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番外編

可愛い王子さま   7 +おまけ話

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「シュウっ!! どこだ? シュウっ!!」

リビングはもちろん、寝室、風呂場、トイレ、どこを探しても見当たらない。

シュウ! 一体どこに行ってしまったんだ?

私の人生からシュウがいなくなるなんて、耐えられないのに……。

シュウを失ったショックで狂いそうになる中、ふとあることを思い出し、寝室へ向かった。

「パール! パールはどこだ?!」

いつも寝室に用意された寝床の中で眠っているはずのパールの姿もない。

もしかして、パールはシュウと一緒にいるのかもしれない。

落ち着け、落ち着くんだ。
フレデリック。
シュウがいないショックで何も考えることができない頭を一度落ち着かせるんだ。

そう必死に自分を言い聞かせた時、

――この部屋はフレッドの匂いがいっぱいで、ここにいるとフレッドに包まれているような気がする。

といってくれたシュウの言葉を思い出した。

そうか!
きっとシュウはそこにいるはずだ!

私は急いで本棚に向かい、一冊の本を倒し本棚を引っ張った。
現れた通路の先にある書斎へ足を踏み入れると、

「キュキューン!」

とものすごい勢いでパールが飛び込んできた。

「パール!! よかった、やっぱりここにいたのか! シュウは? シュウはどこだ?」

「キューン」

パールはなぜか悲しげな声を上げながら私の腕から離れ、書斎に置かれた一人用の椅子に飛び乗った。

「パール、どういうことだ?」

何度尋ねてもパールは悲しげに鳴くばかり。

パールがこの部屋に一人で入れるわけがないのだから、おそらくシュウがここにいたのは間違いない。
パールのあの様子を見ると、シュウはこの椅子に座っていたということなのだろう。

だが、シュウはここにいない。

どうなっているんだ?

どうにも理解できないことだらけで、フラフラとシュウが座っていたはずの椅子に腰を下ろした瞬間、私の耳についているピアスが眩い光を放ったかと思うと、頭の中にいろんな情景が浮かび始めた。


  *   *   *


「シュウ……ひとつだけお願いがあるんだ」

「ふふっ。どうしたの?」

「シュウからの……口づけが、欲しいんだ」

「えっ? 口づけって、それは……」

「だって、シュウと次に会えるのは20年後なのだろう? その間、私はずっと待ち続けなくてはいけないんだ。少しくらい、シュウとの思い出を持っていたいんだ」

国王さまと分かり合えたとしても、他の人の反応が変わることはないだろう。
ぼくと出会うその日までフレッドの苦難は続くんだ。

でも……なんとなく、フレッドに対して罪悪感を感じてしまう自分がいる。
たとえフレッド相手だとしても、フレッドは嫌がりそうなんだよね。

ぼくとの思い出を持っていたいといってくれるのは嬉しいけれど、どうしたらいいんだろう。

「シュウ……お願いだよ」

「フレッド……じゃあ、目を瞑って……」

縋るような目で見つめられてぼくは気付けばそう答えていた。

ぼくのいう通りにすっと目を瞑ってくれるフレッド。
長いまつ毛は子どもの時から変わらないんだな。

綺麗なフレッドの顔を堪能して、ぼくはフレッドの頬を両手で包み込み、瞑っている瞼に口付けた。

「シュウ……」

どうして瞼に?
そう訴えているのがわかる。

「ぼく、フレッドのこの綺麗な淡い水色の瞳が大好き。これから先、誰に何を言われても、ぼくが好きなこの瞳でたくさんのものを見つめてね。ぼくの好きなこの綺麗な瞳を嫌いにならないで」

「シュウ……」

ギュッと抱きしめてくれたフレッドの唇がぼくの頬にそっと触れる。

「ずっと愛してるから……」

そう言いながら、フレッドの指がぼくのピアスに触れた瞬間、眩い光がぼくを包み込んだ。


  *   *   `*


「シュウっ!!」

びっくりするような大きな声が聞こえたと思ったら、ぼくはフレッドに抱きかかえられていた。

ああ、なんだ。
戻ってこられたのかと思ったのに違ったんだ。

あの光はなんだったんだろうな……と思っていると、目の前のフレッドの瞳から大粒の涙が溢れていく。

「えっ? どうしたの?」

「シュウっ!! ああ、もう! いなくなってどれだけ心配したか」

「えっ……あっ! もしかして今のフレッド?!」

よく見れば、さっきよりも抱きしめてくれている身体がすごく大きい。

あっちのフレッドに抱っこされたままだったからすぐにはわからなかった。

「よく戻ってきてくれたな」

「あ、えっと……ぼく、実は……」

「全部知っている」

「えっ? 知って、る? どういうこと?」

「さっき急に頭の中に情報が流れ込んできたんだ。幼い私の前に現れたシュウのことも父上やアレクとお茶したことも全て……」

「そう、なんだ……」

もう驚きすぎてわけがわからなくなりそう。
でも、ということはやっぱりあの時のフレッドがぼくのフレッドになったってことだ。
よかった……。

「シュウ……口づけをねだられてしてあげただろう?」

「えっ、あの、でも……瞼にだよ」

「違う、頬にもされたはずだ」

「あっ!! でも、あのフレッドはフレッドだから……」

「そうだが、面白くないな。シュウの口付けは私だけのものなのに、幼い私に奪われていたとはな……」

「で、でも、口にはしてないよ」

「ああ、それは偉かったな。だが、私を心配させたのだし、お仕置きは必要だろう?」

お仕置きと言われて、一瞬にして身体の奥が疼いてしまう。

「ふふっ。とりあえず、マクベスたちにシュウが見つかったと報告しに行こうか。お仕置きはその後だ」

「うん。フレッド……いっぱいお仕置きして……」

「くっ――!!」

フレッドはぼくを抱きかかえたまま、急いで書斎から出ると部屋の扉から大声でぼくが見つかったと宣言するや否や、そのまま寝室に逆戻りして、ひたすら獣のようにぼくを愛し続けた。

フレッドに意識がなくなるまで愛し続けられている間、あのフレッドの唇にキスをしないでよかったと心からホッとしていた。


  *   *   *

<おまけ>

突然私の寝室にやってきた天使・シュウは私の心にも身体にも影響を与えまくって、あっという間にいなくなってしまった。

シュウが帰ったと話すと、ブライアンはこの世の終わりとでもいうようなほど落胆した。

父上はあれから私への謝罪は無くなった。
その代わりに二人でお茶をする時間も増えたように思う。

アレクは可愛いシュウとのいちゃいちゃを間近で見せつけられたと会うたびに文句を言ってくるが、そのやりとりすらもシュウが本当に実在したのだと感じられて嬉しい。

そして、私は……。

毎晩のように、シュウとのあの日々を思い出しては昂りを鎮める日々が続いていた。
あの柔らかな肌、甘い香り、そして、瞼と唇に残るシュウの感触。
きっと一生忘れることはないだろう。

20年後は果てしなく遠く感じるが、20年後に必ず出会えると思えば頑張れもする。
今度こそ、シュウの唇に口づけをするのだ。
そう心に誓いながら、今夜もまた昂りを鎮めるのだ。
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