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ラミロの提案

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<sideセオドア>

テラスに置かれた椅子に彼を座らせ、その隣に腰を下ろすとラミロは私たちの向かいに腰を下ろした。

『セオドア、彼を紹介してもらえるか?』

ラミロはずっとマモルから目を離さない。
そのギラギラとした鋭い眼差しにマモルは少し震えているように見える。

マモルは18になったばかりと聞いていたが、もっと幼く見えるのは日本人の特徴だろうか。
そういえばアキラも随分と若く見える。
私より6つも年上だと聞いた時は随分驚いたものだ。

きっとこんなに注目されることに慣れていないのだろう。
少しでも落ち着かせようと、彼の手を握ると一瞬驚いた様子を見せたがおずおずと握り返してくれた。
その小さな力に愛おしさが募る。

ラミロが何を考えているのかはわからないが、私は決してこの手を離さない。

『彼はマモル・ワクラ。私の元にいつも美しい日本の古美術品を持ってきてくれるアキラの息子だよ』

『あのアキラの? 彼に息子がいたなんて知らなかったな。だが言われてみれば、目の形がよく似ているか』

マモルはラミロに見つめられてほんのり頬を染めつつも、アキラに似ていると言われたのが嬉しかったようでふんわりとした笑顔をみせた。

『ありがとうございます』

『――っ、笑顔が可愛らしいな。マモル、私はラミロ。セオドアの友人でヒビスクス王国の王子だ』

『えっ……っ、王子、さま……』

『そんなに驚くなんて、私は王子には見えないかな?』

『あっ、いえ、そういうわけじゃ……初めて、王子さまを間近に見た……いえ、拝見したので……不敬なことを申しました』

『ふふっ。気にすることはない。ここでは王子ではなく、セオドアの友人だ。マモルとも友人になりたいが、どうかな?』

『そんな、王子さまと友人だなんて……っ』

ラミロがグイグイとマモルに近づこうとする。
まさか、本当に気に入ったのか?

『ラミロ、マモルを困らせるな。怯えているだろう』

『怯える? マモル、私のことが怖いか?』

『い、いえ。そんなことは……。その、僕なんかと友人になりたいなんて、面と向かって言われたことがなくて……だからどうしていいかわからないんです』

焦った様子を見せながらも、必死に言葉を紡ぐマモルの姿にラミロはさらに興味を持ったようだ。

『そうか、なら教えてやろう。こういう時は素直に頷いてくれたらいい。私はマモルと友人になりたいのだからな』

『は、はい。あの、僕でよければ……』

『そうか! 嬉しいよ』

間近でそんなことを言われて断ることができる人間などいないだろう。
大人しそうなマモルなら余計だ。

嬉しいと言いながらマモルの手を取ろうとするラミロの手を私は咄嗟に払いのけてしまった。
流石のラミロも驚いた表情で私を見る。

『セオドア、何をするんだ?』

『日本人は繊細なんだ。お前の無骨な手で握ったらマモルの手を怪我させてしまう』

『ならば、お前のように優しく触れればいいんだろう?』

そう言って、まるで宝物にでも触れるように優しく彼の空いていた方の手を握る。
私のマモルの手に触れるなんて……っ。
このマモルの手の感触は私だけが知っていたかったのに。

『ああ、小さくて柔らかくて本当にすぐに壊れてしまいそうだ。セオドアの言った通りだな』

『そんな……っ、恥ずかしいです』

ラミロの言葉に頬を染めるマモルを見ていると、私が邪魔者なのではないかという不安が押し寄せてくる。
こんなにもマモルを愛おしいと思っているのに。

ああ、そんなにも可愛らしい笑顔を浮かべながらラミロと言葉を交わさないでくれ。
私以外のものを見つめないでくれ。

そんな心の思いをもう止めることができなかった。

『ラミロ。お前が彼をどう思っているのかはわからないが、私はマモルに惹かれている。だから邪魔をしないでくれないか?』

『邪魔だと? セオドア、それは本気で言っているのか?』

『ああ、そうだ』

ラミロから目を逸らさずに私の意思を伝える横で、驚愕の表情を見せるマモルの姿が視界に入った。

『あ、あの……セオドア、さま……今のは……』

『マモル、突然のことで驚かせてすまない。だが、これ以上我慢ができなかったんだ。アキラからマモルの話を聞いた時は私の好みのものを選んでくれるマモルに会って礼が言いたい……そう思っただけだったんだ。けれど、その日からずっとマモルのことが頭から離れなかった。そのタキシードを仕立てながらも、ずっとマモルがどんな子だろうと想像していたんだ。マモルにタキシードを贈ってから今日までずっと緊張して過ごしていた。たった一人のことが頭から離れないなんてこと今まで一度もなかったんだ。でも今日、初めてマモルを見た時に理由がわかった。私はマモルに惹かれていたんだと』

『そんな……っ、セオドア、さまが……僕、なんて……』

『そんなに自分を卑下しないでくれ。私にとってはマモルこそが運命の相手だと思っている。初めてなんだ、こんな気持ち。だから頼む! 私を受け入れてもらえないか? それとも、男同士なんて考えられないか?』

『好きになるのに、性別なんて関係ないとは思ってます……でも、僕はまだ……セオドアさまがどういう方かもわからないから……』

確かにマモルの言うとおりだ。
顔は知らずともずっと思い続けていた私と違って、マモルにとっては何もかもが今日初めて出会った相手。

すぐに付き合えと言っても無理だろう。

『セオドア、お前が本気だと言うことはよくわかったが、私もマモルに一目惚れしたんだ。今の立場で言えば、私もお前も同じだろう? ここは正々堂々と勝負しないか?』

『勝負?』

『そうだ。同じように時を過ごして、マモル自身に決めてもらおう。その方が諦めもつくだろう?』

ラミロのいうことも一理ある。
マモルがラミロを選ぶなら、私は引き下がるしかない。
私の思いだけで無理やりマモルをそばにいさせることはできないのだからな。

だが、私は絶対に負けない!!

『マモル、君はどう思う? 私とラミロと過ごして、どちらかを選ぶのはできるだろうか?』

『僕が……ラミロさまとセオドアさまを選ぶなんて……そんな無礼なこと……っ』

『マモル、そこは気にしないでいい。私たちがそれを望んでいるのだから。だから、少しでも私とセオドアにチャンスをくれないか?』

ラミロの言葉にマモルは戸惑いながらも、最終的には頷いてくれた。

『よし、これで決まった。ならば早速、明日私とデートをしてもらえないか?』

『ラミロさまと、デートですか?』

『ああ、まずは私を知ってもらわないとな。そして、明後日はセオドアとデートをすればいい。決して無理強いはしないと誓うよ。セオドアも誓うだろう?』

『ああ、それはもちろん!』

そういうとマモルは少し安心したように笑った。
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