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妹のために
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ーおにぃ、ちゃん……わたし……けっこん、させられる……。
ーえっ? 結婚させられる? 父さんにか?
ーちが――っ、ぐすっ……。
一体どういうことなんだ?
そもそも、千鶴には恋人だっていなかったはず。
冷静に考えれば、父さんは同じ双子でも女の子である千鶴の方を特に可愛がっていたから、無理やり結婚させるなんてあるはずがない。
じゃあ、誰が? なんのために?
ー千鶴、最初から順序立てて話してくれ。どれだけ長くなっても構わない。ちゃんと話を聞くから。
ーぐすっ……っ、あの、ね……笹川コーポレーションの……
透也はスマホから笹川の名前が出た瞬間、スピーカーに設定して俺にシーッと人差し指を立てた。
俺はそれをみて小さく頷いた。
泣きながら電話してくるくらいだ。
本当なら誰にも聞かれたくない内容かもしれない。
だから、千鶴に少し申し訳ないような気もしたけれど、透也は笹川の人間だし俺の最も信頼する相手。
きっと、いや絶対に味方になってくれるはずだ。
心の中で千鶴にごめんと謝りながら、千鶴の言葉を一つ一つ聞き逃さないように耳を傾けた。
千鶴の話は俺の想像を遥かに超えるほど、腑が煮え繰り返る内容だった。
父さんの勤めている会社と笹川コーポレーションはかなり長い付き合いだが、少し前に担当が変わったようでその相手と父さんが飲みに行ったことがあったらしい。
そこで安田が忘れていった書類を千鶴が笹川コーポレーションまで届けに行くことになり、そこでお礼と言うことで無理やり居酒屋に連れて行かれたようだ。
一杯だけ付き合って欲しいと言われて仕方なく口にすると、そのまま意識を失い、気がついた時には両腕を縛られて裸でラブホテルのベッドに寝かされていたと涙ながらに教えてくれた。
そして、そのまま処女を奪われ、動画と写真を撮られ、これをばら撒かれたくなかったら結婚しろと迫られたらしい。
ーずっと、前から……みてた、ってそう、言われた……。
ーくそっ! 書類忘れたのも千鶴を呼び寄せる口実か!
ーおにい、ちゃん……私、どうしたらいい? このまま、あんな人と、結婚するなんて……っ。
ー大丈夫だ! 俺に任せろ!
ー本当?
ーああ、千鶴は絶対に俺が守るから!
ーお兄ちゃん……っ。
ーこのことは父さんは知ってるのか?
ーまだ、話してない。話せないよ。
ーそうか……あっ、それで、あの……妊娠の、可能性は?
ーそれは……多分、大丈夫だと思う。
ーなら、良かった。あ、いやよくはないんだけど、その……ごめん。
ーううん。私も良かったと思ったから、大丈夫。
ー仕事はどうしているんだ?
ー外に出られなくて……体調が悪いって休んでる。お父さんもそれで心配してるけど……言えなくて……。
ーわかった。あとは全部任せてくれ。また連絡するから。
ーありがとう。お兄ちゃん。
最初の声と比べて、ほんの少しだけ明るさが見えた気がしたのがせめてもの救いだったけれど、それでも随分と傷ついているはずだ。
「はぁーっ。なんでこんなことに……」
「すみません、大智。俺のせいです」
ため息を吐くと、透也は青褪めた表情で俺に頭を下げた。
「なんで透也のせいなんだ?」
「大智のお父さんの会社はずっと俺の担当だったんです」
「えっ? じゃあ、最近担当が変わったっていうのは?」
「俺がこっちの支社に出張している間だけ違う社員に代わりを務めていて貰っているんです。でも別のちゃんと信頼できる社員に引き継いで来たんですが、多分……千鶴さんを手に入れるために担当の座を奪い取ったのかもしれません。俺がちゃんと話を通しておけば……すみません」
「透也。顔を上げてくれ。透也のせいじゃない。奴は最初から千鶴を狙ってたんだ。担当になれなくても多分何かしらの方法で千鶴に近づいていたと思う」
「大智……」
「それよりも早く千鶴をなんとかしないと!」
「大智。千鶴さんの件、俺に任せてもらえません? もうすぐ帰国する予定でしたし、明日すぐにでも帰国して動いてみようと思います。俺の方がいろいろと伝手もありますし、最悪な事態になる前に手は打てるかと」
透也が千鶴のことで責任を感じて言ってくれてるのはよくわかった。
決して透也のせいじゃない。
悪いのは全て安田ってやつのせい。
でも、俺が急いで帰国したところで笹川コーポレーションと話をつけるだけでも時間がかかるかもしれない。
それなら、透也に任せた方がいいのか?
「千鶴には俺に任せろなんて大口叩いたのに、透也に丸投げするのは申し訳ない気もするけど」
「何言ってるんですか。大智の妹なら、俺の妹も同然でしょう? あっ、年齢的にはお姉さんか? あ、いやとにかく、大智は千鶴さんの心のケアを第一に考えて、実践的に俺が動くという役割分担ですから丸投げなんかじゃないですよ」
「ありがとう。本当にありがとう」
「明日早速日本に帰国して来ます。寂しいとは思いますが、寂しいときはいつでも連絡してください。寂しくなくてもいつでも連絡してくださいね」
「ふふっ。ああ、そうするよ」
透也はその場ですぐに明日の日本行きのチケットを取り、早朝便で日本に向かった。
ーえっ? 結婚させられる? 父さんにか?
ーちが――っ、ぐすっ……。
一体どういうことなんだ?
そもそも、千鶴には恋人だっていなかったはず。
冷静に考えれば、父さんは同じ双子でも女の子である千鶴の方を特に可愛がっていたから、無理やり結婚させるなんてあるはずがない。
じゃあ、誰が? なんのために?
ー千鶴、最初から順序立てて話してくれ。どれだけ長くなっても構わない。ちゃんと話を聞くから。
ーぐすっ……っ、あの、ね……笹川コーポレーションの……
透也はスマホから笹川の名前が出た瞬間、スピーカーに設定して俺にシーッと人差し指を立てた。
俺はそれをみて小さく頷いた。
泣きながら電話してくるくらいだ。
本当なら誰にも聞かれたくない内容かもしれない。
だから、千鶴に少し申し訳ないような気もしたけれど、透也は笹川の人間だし俺の最も信頼する相手。
きっと、いや絶対に味方になってくれるはずだ。
心の中で千鶴にごめんと謝りながら、千鶴の言葉を一つ一つ聞き逃さないように耳を傾けた。
千鶴の話は俺の想像を遥かに超えるほど、腑が煮え繰り返る内容だった。
父さんの勤めている会社と笹川コーポレーションはかなり長い付き合いだが、少し前に担当が変わったようでその相手と父さんが飲みに行ったことがあったらしい。
そこで安田が忘れていった書類を千鶴が笹川コーポレーションまで届けに行くことになり、そこでお礼と言うことで無理やり居酒屋に連れて行かれたようだ。
一杯だけ付き合って欲しいと言われて仕方なく口にすると、そのまま意識を失い、気がついた時には両腕を縛られて裸でラブホテルのベッドに寝かされていたと涙ながらに教えてくれた。
そして、そのまま処女を奪われ、動画と写真を撮られ、これをばら撒かれたくなかったら結婚しろと迫られたらしい。
ーずっと、前から……みてた、ってそう、言われた……。
ーくそっ! 書類忘れたのも千鶴を呼び寄せる口実か!
ーおにい、ちゃん……私、どうしたらいい? このまま、あんな人と、結婚するなんて……っ。
ー大丈夫だ! 俺に任せろ!
ー本当?
ーああ、千鶴は絶対に俺が守るから!
ーお兄ちゃん……っ。
ーこのことは父さんは知ってるのか?
ーまだ、話してない。話せないよ。
ーそうか……あっ、それで、あの……妊娠の、可能性は?
ーそれは……多分、大丈夫だと思う。
ーなら、良かった。あ、いやよくはないんだけど、その……ごめん。
ーううん。私も良かったと思ったから、大丈夫。
ー仕事はどうしているんだ?
ー外に出られなくて……体調が悪いって休んでる。お父さんもそれで心配してるけど……言えなくて……。
ーわかった。あとは全部任せてくれ。また連絡するから。
ーありがとう。お兄ちゃん。
最初の声と比べて、ほんの少しだけ明るさが見えた気がしたのがせめてもの救いだったけれど、それでも随分と傷ついているはずだ。
「はぁーっ。なんでこんなことに……」
「すみません、大智。俺のせいです」
ため息を吐くと、透也は青褪めた表情で俺に頭を下げた。
「なんで透也のせいなんだ?」
「大智のお父さんの会社はずっと俺の担当だったんです」
「えっ? じゃあ、最近担当が変わったっていうのは?」
「俺がこっちの支社に出張している間だけ違う社員に代わりを務めていて貰っているんです。でも別のちゃんと信頼できる社員に引き継いで来たんですが、多分……千鶴さんを手に入れるために担当の座を奪い取ったのかもしれません。俺がちゃんと話を通しておけば……すみません」
「透也。顔を上げてくれ。透也のせいじゃない。奴は最初から千鶴を狙ってたんだ。担当になれなくても多分何かしらの方法で千鶴に近づいていたと思う」
「大智……」
「それよりも早く千鶴をなんとかしないと!」
「大智。千鶴さんの件、俺に任せてもらえません? もうすぐ帰国する予定でしたし、明日すぐにでも帰国して動いてみようと思います。俺の方がいろいろと伝手もありますし、最悪な事態になる前に手は打てるかと」
透也が千鶴のことで責任を感じて言ってくれてるのはよくわかった。
決して透也のせいじゃない。
悪いのは全て安田ってやつのせい。
でも、俺が急いで帰国したところで笹川コーポレーションと話をつけるだけでも時間がかかるかもしれない。
それなら、透也に任せた方がいいのか?
「千鶴には俺に任せろなんて大口叩いたのに、透也に丸投げするのは申し訳ない気もするけど」
「何言ってるんですか。大智の妹なら、俺の妹も同然でしょう? あっ、年齢的にはお姉さんか? あ、いやとにかく、大智は千鶴さんの心のケアを第一に考えて、実践的に俺が動くという役割分担ですから丸投げなんかじゃないですよ」
「ありがとう。本当にありがとう」
「明日早速日本に帰国して来ます。寂しいとは思いますが、寂しいときはいつでも連絡してください。寂しくなくてもいつでも連絡してくださいね」
「ふふっ。ああ、そうするよ」
透也はその場ですぐに明日の日本行きのチケットを取り、早朝便で日本に向かった。
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