年下イケメンに甘やかされすぎて困ってます

波木真帆

文字の大きさ
上 下
68 / 125

宇佐美くんの決断

しおりを挟む
「悪い。いきなりでびっくりさせたな。だが、こういう話はさっさと終わらせたほうがいいと思ってね」

「はい。支社長もご存じなんですね」

俺が知っているとわかっても表情が変わらないのだから、本当に吹っ切れているんだろうな。

とりあえずちゃんと弁護士さんから連絡が来たと伝えて、酷い目にあったなと慰めの声をかけた。
その上で、上田先生との約束通りに提案を持ちかけてみた。

「もし、君が日本に帰りたくないなら数年ここで駐在してもらってもいいんだよ」

俺の言葉に今までなんともなかった宇佐美くんの表情が一気に曇るのがわかった。

給料も上がるし、こちらに残ってくれると助かるといくつか理由を挙げたが、宇佐美くんの表情はずっと強張ったまま。
そして、ようやく出した答えは

「すみません。今すぐには、答えられません……」

というものだった。

ー実は、帰国したら一緒に住もうと提案しているんです。彼が私のことを少しでも思うなら、きっと杉山さんの話を断るはずです。彼の気持ちがまだ定まっていないので、ここで少し私の存在をしっかりさせておきたいんですよ。

上田先生はそう仰っていたが、これはかなり脈ありなんじゃないか?

今、宇佐美くんの頭の中では私の提案と上田先生の誘いで悩みまくっているはずだ。

これはもしかしたらもしかするかもしれない。
心の中で喜びながら、必死に冷静を装い

「いや、私も急かしてしまって悪かった。とりあえず、君さえよかったらうちはいつでも歓迎だって伝えておきたかっただけだから。考えて結論を出してくれたらいい。まぁ、君みたいに優秀なら、本社も手放さないかもしれないがな」

と付け加えておいた。

正直なところ、本当に宇佐美くんがここにしばらく赴任したいといえば、願いは通るだろう。
本社で優秀な社員ではあることに間違いはないが、それ以上に会長にとって宇佐美くんは可愛い大甥。
宇佐美くんが傷ついたから少しの間、日本を離れたいといえばきっとその通りにしてくれるはずだ。

さて、彼はなんと答えを出してくるだろう。
俺は心の中で上田先生にエールを送った。


翌朝、出社してすぐに宇佐美くんが俺の席にやってきた。

もう答えを出したのなら、もしかしてここに残るというんじゃないか? という心配もあったが彼の口からは予定通り日本に帰国するという言葉が出てきた。

ということは、上田先生と一緒に住むことを了承したということだ。

よしっ!!
よかったぁーーっ!!!

そう叫びたいのを必死に抑えながら、

「いや、実は、本社にさりげなくこのまま宇佐美くんをL.A支社に居てもらうのはどうかと話をしてみたんだが、本社から正式に断られてね……やはり、宇佐美くんほどの優秀な人材は本社が手放さないな。だから、宇佐美くんに断ってもらえて助かったよ」

と冷静に声をかけておいた。

本当のところ、本社にはまだ何の話もしていないが、そこは心配いらないだろう。

その日は一日、浮かれた気分で仕事を終わらせた。
なぜこんなにも嬉しいのかと思ったが、やはり同じように傷つけられたもの同士、俺は勝手に仲間だと思っているのかもしれない。

「大智、なんだかご機嫌ですね」

「ああ、宇佐美くんにいい出会いがありそうなんだ」

「ふふっ。大智は優しいですね。人のことなのに、自分のことのように喜ぶなんて」

「宇佐美くんは特別だよ。俺も傷つけられた後で透也に出会って本当に幸せだって思えたから。宇佐美くんにも幸せになってほしいだけだ」

「大智……っ」

透也の顔が近づいてくる。
もうすぐ唇が重なり合うと思った時、俺のスマホが突然鳴り出した。

「ご、ごめん」

「ふふっ。いいですよ。後でゆっくりできますから。それより電話早くとった方がいいですよ」

「ああ、ありがとう」

この時間に誰だろうとスマホを見れば、画面表示には珍しい名前があった。

「えっ? 千鶴?」

今の時間はまだ、昼休みにもなっていないはずなのに。
なんで電話?
もしかしたら、父さんが事故か病気にでも?

いろんなことが頭を過ぎる中、電話をとった。

ーもしもし、千鶴? どうした、何かあったのか?

ーお、にい、ちゃん……っ、わたし――っ。

どれくらい泣いていたのかもわからないほど掠れさせた声で、俺を呼ぶ千鶴の声に何かとんでもないことが起こったのだと全身の血の気が引く思いだった。

フラッとした俺の身体を何も声を上げずに優しく支えてくれたのは透也。

そのままさっと抱き上げて、俺をソファーに座らせてくれた。

透也がこんなに冷静に対処してくれているのに、俺は何をしているんだ。
千鶴が俺を頼って連絡してくれているのに。

俺はふぅと深呼吸をして、必死に心を落ち着かせた。

ー泣いてたらわからないだろう、千鶴、どうしたんだ? 父さんに何かあったのか?

できるだけ優しく語りかけるように千鶴に問いかけると、千鶴はまだ少し潤んだ声でゆっくりと話し始めた。
しおりを挟む
感想 114

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

私の庇護欲を掻き立てるのです

まめ
BL
ぼんやりとした受けが、よく分からないうちに攻めに囲われていく話。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

処理中です...