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宇佐美くんの決断
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「悪い。いきなりでびっくりさせたな。だが、こういう話はさっさと終わらせたほうがいいと思ってね」
「はい。支社長もご存じなんですね」
俺が知っているとわかっても表情が変わらないのだから、本当に吹っ切れているんだろうな。
とりあえずちゃんと弁護士さんから連絡が来たと伝えて、酷い目にあったなと慰めの声をかけた。
その上で、上田先生との約束通りに提案を持ちかけてみた。
「もし、君が日本に帰りたくないなら数年ここで駐在してもらってもいいんだよ」
俺の言葉に今までなんともなかった宇佐美くんの表情が一気に曇るのがわかった。
給料も上がるし、こちらに残ってくれると助かるといくつか理由を挙げたが、宇佐美くんの表情はずっと強張ったまま。
そして、ようやく出した答えは
「すみません。今すぐには、答えられません……」
というものだった。
ー実は、帰国したら一緒に住もうと提案しているんです。彼が私のことを少しでも思うなら、きっと杉山さんの話を断るはずです。彼の気持ちがまだ定まっていないので、ここで少し私の存在をしっかりさせておきたいんですよ。
上田先生はそう仰っていたが、これはかなり脈ありなんじゃないか?
今、宇佐美くんの頭の中では私の提案と上田先生の誘いで悩みまくっているはずだ。
これはもしかしたらもしかするかもしれない。
心の中で喜びながら、必死に冷静を装い
「いや、私も急かしてしまって悪かった。とりあえず、君さえよかったらうちはいつでも歓迎だって伝えておきたかっただけだから。考えて結論を出してくれたらいい。まぁ、君みたいに優秀なら、本社も手放さないかもしれないがな」
と付け加えておいた。
正直なところ、本当に宇佐美くんがここにしばらく赴任したいといえば、願いは通るだろう。
本社で優秀な社員ではあることに間違いはないが、それ以上に会長にとって宇佐美くんは可愛い大甥。
宇佐美くんが傷ついたから少しの間、日本を離れたいといえばきっとその通りにしてくれるはずだ。
さて、彼はなんと答えを出してくるだろう。
俺は心の中で上田先生にエールを送った。
翌朝、出社してすぐに宇佐美くんが俺の席にやってきた。
もう答えを出したのなら、もしかしてここに残るというんじゃないか? という心配もあったが彼の口からは予定通り日本に帰国するという言葉が出てきた。
ということは、上田先生と一緒に住むことを了承したということだ。
よしっ!!
よかったぁーーっ!!!
そう叫びたいのを必死に抑えながら、
「いや、実は、本社にさりげなくこのまま宇佐美くんをL.A支社に居てもらうのはどうかと話をしてみたんだが、本社から正式に断られてね……やはり、宇佐美くんほどの優秀な人材は本社が手放さないな。だから、宇佐美くんに断ってもらえて助かったよ」
と冷静に声をかけておいた。
本当のところ、本社にはまだ何の話もしていないが、そこは心配いらないだろう。
その日は一日、浮かれた気分で仕事を終わらせた。
なぜこんなにも嬉しいのかと思ったが、やはり同じように傷つけられたもの同士、俺は勝手に仲間だと思っているのかもしれない。
「大智、なんだかご機嫌ですね」
「ああ、宇佐美くんにいい出会いがありそうなんだ」
「ふふっ。大智は優しいですね。人のことなのに、自分のことのように喜ぶなんて」
「宇佐美くんは特別だよ。俺も傷つけられた後で透也に出会って本当に幸せだって思えたから。宇佐美くんにも幸せになってほしいだけだ」
「大智……っ」
透也の顔が近づいてくる。
もうすぐ唇が重なり合うと思った時、俺のスマホが突然鳴り出した。
「ご、ごめん」
「ふふっ。いいですよ。後でゆっくりできますから。それより電話早くとった方がいいですよ」
「ああ、ありがとう」
この時間に誰だろうとスマホを見れば、画面表示には珍しい名前があった。
「えっ? 千鶴?」
今の時間はまだ、昼休みにもなっていないはずなのに。
なんで電話?
もしかしたら、父さんが事故か病気にでも?
いろんなことが頭を過ぎる中、電話をとった。
ーもしもし、千鶴? どうした、何かあったのか?
ーお、にい、ちゃん……っ、わたし――っ。
どれくらい泣いていたのかもわからないほど掠れさせた声で、俺を呼ぶ千鶴の声に何かとんでもないことが起こったのだと全身の血の気が引く思いだった。
フラッとした俺の身体を何も声を上げずに優しく支えてくれたのは透也。
そのままさっと抱き上げて、俺をソファーに座らせてくれた。
透也がこんなに冷静に対処してくれているのに、俺は何をしているんだ。
千鶴が俺を頼って連絡してくれているのに。
俺はふぅと深呼吸をして、必死に心を落ち着かせた。
ー泣いてたらわからないだろう、千鶴、どうしたんだ? 父さんに何かあったのか?
できるだけ優しく語りかけるように千鶴に問いかけると、千鶴はまだ少し潤んだ声でゆっくりと話し始めた。
「はい。支社長もご存じなんですね」
俺が知っているとわかっても表情が変わらないのだから、本当に吹っ切れているんだろうな。
とりあえずちゃんと弁護士さんから連絡が来たと伝えて、酷い目にあったなと慰めの声をかけた。
その上で、上田先生との約束通りに提案を持ちかけてみた。
「もし、君が日本に帰りたくないなら数年ここで駐在してもらってもいいんだよ」
俺の言葉に今までなんともなかった宇佐美くんの表情が一気に曇るのがわかった。
給料も上がるし、こちらに残ってくれると助かるといくつか理由を挙げたが、宇佐美くんの表情はずっと強張ったまま。
そして、ようやく出した答えは
「すみません。今すぐには、答えられません……」
というものだった。
ー実は、帰国したら一緒に住もうと提案しているんです。彼が私のことを少しでも思うなら、きっと杉山さんの話を断るはずです。彼の気持ちがまだ定まっていないので、ここで少し私の存在をしっかりさせておきたいんですよ。
上田先生はそう仰っていたが、これはかなり脈ありなんじゃないか?
今、宇佐美くんの頭の中では私の提案と上田先生の誘いで悩みまくっているはずだ。
これはもしかしたらもしかするかもしれない。
心の中で喜びながら、必死に冷静を装い
「いや、私も急かしてしまって悪かった。とりあえず、君さえよかったらうちはいつでも歓迎だって伝えておきたかっただけだから。考えて結論を出してくれたらいい。まぁ、君みたいに優秀なら、本社も手放さないかもしれないがな」
と付け加えておいた。
正直なところ、本当に宇佐美くんがここにしばらく赴任したいといえば、願いは通るだろう。
本社で優秀な社員ではあることに間違いはないが、それ以上に会長にとって宇佐美くんは可愛い大甥。
宇佐美くんが傷ついたから少しの間、日本を離れたいといえばきっとその通りにしてくれるはずだ。
さて、彼はなんと答えを出してくるだろう。
俺は心の中で上田先生にエールを送った。
翌朝、出社してすぐに宇佐美くんが俺の席にやってきた。
もう答えを出したのなら、もしかしてここに残るというんじゃないか? という心配もあったが彼の口からは予定通り日本に帰国するという言葉が出てきた。
ということは、上田先生と一緒に住むことを了承したということだ。
よしっ!!
よかったぁーーっ!!!
そう叫びたいのを必死に抑えながら、
「いや、実は、本社にさりげなくこのまま宇佐美くんをL.A支社に居てもらうのはどうかと話をしてみたんだが、本社から正式に断られてね……やはり、宇佐美くんほどの優秀な人材は本社が手放さないな。だから、宇佐美くんに断ってもらえて助かったよ」
と冷静に声をかけておいた。
本当のところ、本社にはまだ何の話もしていないが、そこは心配いらないだろう。
その日は一日、浮かれた気分で仕事を終わらせた。
なぜこんなにも嬉しいのかと思ったが、やはり同じように傷つけられたもの同士、俺は勝手に仲間だと思っているのかもしれない。
「大智、なんだかご機嫌ですね」
「ああ、宇佐美くんにいい出会いがありそうなんだ」
「ふふっ。大智は優しいですね。人のことなのに、自分のことのように喜ぶなんて」
「宇佐美くんは特別だよ。俺も傷つけられた後で透也に出会って本当に幸せだって思えたから。宇佐美くんにも幸せになってほしいだけだ」
「大智……っ」
透也の顔が近づいてくる。
もうすぐ唇が重なり合うと思った時、俺のスマホが突然鳴り出した。
「ご、ごめん」
「ふふっ。いいですよ。後でゆっくりできますから。それより電話早くとった方がいいですよ」
「ああ、ありがとう」
この時間に誰だろうとスマホを見れば、画面表示には珍しい名前があった。
「えっ? 千鶴?」
今の時間はまだ、昼休みにもなっていないはずなのに。
なんで電話?
もしかしたら、父さんが事故か病気にでも?
いろんなことが頭を過ぎる中、電話をとった。
ーもしもし、千鶴? どうした、何かあったのか?
ーお、にい、ちゃん……っ、わたし――っ。
どれくらい泣いていたのかもわからないほど掠れさせた声で、俺を呼ぶ千鶴の声に何かとんでもないことが起こったのだと全身の血の気が引く思いだった。
フラッとした俺の身体を何も声を上げずに優しく支えてくれたのは透也。
そのままさっと抱き上げて、俺をソファーに座らせてくれた。
透也がこんなに冷静に対処してくれているのに、俺は何をしているんだ。
千鶴が俺を頼って連絡してくれているのに。
俺はふぅと深呼吸をして、必死に心を落ち着かせた。
ー泣いてたらわからないだろう、千鶴、どうしたんだ? 父さんに何かあったのか?
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