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癒しの時間

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<sideセオドア>

『マモル、あの店のサンドイッチが美味しいと聞いている。take-awayテイクアウトして一緒に食べないか?』

『わぁー、僕、そういうの一度してみたかったんです!』

私もそういう経験はさほど多くはないが、学生時代はそれなりにやっていた覚えがある。
マモルが日本にいた頃はわからないが、こちらにきてからはきっとアキラが心配してさせなかったのだろうな。
なんせ、そこにいるだけで目を惹くのだから、食事をして無防備になっている時は危なくて仕方がない。

だが、今のうちにマモルを満腹にしておけば、ラミロと食べ歩きはしないだろう。
まぁ王族であるラミロはそもそも食べ歩きはしないだろうが、一応念のためだ。

前もって調べておいた店に入ると、店内にいた者たちの視線が注がれる。
私はさっとマモルの身体を寄せ、牽制をしておいた。

身体を寄せられて嫌がりはしないかと少し心配したが、マモルは目の前で作られるサンドイッチに興味が向いているようで気にしてはいないようだ。

ふふっ。
これならいいか。

この店はすでに出来上がっているサンドイッチを買うこともできるが、自分の好きなものをチョイスして作ってもらうこともできるようだ。

『マモル、どの具材が食べたい?』

目の前のカウンターに入れられた食材を見ながら尋ねると、

『わぁー、たくさんあって悩んじゃいますね』

と嬉しそうな笑顔を向けられる。

こんなにも屈託のない笑顔を向けられると、すでにマモルが私の恋人だと勘違いしそうになる。

『あの、おすすめはなんですか?』

そう尋ねられた店員は、一瞬ポーッとマモルに見惚れていたが、私の射抜くような視線を感じると

『ひぃーっ』

と怯えた声を上げながら、

『ろ、ローストビーフとサーモンは定番で人気です。最近のうちで始めた生クリームとフルーツを挟んだフルーツサンドも人気がありますよ』

と説明していた。

『わぁ、ローストビーフもサーモンも気になってました。フルーツサンドは日本でも見たことがあります。生クリームたっぷりで美味しいんですよね。ほら、見てください。セオドアさま、このキウイ美味しそうですね』

私の手を握ったまま、目をキラキラと輝かせながら見上げてくるその表情がたまらなく愛おしい。

『マモルが好きなものにしよう。いちごも美味しそうだからキウイといちごにしようか?』

『わぁ、僕いちごも大好きです』

大好き……その言葉が私に向けられたものならどれだけ嬉しいか……。

私がそんなことを思っているとは微塵も感じていないのだろうな。

店員の勧める通り、ローストビーフとサーモンのサンドイッチをそれぞれ注文し、いちごとキウイのフルーツのサンドイッチも頼むことにした。

一緒に紅茶も頼み、店外に持ち出すと

『あちらの場所でお召し上がりいただけますよ』

と店外で掃除をしていた店員が教えてくれた。

私は至極当然の出来事だと思っていたのだが、

『教えてくださってありがとうございます』

その店員に向かって、丁寧にお礼を返し笑顔を向けるマモルに正直驚いた。

日本人は礼儀正しいと聞くが、これが日本人のマナーなのか?
店員もまさかこんな丁寧なお礼が返ってくるとは思っていなかったようで、茫然と立ち尽くしていたが、

『い、いえ。あ、あの楽しい時間を!』

と嬉しそうに返していた。

そんな二人のやり取りに思わず顔が綻ぶ。
やはりマモルは周りを幸せにする力があるのだろうな。

だから、私も、そしてラミロも惹かれたんだ。

教えられた場所に行くと、少しずつ間隔をあけて階段で座っている人たちが見えた。
こんな場所で食事をするのは学生以来だな。

どうだろう、マモルは楽しんでくれるだろうか?

『セオドアさま。どこにします?』

少しの不安を吹き消すような笑顔で尋ねられる。

良かった、やっぱりマモルは素晴らしいな。

階段の端にハンカチを引いて座らせると、

『僕のより、セオドアさまの服の方が汚れては大変ですよ』

と言ってくれたが、服などどれほど汚れてもいい。
私よりマモルの方が大事なのだから。

『私がここでの食事に誘ったんだ。気にしないで座ってくれ』

『は、はい。ありがとうございます』

少し恐縮した様子だったが、座ってくれてホッとした。

熱い紅茶をマモルから離してからサンドイッチの袋を開けた。

『マモル、どれにする?』

『せっかくだから全種類、半分こしましょうか』

『――っ!!』

半分こ……なんて可愛いんだ。
マモルの全てに癒される。

『じゃあ、マモルはこのローストビーフサンドを先に半分食べてくれ。残りを私がもらうよ』

『食べかけでいいんですか? あ、でも千切るのも難しそうですね』

『大丈夫、食べかけなんて気にしないよ。マモルは気にするか?』

『あ、いいえ。セオドアさまだったら大丈夫です』

ニコッと微笑みかけられてドキッとする。
私だったら大丈夫……それはどういう意味なんだ?
マモルの中で私が特別だと思ってくれていると思ってもいいのだろうか?

私が心の中でいろんな思いを巡らせていることに気づいてもいないのだろう。
目の前で美味しそうにローストビーフサンドを頬張るマモルを見ていると、少し胸が痛い。

私がこんな感情を経験するとは思いもしなかったな。

『んんっ! これ、すっごく美味しいです』

何も知らずに蕩けるような可愛いらしい笑顔を見せてくれる。
ああ、今は何も考えずにマモルのそばにいられることに感謝しよう。

半分というよりは三分の二ほど残して、私に手渡してくれる。

『もういいのか?』

『はい。これ以上食べると全種類食べられない気がして……』

その言葉に驚いてしまうが、マモルの小さくて華奢な体型を見れば確かに食は細そうだ。
腰なんか折れそうなほど細い。
先ほど身体を寄せた時もあまりの華奢な体型に驚いたものだ。

――っ、ダメだ!

つい、マモルの服の下を想像してしまう。

もう30も疾うに過ぎているというのに、こんな思春期の青少年のような欲望ばかり感じるとは……。
マモルといると初めてのことばかりだな。
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