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完全和解

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いつも読んでいただきありがとうございます。
最後の辺りを加筆修正しています。


<sideセオドア>

ラミロはマモルのあの表情でマモルの気持ちがどこに向いているかをわかってくれたようだ。
あの表情を見れば当然なのだろうが、もうマモルに手を出そうなどと言う気持ちはラミロにはないような気がする。
それはラミロの視線を見ればわかることだ。

それならば、もうラミロに敵対心を向ける必要はないだろう。

こうやってすぐに理解してくれるのもラミロとずっと友人でいられる理由の一つだ。

『お洋服の準備が整いました』

我々の前にたくさんのラックにかけられた洋服が運ばれてくる。

『セオドア、今回は私が弁償する。洋服はお前が選んでやれ』

『ラミロ、いいのか?』

『ああ、もうマモルの気持ちはわかったからな。だからせめて支払いだけはさせてくれ』

本当ならマモルの服をラミロに買ってもらうなんてことは許したくない。
だが、服を私に選ばせてまでそれを求めたラミロにそこまでは言えなかった。
それが自分の気持ちに区切りをつけるための、ラミロなりのけじめのつもりなのだろう。

『ああ。わかった。じゃあ、頼むよ』

そういうと、ラミロはホッとしたように笑った。

私たちの小声の交渉はマモルには聞こえていなかったようで助かった。
マモルは目の前に並べられたたくさんの服に釘付けのようだ。

『マモル気に入ったものはあったか? 好きなものを言ってくれ』

『あ、いえ。僕……自分じゃ何を着ていいのかわからなくて……』

いつもアキラが選んだ服を着ているのだからな。
ならば、私が贈ったタキシードだけか。
今のマモルのクローゼットにある、アキラが選んだ服以外のものは。

そう考えると嬉しくなる。
ならば、これからはクローゼットの中の服が全て私の贈ったもので埋まるほどにしてやろう。
そんな野望が湧き上がってきた。

『ならば、私が選ぼう。それと、それと、それ。ああ、あれも頼むよ』

私の指示した通りに、次々と洋服がラックから外される。

流石に私とラミロの行きつけの店だけあって、マモルに合ういいものを揃えてくれたな。
ここにあるラックごと全て買ってしまってもいいくらいだ。

『あ、あの……そんなにたくさんは……』

「マモル、気にしなくていいよ。せっかくの機会だから色々と揃えておくのもいいだろう? 成人になれば外に出ることも増えるだろうし』

『え、でも……』

遠慮するマモルの姿にラミロは驚きの色を隠せないようだ。

『とりあえず、そこの数点を試着してみよう』

『は、はい。わかりました』

私はソファーから立ち上がり、店員から最初に選んだ数点を受け取ると、マモルの手を引いて試着室に案内した。

『何か困ったことがあったら、そこのボタンを押してくれ。すぐに私が行くから』

『わかりました』

いつも自宅で服を作ってもらっているのなら、試着室に入ることもなかっただろうし、初めての店だからな。
緊張もしていただろう。
だが私が行くといえば、明らかに安堵の表情を見せた。

やはりマモルは私に心を許してくれている。
そんな気がしてならない。

私がソファーに戻ると、ラミロは困惑の表情を見せながら口を開いた。

『洋服をたくさん買うと言ったのに、マモルはなぜあんなにも困った顔をしていたのだ?』

『それがマモルの素晴らしいところなんだよ。ここにくる時も私のあのホテルに車を止めてきたのだが、私があのホテルのオーナーだと話しても泊まりたいとも言わなかったぞ』

『あのホテルに? まさかっ!』

『いや、それがマモルなんだよ。マモルは私たちの地位や資産にはなんの興味も持っていない。本当に心が清らかなんだ』

『そんな人間がいるのか……』

私の言葉にラミロは信じられないと言った様子でマモルの入った試着室を見つめていた。

『ああ、だから私はマモルに惹かれたのかもしれないな』

『わかる気がするよ。私もマモルへの思いは間違いではなかったと思う。だが、運命ではなかったのかもしれないな』

『ああ、お前には違う相手がいると思うぞ』

『まだ出会えると思うか?』

『もちろんだ。諦めなければ必ず出会えるさ』

『そうだな……。マモルと出会わなければこんな気持ちにもなれなかった。お前にライバル心を持って悪かったな』

『いや、ラミロみたいな完璧な男に嫉妬されるのは悪くない』

『ふっ。そう言うことにしておこうか』

これで完全和解だな。
大事な友人を失わずに済んで本当に良かった。

『それはそうと、あの紙袋。中身はどうなっていた?』

『ああ。これが入ってたよ』

ラミロが上着の内ポケットから取り出したのは、名前と携帯番号、メッセージアプリのIDと思われる英数字が書かれた一枚の紙。

『バカだな。マモルがこんなのに返事なんかする訳ないだろう』

『それもだが、重要なのはこっちだ』

そう言って、ラミロは中から袋に包まれたサンドイッチを取り出した。

『これがなんだ?』

『ほら、何か感じないか?』

『んっ? そういえば、さっきのに比べると匂いが……』

『ああ、多分媚薬が入っている。常習性が強いやつだからあまりの疼きにマモルが食べた後にその紙を見れば電話してしまってもおかしくない』

『なるほど、それが狙いか』

『マモルの目に触れずに良かったよ。あの店員の手慣れた様子を見れば、今までも気に入った客にやっているかもしれないな。セオドア、やれるか?』

ラミロのいう通りだ。
後でロンドン市警に同様の事件の報告がないか調査を依頼しておこう。
私は急いでロンドン市警の友人・ジャスティンに連絡を入れた。

ー悪いが調査を頼みたいものがある。食べ物に混入されているが大丈夫か?

ーあ。それは問題ないが、セオドアが直々に頼んでくるとは相当だな。

ーああ。私の大事なものを守るためだからな。

ーわかった。じゃあ、調査したいものを鍵付きの箱に入れて、私宛に持って来させてくれ。

ーわかった。

電話を切り、私がさっと手を上げると、店員が近づいてきた。

『悪いが、鍵付きの箱をすぐに持ってきてくれ』

『承知しました』

店員がバックヤードから鍵付きの箱を持ってくると、その手紙を紙袋ごと中に入れ鍵をかけた。

『これをロンドン市警のジャスティン宛に持っていってくれ』

『承知しました』

箱を持った店員が店から出て行くのとほぼ同時に、試着室からボタンの音が聞こえてきた。
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