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番外編
可愛い王子さま 5
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途中で視点が変わります。
* * *
懐かしいあの東屋で美味しい紅茶とお菓子を食べていると、お父さんとの日々を思い出す。
「あ、あの……シュウ殿、其方は流石にまだ婚約者はいないだろう? どうだ? このアレクの伴侶になる気はないか?」
「えっ? そんなご冗談を……」
美味しいお菓子を頬張ったところで、突然国王さまにそんな話をされて驚いてしまう。
「いや、冗談などではないよ。君のような美しい者がアレクの伴侶になってこの国を一緒に盛り立ててくれたらいうことなしなのだがな。どうだ? 悪い話ではないだろう?」
「いえ、あの――」
「父上、何を仰っているのですか! シュウは私の大切な友人ですよ!」
「フレデリック! お前は黙っていなさい! 彼だって、お前みたいな醜い者の友人でいるより、アレクの伴侶となった方が幸せに決まっているだろう!! そう思っているから、彼もこの場に来たんだろうが」
「くっ――!!」
国王さまに酷い言葉を投げかけられフレッドの表情が苦痛に歪んでいる。
酷い!
酷すぎる!
いくら自分の息子だからって言っていいことと悪いことがある。
フレッドのあまりにも悔しそうな表情に僕はつい大声で叫んでしまった。
「それはあんまりです!」
「なに?」
「国王さまは自分の息子をなんだと思っているんですか! 勝手にぼくを伴侶になんて言われるアレクサンダーさまにも失礼だし、何よりフレッドに対して酷すぎます! そもそも、別に王妃にしてもらいたくて、このお茶会についてきたわけじゃないですよ! 僕はフレッドが好きだから少しの時間も離れていたくなくてついてきたんです!」
「――っ! シュウっ!!」
「国王さま! フレッドのこと、もっと大切にしてあげてください! 大体、髪色だって、瞳の色だって、フレッドがそう望んで生まれてきたわけじゃないでしょう? 自分じゃどうしようもできないことで醜いだのなんだのって、そんなことで優劣が決まるなんておかしいじゃないですか! いいかげん外見なんかじゃなくてフレッドの中身をもっと見てあげてくださいよ!」
叫んでいるうちに言いたいことがどんどん、どんどん溢れてしまって止まらない。
「そうじゃなきゃ、フレッドが……可哀想」
気づけば、自分の涙で目の前が歪むほど僕は泣き出してしまっていた。
* * *
シュウを加えての茶会は、今までの苦行の時間が嘘のように楽しいものだった。
美味しそうに菓子を頬張る姿に自然と顔が綻ぶ。
ああ、こんな楽しい茶会なら何時間でも過ごせそうだ。
そんなことを思っていると、突然父上がシュウにアレクの伴侶にならないかと言い出した。
決して冗談などではないその言葉が私を落ち込ませる。
さっきまでの楽しい気持ちが沈んでいく私とは対照的に父上の言葉にまんざらでもなさそうなアレクの表情に腹が立って、私は思わず父上に大声をあげていた。
しかし、お前みたいな醜い者の友人でいるよりアレクの伴侶となって王妃になった方がシュウが幸せだと言われては、ぐうの音も出ない。
このままシュウとアレクとの縁談が決まってしまったら、私はどうしたらいいのだろう……。
ようやく私を真正面から見てくれる人に出会えたというのに。
すると、シュウが突然立ち上がり、真っ赤な顔で父上に怒鳴り始めた。
自分をアレクの伴侶にと勧められたこと以上に、私のことを貶す父上の言葉を許せなかったようで、シュウは大粒の涙を溢しながら訴え続けた。
「いいかげん外見なんかじゃなくてフレッドの中身をもっと見てあげてくださいよ!」
その言葉が私の心に突き刺さる。
ずっと私が叫びたかった言葉だ。
好きでこの色に生まれたんじゃない。
変えられるものなら変えてしまいたい。
毎朝鏡を見るたびに現実を思い知らされて、どれだけ鏡を割ってしまいたいと思ったか。
最初は頑張れば、わかってもらえると思った。
それでも、何をしても外見でしか判断されないことに諦めたのはいつ頃だったか。
だが、シュウの涙の叫びが、私の閉ざしていた心を開いてくれたのだ。
それがとてつもなく嬉しくて
「シュウ……ありがとう。私の胸の内をこんなにもわかってくれる者がいるなんて……。私はシュウと出会えただけで今までの苦しみから解き放たれた気がするよ」
私のために大粒の涙を流してくれるシュウを強く抱きしめた。
「ふ、れっど……っ、ごめん、なさい……ぼく……っ」
「なんで謝るんだ? 私は喜んでいるんだぞ」
「だって、こくおうさまに……」
「いいんだ。シュウは私の代わりに言ってくれたんだろう? だから、私もちゃんと言うよ」
「ふれ、っど……」
シュウの頬を伝う涙を拭い、私は父上を見つめた。
父上はシュウに怒鳴りつけられ、少しは思うところがあったのだろうか。
黙って私たちを見ていた。
「フレデリック……」
「父上、私を見てください。私は父上の息子に生まれて、この国のためにあろうと、幼い時から武術も剣術も、そして勉学も頑張ってきました。いつかこの国の王となる兄上を支えられるように、必死で頑張ってきたのです。父上……髪色で国は救えません。瞳の色で国民を食べさせることはできません。どうか、外見だけでなく私自身を見てください……私も父上の息子なのですよ」
「……そうだな。お前を見るたびに、どうしてこんな姿に産んでしまったのだろうと心が苦しくて、見て見ぬふりをしてしまっていた。いつの間にか、お前はこんなにも大きくなっていたのだな……。お前の頑張りを見ようともせず、申し訳なかった。フレデリック……父を許してくれるか?」
「父上……。はい。もちろんです」
「シュウ殿、其方を見下すような発言をして申し訳なかった。フレデリックは本当に素晴らしい友人と出会えたようだな」
「こく、おうさま……」
「これからもフレデリックを頼む」
シュウはその言葉に笑顔を返すだけだったが、それでも私は嬉しかった。
部屋に戻ると、シュウが話があると言い出した。
さっきの涙でまだ瞼が腫れたまま、真剣な表情で見つめるシュウの姿に私はごくりと息を呑んだ。
私の中で、聞きたい思いと聞きたくない気持ちとが交錯する。
それでも聞かないわけにはいかないだろう。
私は緊張しながらシュウの手を引き、シュウと出会った寝室に足を踏み入れた。
* * *
懐かしいあの東屋で美味しい紅茶とお菓子を食べていると、お父さんとの日々を思い出す。
「あ、あの……シュウ殿、其方は流石にまだ婚約者はいないだろう? どうだ? このアレクの伴侶になる気はないか?」
「えっ? そんなご冗談を……」
美味しいお菓子を頬張ったところで、突然国王さまにそんな話をされて驚いてしまう。
「いや、冗談などではないよ。君のような美しい者がアレクの伴侶になってこの国を一緒に盛り立ててくれたらいうことなしなのだがな。どうだ? 悪い話ではないだろう?」
「いえ、あの――」
「父上、何を仰っているのですか! シュウは私の大切な友人ですよ!」
「フレデリック! お前は黙っていなさい! 彼だって、お前みたいな醜い者の友人でいるより、アレクの伴侶となった方が幸せに決まっているだろう!! そう思っているから、彼もこの場に来たんだろうが」
「くっ――!!」
国王さまに酷い言葉を投げかけられフレッドの表情が苦痛に歪んでいる。
酷い!
酷すぎる!
いくら自分の息子だからって言っていいことと悪いことがある。
フレッドのあまりにも悔しそうな表情に僕はつい大声で叫んでしまった。
「それはあんまりです!」
「なに?」
「国王さまは自分の息子をなんだと思っているんですか! 勝手にぼくを伴侶になんて言われるアレクサンダーさまにも失礼だし、何よりフレッドに対して酷すぎます! そもそも、別に王妃にしてもらいたくて、このお茶会についてきたわけじゃないですよ! 僕はフレッドが好きだから少しの時間も離れていたくなくてついてきたんです!」
「――っ! シュウっ!!」
「国王さま! フレッドのこと、もっと大切にしてあげてください! 大体、髪色だって、瞳の色だって、フレッドがそう望んで生まれてきたわけじゃないでしょう? 自分じゃどうしようもできないことで醜いだのなんだのって、そんなことで優劣が決まるなんておかしいじゃないですか! いいかげん外見なんかじゃなくてフレッドの中身をもっと見てあげてくださいよ!」
叫んでいるうちに言いたいことがどんどん、どんどん溢れてしまって止まらない。
「そうじゃなきゃ、フレッドが……可哀想」
気づけば、自分の涙で目の前が歪むほど僕は泣き出してしまっていた。
* * *
シュウを加えての茶会は、今までの苦行の時間が嘘のように楽しいものだった。
美味しそうに菓子を頬張る姿に自然と顔が綻ぶ。
ああ、こんな楽しい茶会なら何時間でも過ごせそうだ。
そんなことを思っていると、突然父上がシュウにアレクの伴侶にならないかと言い出した。
決して冗談などではないその言葉が私を落ち込ませる。
さっきまでの楽しい気持ちが沈んでいく私とは対照的に父上の言葉にまんざらでもなさそうなアレクの表情に腹が立って、私は思わず父上に大声をあげていた。
しかし、お前みたいな醜い者の友人でいるよりアレクの伴侶となって王妃になった方がシュウが幸せだと言われては、ぐうの音も出ない。
このままシュウとアレクとの縁談が決まってしまったら、私はどうしたらいいのだろう……。
ようやく私を真正面から見てくれる人に出会えたというのに。
すると、シュウが突然立ち上がり、真っ赤な顔で父上に怒鳴り始めた。
自分をアレクの伴侶にと勧められたこと以上に、私のことを貶す父上の言葉を許せなかったようで、シュウは大粒の涙を溢しながら訴え続けた。
「いいかげん外見なんかじゃなくてフレッドの中身をもっと見てあげてくださいよ!」
その言葉が私の心に突き刺さる。
ずっと私が叫びたかった言葉だ。
好きでこの色に生まれたんじゃない。
変えられるものなら変えてしまいたい。
毎朝鏡を見るたびに現実を思い知らされて、どれだけ鏡を割ってしまいたいと思ったか。
最初は頑張れば、わかってもらえると思った。
それでも、何をしても外見でしか判断されないことに諦めたのはいつ頃だったか。
だが、シュウの涙の叫びが、私の閉ざしていた心を開いてくれたのだ。
それがとてつもなく嬉しくて
「シュウ……ありがとう。私の胸の内をこんなにもわかってくれる者がいるなんて……。私はシュウと出会えただけで今までの苦しみから解き放たれた気がするよ」
私のために大粒の涙を流してくれるシュウを強く抱きしめた。
「ふ、れっど……っ、ごめん、なさい……ぼく……っ」
「なんで謝るんだ? 私は喜んでいるんだぞ」
「だって、こくおうさまに……」
「いいんだ。シュウは私の代わりに言ってくれたんだろう? だから、私もちゃんと言うよ」
「ふれ、っど……」
シュウの頬を伝う涙を拭い、私は父上を見つめた。
父上はシュウに怒鳴りつけられ、少しは思うところがあったのだろうか。
黙って私たちを見ていた。
「フレデリック……」
「父上、私を見てください。私は父上の息子に生まれて、この国のためにあろうと、幼い時から武術も剣術も、そして勉学も頑張ってきました。いつかこの国の王となる兄上を支えられるように、必死で頑張ってきたのです。父上……髪色で国は救えません。瞳の色で国民を食べさせることはできません。どうか、外見だけでなく私自身を見てください……私も父上の息子なのですよ」
「……そうだな。お前を見るたびに、どうしてこんな姿に産んでしまったのだろうと心が苦しくて、見て見ぬふりをしてしまっていた。いつの間にか、お前はこんなにも大きくなっていたのだな……。お前の頑張りを見ようともせず、申し訳なかった。フレデリック……父を許してくれるか?」
「父上……。はい。もちろんです」
「シュウ殿、其方を見下すような発言をして申し訳なかった。フレデリックは本当に素晴らしい友人と出会えたようだな」
「こく、おうさま……」
「これからもフレデリックを頼む」
シュウはその言葉に笑顔を返すだけだったが、それでも私は嬉しかった。
部屋に戻ると、シュウが話があると言い出した。
さっきの涙でまだ瞼が腫れたまま、真剣な表情で見つめるシュウの姿に私はごくりと息を呑んだ。
私の中で、聞きたい思いと聞きたくない気持ちとが交錯する。
それでも聞かないわけにはいかないだろう。
私は緊張しながらシュウの手を引き、シュウと出会った寝室に足を踏み入れた。
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