のように自分で片付けたのだ。
その衝撃と言ったら言葉にもできない。
ラミロにもあれは衝撃だったようで、マモルの行動を微動だにせずに見つめていた。
日本人は綺麗好きで幼い頃から片付けを学び、学校でも清掃の時間があるとアキラが話していたが本当だったな。
私たちが揃って驚いている間に、マモルはゴミ箱へ駆け出していく。
慌てて後を追いかければ、誰かと話をしている姿が飛び込んできた。
ほんの少しも目を離すこともできないな。
それくらいマモルは魅力的だということだ。
マモルに声をかけたのは、さっき店を出た時にも声をかけてきたあの店員か。
マモルが落としてしまったサンドイッチと同じものをくれると言ったようだ。
確実に何かあるに違いない。
店員は素早く店から出てきてマモルにサンドイッチの入った紙袋を手渡した。
マモルはそれを笑顔で受け取ったが、私はその店員の企んだような笑顔を見逃さなかった。
流石にラミロも同じことを思ったようで私に目配せをしてきた。
これ以上、マモルとその男を近づけてはいけない。
私たちの考えが一致したところで、
『わざわざありがとう。私たちからも礼を言うよ。君は親切なんだな』
威圧たっぷりに笑顔を向けると彼は怯えた表情を見せながらも、
『と、当然のことですよ』
と返してきた。
『じゃあ、マモル行こうか』
こういう輩からはさっさと引き離すに限る。
私はすぐにマモルの手を握り、その場から離した。
『マモル、そのサンドイッチはどうするんだ?』
『せっかくいただいたんですけど、もうお腹いっぱいなんですよね』
『それなら、ラミロが食べるよ。なぁ?』
『ん? あ、ああ。マモル、もらってもいいか?』
『はい。もちろんです。無駄にならなくてよかったですね』
嬉しそうな笑顔を見せるマモルは私たちの意図には気づいていないだろう。
だが、マモルの手からあの紙袋を引き離すことができてよかった。
『あ、さっき話していた私の行きつけの店はあっちだ』
ラミロの行きつけの店は私の行きつけでもある。
歩いて向かうのは初めてだが、迷いはしない。
わざわざ教えてくれたのは、マモルの注意をそちらに向けるためだ。
ラミロはその間に手渡された紙袋を開け、中身を確認していた。
後で何が入っていたか、教えてくれるだろう。
広場からかなり近い場所にあるその店にはあっという間に到着した。
店の前には黒服の店員が立っていて、私たちの姿を見るとすぐに扉を開け、
『いらっしゃいませ。ようこそお越しくださいました』
と声をかけた。
中に案内されると、マモルは興味深そうにキョロキョロと辺りを見回している。
『ふふっ。いい店だろう?』
『こんな素敵なお店に来るの、初めてです』
『いつもはどこの店に行っているんだ?』
『僕の洋服は、家で採寸とかしてもらってそのあとは全て明さんが用意してくれるので、お店で買ったことは一度もないんです』
『『――っ!!』』
マモルの言葉に私もラミロも驚きを隠せない。
ということは全てがオーダーメイドというわけか……。
やはり溺愛しているだけあるな。
『マモルは庶民ではなかったのか……』
ラミロが私の耳元でボソリと呟く。
『日本には貴族階級は皇族以外にはないから庶民には間違いないが、少なくともお前が思っているような庶民ではないな。元々日本で住んでいた家もかなり大きかったそうだし、実父は会社経営をしていたらしい。アキラの家もかなり豪邸に入ると思うぞ』
『そうか……私は何も知らずにいたのだな……』
『愛する者と出かけようとするなら、それなりに調べた方がいい。そうでないと相手を危険に晒すこともあるのだからな』
『ああ、よくわかったよ』
ラミロは少しずつ、理解してくれているようだ。
とはいえ、マモルを渡す気はさらさらないが、今の経験が糧になることは間違いない。
『今日はどういったお召し物をお探しでしょうか?』
『ああ、彼に似合う服を用意してくれ。できるだけたくさんな』
『承知いたしました。少々お時間をいただきますので、あちらにかけてお待ちくださいませ』
奥のソファー席に案内され、私とマモルが並んで座り、ラミロはマモルの向かいに座った。
『それで、ラミロ。ここを出た後の予定は考えているのか?』
『ああ。この近くにあるコヴェントガーデンを案内しようと思っていたのだが、マモルにはつまらないかもしれないな』
『えっ? コヴェントガーデンですか? 僕、ずっと行ってみたいと思っていたんです』
『そ、そうなのか?』
『はい。可愛い雑貨も置いてるって聞いていたのでみてみたいなと思ってたんです』
『そうか! なら、そうしよう。セオドアはもう帰ってもいいぞ』
『えっ? あ、そうですよね……』
ラミロが私に帰っていいといった瞬間、マモルの表情が暗くなったのは私にもそしてラミロにもわかった。
私はラミロを無言で見つめると、ラミロは諦めたように
『じゃあ、三人で回ろうか。今日は三人でお出かけだと思えばいい』
というと、マモルの表情は一気に明るくなった。
『わぁ! ラミロさん、ありがとうございます!!』
そんな嬉しそうな声を聞かされたら、流石のラミロもそれ以上は何もいえないようだった。
怒りに満ちた形相でラミロが私たちの元にやってきたのをみた時はどうなることかと思ったが、ラミロが自分の浅はかさに気づいてくれてよかった。
あれだけの注目を浴びるマモルを一人で待たせていたら、きっととんでもないことになっていたとラミロにもわかったはずだからな。
それにしてもマモルが地面に落ちてしまったサンドイッチを自分のティッシュで包み、その上、汚れた石段まで綺麗に拭いとるとは思いもしなかった。
この広場には清掃員が常駐しているし、私たちのすぐそばにもいた。
あのものたちに任せればいいのに、マモルは当然のように自分で片付けたのだ。
その衝撃と言ったら言葉にもできない。
ラミロにもあれは衝撃だったようで、マモルの行動を微動だにせずに見つめていた。
日本人は綺麗好きで幼い頃から片付けを学び、学校でも清掃の時間があるとアキラが話していたが本当だったな。
私たちが揃って驚いている間に、マモルはゴミ箱へ駆け出していく。
慌てて後を追いかければ、誰かと話をしている姿が飛び込んできた。
ほんの少しも目を離すこともできないな。
それくらいマモルは魅力的だということだ。
マモルに声をかけたのは、さっき店を出た時にも声をかけてきたあの店員か。
マモルが落としてしまったサンドイッチと同じものをくれると言ったようだ。
確実に何かあるに違いない。
店員は素早く店から出てきてマモルにサンドイッチの入った紙袋を手渡した。
マモルはそれを笑顔で受け取ったが、私はその店員の企んだような笑顔を見逃さなかった。
流石にラミロも同じことを思ったようで私に目配せをしてきた。
これ以上、マモルとその男を近づけてはいけない。
私たちの考えが一致したところで、
『わざわざありがとう。私たちからも礼を言うよ。君は親切なんだな』
威圧たっぷりに笑顔を向けると彼は怯えた表情を見せながらも、
『と、当然のことですよ』
と返してきた。
『じゃあ、マモル行こうか』
こういう輩からはさっさと引き離すに限る。
私はすぐにマモルの手を握り、その場から離した。
『マモル、そのサンドイッチはどうするんだ?』
『せっかくいただいたんですけど、もうお腹いっぱいなんですよね』
『それなら、ラミロが食べるよ。なぁ?』
『ん? あ、ああ。マモル、もらってもいいか?』
『はい。もちろんです。無駄にならなくてよかったですね』
嬉しそうな笑顔を見せるマモルは私たちの意図には気づいていないだろう。
だが、マモルの手からあの紙袋を引き離すことができてよかった。
『あ、さっき話していた私の行きつけの店はあっちだ』
ラミロの行きつけの店は私の行きつけでもある。
歩いて向かうのは初めてだが、迷いはしない。
わざわざ教えてくれたのは、マモルの注意をそちらに向けるためだ。
ラミロはその間に手渡された紙袋を開け、中身を確認していた。
後で何が入っていたか、教えてくれるだろう。
広場からかなり近い場所にあるその店にはあっという間に到着した。
店の前には黒服の店員が立っていて、私たちの姿を見るとすぐに扉を開け、
『いらっしゃいませ。ようこそお越しくださいました』
と声をかけた。
中に案内されると、マモルは興味深そうにキョロキョロと辺りを見回している。
『ふふっ。いい店だろう?』
『こんな素敵なお店に来るの、初めてです』
『いつもはどこの店に行っているんだ?』
『僕の洋服は、家で採寸とかしてもらってそのあとは全て明さんが用意してくれるので、お店で買ったことは一度もないんです』
『『――っ!!』』
マモルの言葉に私もラミロも驚きを隠せない。
ということは全てがオーダーメイドというわけか……。
やはり溺愛しているだけあるな。
『マモルは庶民ではなかったのか……』
ラミロが私の耳元でボソリと呟く。
『日本には貴族階級は皇族以外にはないから庶民には間違いないが、少なくともお前が思っているような庶民ではないな。元々日本で住んでいた家もかなり大きかったそうだし、実父は会社経営をしていたらしい。アキラの家もかなり豪邸に入ると思うぞ』
『そうか……私は何も知らずにいたのだな……』
『愛する者と出かけようとするなら、それなりに調べた方がいい。そうでないと相手を危険に晒すこともあるのだからな』
『ああ、よくわかったよ』
ラミロは少しずつ、理解してくれているようだ。
とはいえ、マモルを渡す気はさらさらないが、今の経験が糧になることは間違いない。
『今日はどういったお召し物をお探しでしょうか?』
『ああ、彼に似合う服を用意してくれ。できるだけたくさんな』
『承知いたしました。少々お時間をいただきますので、あちらにかけてお待ちくださいませ』
奥のソファー席に案内され、私とマモルが並んで座り、ラミロはマモルの向かいに座った。
『それで、ラミロ。ここを出た後の予定は考えているのか?』
『ああ。この近くにあるコヴェントガーデンを案内しようと思っていたのだが、マモルにはつまらないかもしれないな』
『えっ? コヴェントガーデンですか? 僕、ずっと行ってみたいと思っていたんです』
『そ、そうなのか?』
『はい。可愛い雑貨も置いてるって聞いていたのでみてみたいなと思ってたんです』
『そうか! なら、そうしよう。セオドアはもう帰ってもいいぞ』
『えっ? あ、そうですよね……』
ラミロが私に帰っていいといった瞬間、マモルの表情が暗くなったのは私にもそしてラミロにもわかった。
私はラミロを無言で見つめると、ラミロは諦めたように
『じゃあ、三人で回ろうか。今日は三人でお出かけだと思えばいい』
というと、マモルの表情は一気に明るくなった。
『わぁ! ラミロさん、ありがとうございます!!』
そんな嬉しそうな声を聞かされたら、流石のラミロもそれ以上は何もいえないようだった。
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