婚約者に裏切られたのに幸せすぎて怖いんですけど……

波木真帆

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番外編

ラスボスとの対面  <後編>

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なんとか終わりました♡
楽しんでいただけると嬉しいです。


  *   *   *





「お祖父さま。美味しいおつまみを作ってもらいましたよ」

「おお、敦己。ありがとう。早速いただくとしよう」

会長と和やかに歓談していると、敦己と共に50代くらいの女性が部屋に入ってきた。
彼女が篠山さんだろうか。
優しくて上品そうな女性だ。

ワイングラスやカトラリーを並べてくれる所作が見た目と違わず美しい。

「篠山くん、彼が敦己の大事な恋人の上田くんだよ。これからも会うことがあるだろうからよろしく頼むよ」

「はい。上田さま、篠山と申します。どうぞよろしくお願いいたします」

「こちらこそ、よろしくお願いします。このおつまみ、とても美味しそうですね」

「ありがとうございます。どうぞごゆっくりお過ごしください」

にこやかな笑顔を見せながら、篠山さんは部屋を出て行った。

「あの方はもう長いんですか?」

「そうだな……妻が亡くなってからきてもらうようになったから15年になるだろうか。敦己がここによく来るようになった時からだから、篠山くんの食事で育ったようなものだよ。なぁ、敦己」

「そうですね。食べてみたいと言ったらすぐに作ってくれるんで、子どもの時は魔法使いだと思ってましたよ」

「ははっ。魔法使いか。子どもの時に食べたいと思ったものが出てきたら、確かにそう思うかもしれないな」

敦己の可愛らしい発言にさらに場が和んでいく。

「上田くん、ワインを開けてもらえるかね?」

「はい。お任せください」

すぐに飲めるように温度設定ができるバッグに入れてきて正解だったな。
ソムリエナイフで開けるのももう目を瞑ってもできるほど慣れている。

手早く開けると、

「わぁ、誉さん。開けるのとっても上手ですね」

と敦己が褒めてくれる。
そういえば敦己と家で呑むことがないから、ボトルを開けるところを見せてはいなかったか。
思いがけず敦己にいいところが見せられて嬉しくなる。

「さぁ、会長。どうぞ」

ワイングラスに注ぐと、会長が目を細める。
やはりいいものだとすぐにわかるな。

「せっかくだから、敦己も呑まないか?」

「じゃあ、少しだけ」

敦己が弱いというから、今まで一緒にいる時でさえ呑ませたことはなかったが、今日は泊まって行ってもいいと言われているし眠ってしまっても大丈夫だろう。

何か大切な時にでも開けようと思っていた、俺が持っていた中でも5本の指に入る希少ワイン。
それをここで三人で呑めることは幸せだな。

香りを楽しみ口に含むと、葡萄本来の深い味わいと心地よいタンニンの重みが感じられ驚くほど飲みやすい。

「ああ、これはまた格別だな。こんな素晴らしいワインを家で呑めるとは思ってなかったよ」

「喜んでいただき光栄です。敦己はどうだ?」

敦己に視線を送ると、もうすでにグラスが空っぽになっている。

「これ、すっごく飲みやすくて美味しいですね! これなら、僕いくらでも呑めそうです。おかわりくださーい」

「わかった、わかった。だが、おつまみも食べながら呑むんだぞ」

「はーい」

いつもより笑顔が多いのはきっと久しぶりに実家のような場所に帰ってきて、リラックスしているんだろうな。

会話を楽しみながら、篠山さんが作ってくれたつまみを肴にワインを呑んでいると、

「ふふっ。ほまれさぁーん」

と突然敦己が俺の膝に向かい合わせに座ってきた

「どうしたんだ?」

「おじいさまとばっかり、はなさないでぇ」

「敦己? もしかして酔ってるのか?」

「よってましぇんよ」

いやいや、その口調がもう酔ってる。
とは言っても、最初に注いだ分も、おかわりしてあげた分もそんなに大した量ではなかったはずなんだが……。

「ほまれさぁーん、ちゅー」

「ちょ――っ、敦己。落ち着け」

敦己から迫ってきてくれるのはものすごく嬉しいが、さすがに会長の前ではまずい。
なんせ、実の孫より溺愛しているのだからな。

必死に敦己を落ち着かせようとしていると、

「ふぇ……っ、ほまれさんが、おこったぁ……っ」

と大きな目から大粒の涙を流し始めた。

「ちが――っ、怒ってないから」

「ほんと?」

「ああ、本当だとも」

「じゃあ、ちゅーして」

「それは……」

「ふぇ……っ、やっぱり、おこってるぅ……ぼくのこと、きらいになったんだぁ……」

「そんなことあるはずないだろう!」

いつも以上に拗ねて甘えて駄々こねて……。
そのどれもが愛おしいけれど、なんでここが自宅じゃないんだろう。

チラリと会長に視線を向ければ、

「ちょっと他に食べ物を頼んでくるとしよう」

居た堪れなくなったのか、さっと立ち上がって部屋を出ていく。

申し訳ないと思いながらも、ありがたい。

扉がパタンと閉まったのを確認して、

「敦己……愛してるよ」

と唇にキスをすると、敦己の方から舌が滑り込んでくる。
いつもより熱い舌が絡んできて、なんとも情熱的だ。

いつしか俺の方が敦己とのキスに夢中になってしまっている。
たっぷりと口内を堪能して、甘い唾液を味わってからゆっくりと唇を離すと敦己が極上の笑顔を見せてくれる。

「ふふっ。ほまれさん……だいすきっ」

「ああ、俺も敦己が大好きだよ」

「ふふっ。うれしぃ」

そういうと、俺の胸元に倒れ込んできてあっという間に眠ってしまった。

それからしばらくして、ゆっくりと扉が開く気配がしたので、

「会長、もう敦己は寝てますから大丈夫ですよ」

と声をかけると安心したように大きな安堵のため息をつきながら入ってきた。

「酔っ払うと敦己があんなふうになるとはな」

「ええ、私も知りませんでした」

「外では呑ませんほうがいいぞ。あれは可愛すぎる」

「はい。家だけで呑ませることにします」

「ふっ。家だけ、か。敦己に迫られるのが気に入ったか?」

「ふふっ。内緒です」

俺の返しに会長は楽しそうに笑って、

「二人で呑み直すか」

と新しいワインを出してくれた。

「はい。お供します」

そこからは可愛い敦己の話で盛り上がり、お互いに一歩も引かず楽しい時間が過ぎていった。
どうやら会長とはこれからも仲良くやれそうだ。

敦己のおかげだな。

俺の胸で幸せそうに眠る敦己を抱きしめたまま、会長との宴は続いた。
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