ひとりぼっちのぼくが異世界で公爵さまに溺愛されています

波木真帆

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番外編

可愛い王子さま   6

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途中で視点が変わります。


  *   *   *


「フレッド……さっきはごめんなさい」

「シュウが何を謝ることがある? 私がずっと父上に言いたかったことをシュウが代わりに言ってくれたおかげで、自分の気持ちを話すことができたんだよ。シュウには感謝してるくらいだ」

「フレッド……」

「本当だぞ。シュウは私を救いにきてくれた女神なのかも知れないとも思ってる。だから、シュウ……このまま私の隣にずっといてくれないか?」

そういうと、シュウは申し訳なさそうな表情でもう一度

「フレッド……ごめんなさい。ぼく……大事な人がいるんだ」

と謝った。

わかってるんだ。
こんなにも美しいシュウにいないわけがないんだ。
それはわかってる。
けれど、諦められない。

生まれてから10年、ずっと愛情を持って見つめられたことがない私に潤いをくれたシュウのことを、簡単に諦められるはずがない。

シュウの相手になれるような婚約者ならば、シュウ以外にも相手はいるだろう。
だが、私にはシュウしかいないのだ。
シュウを失ったら、きっと私は一生一人きりだろう。

愛も何も知らない時ならいざ知らず、シュウの優しい笑顔も温もりも感触も知ってしまった今では、その未来は辛すぎる。

「シュウ……私はシュウでないとダメなんだ。絶対に不幸にはしない。私が守ると誓うから……だから」

「フレッド……ごめんね。ぼくはもうすぐ帰らなきゃ……」

「嫌だ! シュウ! ずっとそばにいてくれ!!」

「フレッド……大事な話があるって言ったよね。先にそれを聞いてくれる?」

正直、話なんか聞きたくなかった。
聞いてしまえばシュウがどこかに行ってしまうことはわかっていたから。

それでも、私は頷くしかなかった。
これ以上シュウに幻滅されたくなかったから。

「わかった。その代わり……シュウを抱きしめていてもいい? 話終わるまでどこにも行かないように」

必死な懇願にシュウは笑って許してくれ、私に向かって両手を広げてくれた。

私はシュウを思いっきり抱きしめベッドに腰を下ろした。


  *   *   *


フレッドに抱っこされると、すぐ近くにフレッドの顔が見える。

ああ、やっぱりフレッドだと思いつつも、ぼくの知っている顔とはやっぱり違う。
笑うとできるシワもない。
ぼくを愛おしそうに見つめてくれる瞳には欲情の色もない。

このフレッドも大好きだけど、やっぱりぼくの相手はずっと一緒に過ごしてきたフレッドなんだとしみじみ思う。

そういえば、このフレッドが大きくなって、ぼくと出会うんだろうか……。
それならば嬉しいけれど、もしこの世界の歴史が変わらないままの世界だとしたら?

ここにいるフレッドはどうなるんだろう……。
これからずっと一人になってしまう?
そんなのかわいそうだ。

神様……このフレッドにそんな辛い仕打ちはしないよね?

ぼくはそう祈ることしかできない。

「フレッドが信じてくれるかわからないけど、ぼくは20年後の未来からここにきたんだ」

「えっ……み、らい?」

「そう。どうしてかはわかんないけど、来ちゃったんだ」

「あの、本当に?」

「ふふっ。信じられないよね。でも、本当だよ」

フレッドの綺麗な瞳がまんまるになってる。
そりゃあ驚くよね。

「じゃあ……シュウの伴侶は……?」

「それを言って、もし未来が変わっちゃったら困るから言わないけど、これで相手がわかるかな?」

ぼくは髪で隠れていた藍玉アクアマリンのピアスを見せてみた。

「――っ! そ、れは……っ! んんっ!!」
「しーっ、ダメだよ。口にしちゃ。歴史が変わって結婚できなくなったら困っちゃうから……」

ピアスで相手に気づいたのか、大声を出そうとするフレッドの口を手で塞ぎ、説明するとフレッドは焦ったように何度も大きく頷いた。

「あ、あの……これ……ほ、本物?」

「ふふっ。これ、つけたら一生外せないって知ってるよね? もちろん本物だよ」

「本物……」

そういうと、フレッドはなんともいえない表情でピアスを見つめていた。



  *   *   *


「こんなにも早く復旧できたのはサヴァンスタック公爵さまのおかげでございます」

「まだ以前のように戻るには時間はかかるだろうが、これからも支援は続けていくつもりだ。困ったことがあればなんでも言ってくれ」

「ありがたきお言葉に感謝いたします。ありがとうございます」

「今回は緊急だったからシュウを連れてくることはできなんだが、次は一緒に来させてもらおう」

「はい。奥方さまとぜひお越しくださいませ。お美しいと噂の奥方さまにお会いできますことを楽しみにいたしております」

「ふふっ。噂ではないぞ。本当に美しいから驚かないようにな。だが、どんなに美しくとも私の伴侶だということは忘れないように」

「は、はい。それはもちろん」

「ははっ。では、この後も頑張ってくれ」

私はデュランと共に馬車に乗り込み、カートライト侯爵と領民たちに見送られながらサヴァンスタック領への帰路についた。

「旦那さま。予想以上に早く終わって安堵いたしましたね」

「ああ。シュウを残してきていると思うと、通常以上の力が働いたかもしれんな」

「旦那さまが早くお帰りになったら大喜びされますよ」

「ふふっ。そうだといいが……」

長い馬車での道のりもシュウに会えると思うだけで苦にはならなかった。

ああ、シュウ。
早くシュウを抱きしめたい。
そして甘い口付けをさせてくれ。

その思いだけでサヴァンスタックに向けて流れゆく景色を見つめていた。


「んっ? 何をしているのだ?」

屋敷の前に馬車が止まったというのに、マクベスも誰も出てくる気配がない。
予定を繰り上げて帰ってきたとはいえ、馬車が止まったのは気づいているはずだというのにどういうことだろう。

不思議に思いながら馬車を降り、デュランが玄関扉を開けるとマクベスとレオンが青褪めた表情で駆け寄ってきた。

「出迎えはどうした? シュウはどこだ?」

「それが……」

二人の表情に嫌な汗が流れる。

「まさか、シュウに何かあったのか?」

「実は……旦那さまがお出になられてからシュウさまのお姿が見えないのです」

「なんだと??」

「お部屋に戻られると仰ってから、お部屋からお出になったのを見た者がおりませんので、部屋にいらっしゃるものだとばかり思っていたのです。ですが、食事の時間にお声がけに行きましたらお部屋のどこにもいらっしゃらなくて……申し訳ございません」

「そんなことあるはずがないだろう!!!」

まさか、シュウが私を置いてどこかに行ったとでもいうのか? 
そんなことあるはずない!!
シュウは私と一生を共にすると誓ったではないか。
そうだろう、シュウ!

私は必死に私たちの部屋への階段を駆け上がった。
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