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嫉妬と独占欲

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<sideセオドア>

ああ、なんて心地良い抱き心地だ。
今まで離れて平気だったのが不思議なほどにしっくりくる。
もう手放したくない。
そう一瞬で思えるほど、彼の身体は私の腕の中におさまっていた。

『あ、あの……』

私の腕に抱かれて戸惑い気味の声が聞こえる。
その声すらも小鳥の囀りのように心地良い。
この声をもっと静かな場所で聞かせてほしい。

『ここは人が多すぎて危ないな。あちらでゆっくりと話をしよう。アキラ、マモルを借りてもいいか?』

すぐにでも彼を連れて行きたいが、一応保護者であるアキラの了承を得た方が彼も安心するだろう。
お願いだ、断らないでくれ。
その願いが伝わったのか、アキラはにこやかな笑顔を浮かべながら、

『マモルが良ければ私は何も言うことはございません』

と言ってくれた。
きっとアキラにはもう私の気持ちは伝わっているのだろうな。

『アキラはそう言っているが、マモルはどうだ?』

『えっ、あの……僕……』

『私と話すのは嫌か?』

『嫌だなんてそんなこと――っ!』

私の腕に抱かれながら、真っ赤な顔で見上げてくる彼がもう愛おしくてたまらない。
私がこのような感情を人に抱くとは……自分でも信じられないな。

『ならば、了承を得たと言うことで良いな?』

もう誰にもこの彼の可愛らしい顔を見せたくない。
そんな独占欲に駆られて、彼を抱き上げそのまま連れて行こうとしたその時、

『セオドア、一体どうしたんだ?』

と声がかけられた。

『ラミロ』

私の後を追いかけきたのか。
悪いが、すっかりラミロの存在を忘れていたな。

『彼はいったい誰なのだ? 私にも紹介してくれないか?』

そう尋ねられて紹介しないなんてマナーに反することを私ができるはずもない。
そもそもこのパーティーはラミロのために催したようなものなのだから。

『ここは人が多すぎる。お前に紹介するにしてもゆっくり話もできないだろう。ちょうど彼方に移動するところだったから、一緒に行こう』

本当ならば誘いたくはなかった。
だが、そういうわけにもいかなかった。

ラミロは私の腕の中の彼を見つめ、彼もまた不思議そうにラミロを見つめる。
見つめ合う二人を見ていると、私一人が蚊帳の外にいるような気分になる。

それがたまらなく嫌で私は足早に人のいないテラスに向かった。


<sideラミロ>

今までに見たこともないような形相で、見たこともないほど美しい彼の元に駆けていったセオドアを見て、茫然とするしかなかった。
一体何が起こっているのか理解ができない。

わかっているのはただセオドアがたった一人の人間に興味をもち、駆け出していったという事実だけだ。

あの彼は確かに美しいが、それ以上に何かがあるのか?
もしかしたら、他国の王子だったりするのだろうか?
今宵のパーティーに私以外に王子が参加するとは聞いていなかったが、急遽都合がついたとも考えられる。
それならば、ホストであるセオドアが慌てて駆けつけるのも頷ける。

そうに違いない。

そう自分を納得させながら、駆け出していったセオドアの後をゆっくりと追いかけた。

だが……

「――っ!!! まさか……っ」

セオドアから手を差し出し、あの美しい彼はその手を取るところを見てしまった。

セオドアは誰からの誘いも受けず、決して誘いもしない。
セオドアが自ら手を差し出し、相手を誘う時は本気で相手を見つけた時だけ……。
相手からは決して手を差し出してはいけない。

それがセオドアのいるパーティーの暗黙のルールとなっていた。

それはホストであっても招待される側であっても変わらない。
だから、いつもセオドアを遠巻きに見ることはあっても無闇に近づこうとするものはいなかったのだ。

それなのに、自らあの彼の元に出向いていってそして手を差し出すなんて……。
もう彼を自分の生涯の相手に認めたということなのか……。

親友だと思っていたセオドアにそんな相手がいたなんて思いもしなかった。

あのセオドアにそこまで思わせたあの美しい彼は一体何者なんだ?
彼への興味が一気に膨らんでくる。

私は彼を抱き上げ、その場から立ち去ろうとするセオドアの足を止めるように声をかけ、私にも彼を紹介してほしいと頼んだ。

私の顔を見て一言、『ラミロ』と呟いたセオドアは、きっと今の今まで私の存在すら忘れていただろう。
今までそんなことは一度もなかったのに。

ふとセオドアの腕の中にいるあの美しい彼に目を向ければ、まるで小動物のように怯えた漆黒の瞳で私を見つめる彼の姿があった。

なるほど……。
セオドアがこの彼に落ちたのも無理はない。
そう思うほど、彼は庇護欲をそそる瞳をしていた。

彼をセオドアから奪い取りたい。
そう思うのに時間は掛からなかった。
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