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頬が熱い

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<side真守>

セオドアさまがラミロ王子との待ち合わせ場所に送ってくださると聞いて驚きも緊張もあったけれど、トラファルガー広場に着くと、あまりの楽しさについはしゃいでしまった。

そんな僕をみて迷子になるかもしれないと心配したセオドアさまが手を繋いでくれた。
おっきな手に包まれると、なんでこんなに安心するんだろう。

父さんたちが亡くなった時に、明さんがきて抱きしめてくれた時もすごく安心したけれど、セオドアさまの手に包み込まれるのはそれ以上に安心する。
なんでなんだろうな。

ラミロ王子とお出かけする時も手を繋いだ方がいいのかと思って尋ねてみると、ラミロ王子の国では手を繋ぐとかなり親しい間柄だと思われるらしい。しかも僕から手を繋ぐと恋人と認めたことになると聞いて驚いてしまった。

やっぱり国によって作法って違うものだな。
イギリスはそんな作法じゃなくてよかった。
だって、セオドアさまと手を繋げないなんてなんだか寂しいから。

車で通り過ぎることはあっても、この辺を歩いたことは一度もなかった。
街中は危ないからといって、いつも郊外にあるお気に入りの場所まで遠出するのが定番になっていたから。

それはそれですごく楽しいけれど、やっぱりこういう観光地的なところも知りたいと思っていたんだ。

思っていた以上の人の多さに驚きつつも、セオドアさまが隣にいてくれると思うと安心する。

可愛らしい雑貨を売っているお店を覗いたり、大道芸をしている人を見たり……どれもが新鮮で楽しい。

そんな時、セオドアさまがサンドイッチをテイクアウトして食べようといってくれた。
まさかグランヴィエ一族の総帥であるセオドアさまが外で食べ物を食べるなんて思いもしなかったけれど、僕もやってみたいと思っていた。

日本にいたときは友達と鯛焼きとかたこ焼きとか買い食いしたことはあったけれど、イギリスでテイクアウトして外で食べるなんて初めての経験だ。

朝食は少なめにしておいてよかったな。
ジョージさんのおかげだ。
帰ったらお礼を言わなきゃな。

セオドアさまに案内されたのは、目の前で作ってくれるスタイルのサンドイッチのお店。
たくさんの食材が並んでいて、どれにしようか悩んでしまう。

やっぱりこういう時はおすすめを聞くのが一番だ。
だって、父さんがいつもそうしていたもん。

店員さんのおすすめはローストビーフとサーモン。
そして、最近始めたフルーツサンド。

パンに生クリームを挟んだサンドイッチはイギリスには元々なかったみたいで、日本発祥らしいと前に明さんに聞いたことがあった。

僕は日本ではみたことがあったけど食べたことはなかったから、初めて食べるのがイギリスだっていうのは面白い。

セオドアさまは全て僕の好きなものを選んでくれて、嬉しかった。

支払いは……と思う前にささっとセオドアさまがしてくださっていて申し訳なかったけれど、明さんからイギリスでは年上が払うのが当然だから、真守が支払いを強行しようとしてはいけないよと強く言われていたから、その通りにしておいた。
でも、やっぱり申し訳ないなって思ってしまうのは仕方のないことなのかもしれない。

セオドアさまにお礼をいって、お店を出ると外で作業をしていた店員さんが食べる場所を教えてくれた。
ああ、本当に親切な人だ。

お礼を告げると、店員さんは

『い、いえ。あ、あの楽しい時間を!』

といってくれて嬉しかった。

これから、セオドアさまと楽しい時間を過ごしますよ。
そんなふうに言いたいくらい、嬉しくてたまらなかった。

食べる場所にと教えてくれたのは噴水近くにある階段。
風が通ってすごく気持ちがいい。

セオドアさまは当然のように僕の下にハンカチを広げてくれた。
これがイギリス紳士のマナーか。
と感激しながらも、セオドアさまの高価な洋服が気になって仕方がない。

僕の服は明さんが全部買ってくれたものでどれくらいの値段がするものかは全くわからないけれど、流石にセオドアさまの服が高価だろう。

汚れるからセオドアさまの下にハンカチを……といったけれど、優しく断られる。
これ以上は失礼に当たるだろうと思い、ドキドキしながらハンカチの上に腰を下ろした。

全部で三つのサンドイッチを二人で半分こして全種類食べようと提案したけれど、考えてみたら半分に上手に切れそうにない。
さっきのお店で分けてもらってくればよかったなと思っていると、

『じゃあ、マモルはこのローストビーフサンドを先に半分食べてくれ。残りを私がもらうよ』

と優しくいってくれる。

食べかけも気にしないなんて言われたら、なんだか近しい存在だと認められたようで嬉しくなる。
そう思ってしまうのは、同じ釜の飯を食うなんて諺がある日本人ならではなのかもしれない。

僕の口に入るのかわからないくらいたっぷりとローストビーフが入ったサンドイッチにかぶりつく。
甘いオニオンソースと柔らかなローストビーフがものすごく合っていて美味しい。
あまりの感動に思わず顔が綻ぶ。

美味しくてあっという間に三分の一を食べ切って、セオドアさまに渡した。
もっと食べたいけど、そうすると他のが食べられなくなっちゃうし。

セオドアさまは僕の食べかけのサンドイッチをパクリと二口で食べ切った。

『うわー、すごいですね』

僕はただただ感動するばかりだ。

スモークサーモンのサンドイッチもクリームチーズとの相性抜群でものすごく美味しかった。

やっぱり最後に生クリームたっぷりのフルーツサンド。
パクッと齧ると中から生クリームがはみ出てしまう。
それを必死にかぶりつくと、甘さ控えめのクリームと甘いフルーツに感動する。

『セオドアさま。このフルーツサンドとっても美味しいですよ』

早くこのおいしさを共有したくて、フルーツサンドを差し出すと、

『ふふっ。マモル。生クリームがついているよ』

と言われて、恥ずかしくなる。
慌ててどこだろうと手で触れていると、スッとセオドアさまの顔が近づいてきて、頬にちゅっと唇が重なった。

「えっ?」

『ふふっ。本当に甘くて美味しいな。このクリームは』

そういいながら、セオドアさまの舌が自分の唇をそっと舐めとる。

えっ……今のって、もしかしてキス、された?
あ、でもほっぺただし。
それにここはイギリスだし、キスなんか挨拶だし。
明さんとアロンもよくほっぺたにキスしあってる。

そ、そうだよね。
ほっぺたのキスはキスにカウントしないよね。

ただ単にクリームをとってくれただけ。
そうだ、そうに決まってる。

でも……セオドアさまの唇が触れたほっぺたが熱い。
なんだろう……ものすごくドキドキする。

『マモル……』

セオドアさまを見つめていると、セオドアさまが僕の名前を呼ぶ。

『は――』
『セオドア、こんなところで何をしているんだ!』

僕の返事をかき消すような声が聞こえたと思ったら、僕たちの前に大きな影が被さった。

びっくりしてそっちを見ると、そこには少し怒った表情のラミロ王子が立っていた。
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