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ラミロの後悔

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<sideラミロ>

二人の楽しそうな様子を見た瞬間、一気に頭に血が昇ってしまった。

ツカツカと二人の元に駆け寄り、

『セオドア、こんなところで何をしているんだ!』

気がつけば大声で叫んでしまっていた。

『――っ!! あっ!!』

私の迫力にマモルはビクリと身体を震わせ、持っていたサンドイッチを落としてしまった。

顔面蒼白で

『ごめんなさい、ごめんなさい』

と謝るマモルを隣にいたセオドアはギュッと抱きしめながら、

『大丈夫だ。マモルは何も悪くない』

と優しく声をかけ続けた。
そして、セオドアは私の方に視線を向けると、私には見せたこともない冷たい視線を向けた。

『ラミロ、そんな大声を出したら怖がらせるに決まっているだろう! そんなこともわからないのか?』

『――っ!!』

まだ青褪めた表情で身体を震わせるマモルを見ると、いかに自分が浅はかだったかが感じられる。
二人があまりにも楽しそうにしていたからといって、大声をあげたのは確かに良くなかった。
大の男の大声なんて、マモルにしてみれば恐怖でしかなかっただろう。

『マモル……申し訳ない。怖がらせるつもりはなかったんだ。ただ、二人があまりにも楽しそうでのけ者にされた気がして……だからといって怖がらせていい理由にはならないな。本当に申し訳ない』

誠心誠意気持ちを込めて深々と謝罪をすると、

『あ、あの……ラミロさま。どうか顔をお上げください。僕も驚いてしまってごめんなさい』

と声をかけてくれた。

『マモル……許してくれるのか?』

『許すも何も僕が勝手に怖がっただけでラミロさまは悪くないですよ』

にこりと微笑んでくれるマモルの笑顔に癒される。

『マモル……ありがとう』

『マモルは許してくれたが、ラミロ、お前もいきなり大声を出すのは気をつけろよ』

『わかったよ。だが、それよりもどうしてお前がここにいるんだ?』

『お前がこんな広場で待ち合わせなんてするからだろう!』

『はっ? 庶民のデートでは待ち合わせが基本だと聞いたのだが……間違っていたのか?』

『確かにそれもあるかもしれないが、それは相手によりけりだろう。周りをよく見てみろ! マモルがどれだけ目立っているかわからないか? こんな群衆の中でマモルを一瞬でも一人にしてみろ。すぐに変な輩に囲まれて連れて行かれるぞ』

セオドアの言葉に辺りを見回せば、確かにマモルは群を抜いて可愛らしい。
マモルに対する邪な視線もあちらこちらから感じられる。
目立つ場所ならマモルも安心かと思っていたが、そこがそもそも間違っていたというのか……。

『お前とマモルがここで待ち合わせするとアキラが心配していたから私がここまで連れてきたんだ。お前は約束の時間にも遅れてきただろう?』

『それは……』

『わかっている。それがお前の国での常識だということは。だが、それをいうなら、マモルは礼儀正しく時間に正確な日本人なんだ。約束の時間の5分前には待ち合わせ場所に着いて、相手を待つというのが基本だと知らないか? そうなると、マモルは一体どれだけの時間を一人で待つことになったのだろうな?』

『――っ!!!』

『お前にしては思慮が足りなかったのではないか?』

セオドアの言葉にぐうの音も出ない。
私は庶民のデートに合わせてあげているとすら感じていた。
だが、実際のところはマモルのことなど何も考えていなかったんだ。

『マモル……申し訳ない。全て私の配慮不足だ』

『そんなことないです。僕、この広場に来てみたかったんです。だから、待ち合わせだって聞いて嬉しかったですよ。こうしてサンドイッチも――あっ!!』

マモルが笑顔で語りかけてくれていたが、みれば手から離れたサンドイッチが地面に落ち、中に入っていた生クリームが彼のズボンを汚していた。

それは全て私が驚かせたからに違いない。

『マモル、それを汚したのは私のせいだ。私に弁償をさせてくれ』

『えっ、でも……そんな、申し訳ないです』

『いや、そのままで一日過ごすわけには行かないだろう。ちょうどこの近くに私の行きつけの店があるんだ。そこに行ってすぐにマモルの服を用意してもらおう』

私の提案にマモルは悩んでいるようだったが、

『確かにこのままではマモルも気持ちが悪いだろう。ここはラミロの言う通り、服を買いに行こう』

とセオドアがいうと、ようやくマモルは納得してくれたようだった。

そこは釈然としなかったが仕方がない。

『じゃあ、すぐに行こう!』

『はい。あの、ちょっと待ってください』

そういうと、マモルはズボンのポケットから小さなティッシュを取り出し、地面に落としてしまったサンドイッチを包み、もう一枚のティッシュで地面を綺麗に拭い取った。

『マモル、それをどうするんだ?』

『もったいないですけど、食べられそうにないのでゴミ箱に捨ててきます』

その言葉に私だけでなくセオドアも驚いていたが、その間にマモルはさっとゴミ箱へと駆け出していく。
そんなマモルに一斉に視線が注がれることに気づき、私とセオドアも急いでマモルの後を追った。

『これでわかっただろう? マモルを一人にするとどうなるか……』

『ああ、わかったよ。もう絶対にマモルを一人にはしないと約束する』

そう話をしつつ、マモルを見守っているとゴミ箱の近くで誰かと話をしているのが見える。

『誰だ? あれは』

急いで駆け寄るとその男はすぐに店の中に入って行った。

『マモル、どうしたんだ?』

『あの、実は……さっきのを捨てていたら、お店の人と目があって……申し訳なくて、落としてしまって全部食べられなくてごめんなさいって声をかけたんです。そうしたら、<大丈夫。気にしないでいいよ。新しいのをプレゼントするから>って言ってくださって……遠慮したんですけど……どうしてもって仰るので……』

マモルが説明をしているとさっきの男が外に出てきて紙袋に入ったサンドイッチを手渡す。

『後でゆっくり食べて』

『はい。ありがとうございます』

マモルが笑顔で受け取ると、その店員はこの上なく嬉しそうに笑みを浮かべていた。
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