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私は負けない

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<sideセオドア>

あまりにも可愛らしいマモルの姿に一瞬時が止まった気がした。

この可愛らしい子をあの広場で一人で待たせようとしていたのか、ラミロは。
それが数分であったとしても、絶対に危険に巻き込まれていたと確信できる。

やはり私が迎えに行くと決めてよかった。

可愛らしいマモルを見つめながら自分の判断が正しかったと思っていると、目の前のマモルの表情が曇る。

『あ、あの……僕の格好、どこか変でしたか?』

少し潤んだ瞳でそう尋ねてくるマモルの声にハッと我にかえり、とてもよく似合っていると告げたがきっとお世辞だと思っているだろう。
ああ、あまりの可愛さに言葉を失っていただけなのだが……最初から失態を犯してしまったな。

明日の本番のデートではどんなに可愛らしい格好をしていたとしても、きちんと言葉で表さねばな。

『今日の格好は明さんが選んでくれたんです』

『えっ? アキラが?』

『はい。自分では何が合うかわからないので、明さんに選んでもらえてよかったです。セオドアさまにも褒めていただけましたし。ねぇ、明さん』

アキラに向かって可愛らしく微笑みを見せるマモルを見ていると、モヤモヤとした感情が湧き起こる。

保護者であるアキラが服を選ぶなんて当然起こりうることなのに、他の男の選んだ服を着せたくないという欲求が膨らんでいく。

これが嫉妬、なのだろうか。

このようなことで私が嫉妬するとは……。
やはりマモルは特別なのだろう。

この時、私の頭の中には明日のデートで着る服を贈ろうという考えがもう決まっていた。

『では、マモル。少し早いが出かけよう。待ち合わせの時間まで街を案内しよう』

『わぁー、嬉しいです! 僕、あんまり外には出かけたことがないので何も知らないんです』

『そうか、ならちょうどいい。アキラ、帰りもちゃんと家まで送るから安心してくれ』

『はい。ありがとうございます。それでは、よろしく・・・・お願いします』

かなり心配しているな。
まぁそれも当然だろうが。

大丈夫、どんなことが起ころうとも私が絶対に守り抜くと誓う。

マモルを車にのせ、トラファルガー広場のある地域に向かう。
だが、この辺りはバスやタクシー以外の車の乗り入れを禁止している。
それは例え、大富豪である私も同様だ。
マモルの前で法を犯すなんて恥ずかしい真似もしたくない。

私は少し離れたホテルに向かった。

『あれ? セオドアさま、どこに行かれるのですか?』

『この辺りには駐車場がないからね。このホテルで車を預かってもらうんだよ』

『えっ、そんなことができるんですか?』

『ふふっ。ここは、我がグランヴィエ家がオーナーを務めるホテルだからいつ来ても泊まることができて専用駐車場も用意されているんだよ』

『へぇー、そうなんですね。すごいなぁ』

マモルは助手席から見える大きなホテルをキラキラと目を輝かせながら見つめているが、泊まってみたい! と言い出したりはしない。

目の前に五つ星の世界最高級のホテルがあり、そこにいつでも泊まることができるというのに、泊まりたいと言わないなんて……。

今までなら、私に近づこうとしてきたものは例えどんなに微々たるものであっても、その恩恵にあやかろうと必死だったのに。
そこがマモルに惹かれたところなのかもしれない。

ホテルの玄関前にいた従業員に車を託し、私はマモルと共に広場へ向かった。

『人が多くて危ないから、手を離さないように』

マモルの小さな手を握ると、マモルも私の手をキュッと握ってくれて嬉しくなる。

『はい。これはラミロさまとのお出かけでも重要なことですか? 僕から繋いだ方がいいですか?』

『えっ? いや、ラミロの国では手を繋ぐというのはかなり親しい間柄でしかしないんだ。マモルから繋ぐともう恋人として認めたことになるから気をつけた方がいい』

『そうなんですね。聞いておいてよかったです。やっぱり国によって作法は違うものですよね』

マモルが日本人だからだろうか。
このイギリスとの作法の違いを勉強してきただけあって、国によって作法が違うということをわかってくれていて助かる。

もし、何も知らずにマモルがラミロの手を握ったら自分が選ばれたと思って、そのままホテルに連れ込みかねない。
今教えることができて本当によかった。

だが、思っていた以上にマモルは何も知らないようだな。
気をつけておかないと。


『わぁ、お店も人もいっぱいですね』

目を輝かせて可愛らしい声をかげるマモルの姿に、そこらじゅうにいる者たちの視線が注がれる。
その視線はかなり邪なものを孕んだものが多い。

もし、これがマモル一人だったら……と考えるだけで恐ろしくなる。
狼の群れに羊を放り込むようなもので、あっという間に囲まれてどこかへ連れて行かれることだろう。

私が威嚇の視線と威圧を放っているから決して近くには寄って来たとしても絶対にマモルには触れさせない。

『セオドアさま。あっちをみに行きましょう』

マモルは周りの視線など気にすることもなく、可愛らしい笑顔を私に向ける。
ああ、この笑顔を一生私だけに見せていてほしい。

ラミロにもこの笑顔を見せるのか……。
くそっ、マモルは私のものなのに。

親友であるラミロにこんな思いを抱くようになるとは思いもしなかったな。

それでもこの戦いには決して負けるわけにはいかない。

マモルは私が惹かれた唯一の人なのだから。
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