婚約者に裏切られたのに幸せすぎて怖いんですけど……

波木真帆

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番外編

ラスボスとの対面  <中編>

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すみません。前後編でサクッと終わらせるつもりが……。
後編は楽しい感じで進みますのでどうぞお楽しみに♡

  *   *   *


「君も座りたまえ」

「はい。ありがとうございます。ああ、そういえばワインがお好きだと敦己くんから伺いましたので、会長にぜひお召し上がりいただきたくてお持ちしました。どうぞ」

「ああ、ありがとう。えっ……! こ、これは……」

ボトル用の紙袋から保冷バッグに入れたワインを取り出して、会長の前に置くと、会長は目を輝かせてワインを見つめた。

それもそのはず、このワインはもう今では市場に出回ることのない希少ワイン。
値段をつけられないほどの代物だが、あえて値段をつけるとするならば1億より下がることはないだろう。

「上田くん、こんなに素晴らしいワインを……いいのかね?」

「はい。会長といただけるのならこれほど幸せなことはありませんよ」

「そうか……いやぁ、ありがとう。すぐにつまみを用意させよう」

「お祖父さま、僕が篠山しのやまさんにお願いしてきます」

「ああ、頼むよ」

「誉さん、ちょっと待っていてくださいね」

そういうと敦己はパタパタとキッチンの方へ向かった。

「シェフの方ですか?」

「いや、家政婦だよ。掃除も行き届いているし、料理もなかなかに美味しい。普段は一人だからな、今の時間は頼んでいないのだが、今日は君たちが来るからこの時間も頼んだんだ」

「そうでしたか。料理なら、私もお手伝いできますのでいつでもお呼びください。敦己くんと一緒に来させていただきますよ」

そういうと、会長は思い出したように不敵な笑みを浮かべた。

「そういえば敦己が君の料理を褒めていたな。料理で敦己を手懐けたか? 案外小賢しい手を使ったものだな」

「いえ、アメリカの食事に飽きていたようでしたので、和食を作ったら喜んでくれただけですよ」

「ふぅん。正直、君ほどの男なら敦己でなくとも相手は山ほどいただろう? なぜ、わざわざ男の敦己を選んだんだ? まさか我が家の財産や敦己の金を狙っているのか?」

会長がわざと俺を怒らせようとしているのは明らかだ。
だが、こんなトラップに引っ掛かりはしない。

「ふふっ」

「何がおかしい?」

「いえ。私がお金などに困っていないことは会長もお分かりでしょう?」

チラリとワインに視線を向けながら告げると、会長はハッと息を呑んだ。

「私は弁護士ですが、それ以外にも不動産収入や株での収入もありますから、年収は軽く億は超えていますよ。ですから、敦己くんの財産目当てに近づいたわけではありません。私は純粋に敦己くんを愛しているから一緒にいると決めたんです」

「そうか……」

「会長は早くに祖父母を亡くした敦己くんを実の孫同様に可愛がってこられたと伺っています。変な女に騙されて辛い思いをした敦己くんのことを自分のことのように心を痛めたことでしょう。ですから、次に連れてきた私のことを警戒なさる気持ちはよくわかっているつもりです。ですが、ご安心ください。敦己くんは必ず幸せにします。決して彼を裏切ることはしないと約束しますよ」

「上田くん……君は、本当に敦己を思ってくれているのだな……」

「はい。敦己くんは私にとって初めて心から好きになった相手ですから。一生大切にしますよ。私にお任せください」

そういうと、ようやく会長の表情に笑顔が見えた。

「敦己の母親は自由奔放でな。弟もかなり手を焼いていたが、大学生の時に突然画家の男と結婚したいと言い出して……弟はかなり反対していたが、その時には敦己がもうお腹にいたから仕方なく結婚は許したと言っていた。その時は全く売れない画家だったが、敦己の母親の献身的な支えでみるみるうちに有名画家になっていたんだ」

「へぇ、じゃあ敦己くんのお母さまはみる目があったということなんでしょうね」

「ああ、そうかもしれんな。敦己を産んでも、優先順位は必ず旦那。まぁ、それでも敦己への愛情は両親ともにあったんだろう。敦己は両親への不満どころか、綺麗な絵を描く父親を尊敬していたようだったからな。敦己が中学生になった頃からだったか。海外を拠点に活動を始めて、その頃から一年の半分くらいは我が家で敦己を預かったいたものだよ。敦己が高校を卒業すると同時に完全に海外に拠点を移して、敦己とは年に一度会うかどうかになっていたが、先日敦己が結婚した女性がいると話をした時は流石に戻ってきていたな」

「その話は私も聞きました。敦己くんを心配して帰ってこられたんでしょう?」

「ああ。そうだ。敦己には言っていないが、敦己の情報は随時両親に伝えているんだ。それも母親の指示でな。あの女の場合はすぐに調査を入れたが、上田くん……君の場合は、敦己の母親が手放しで誉めていたから、最初から私も認めていたんだよ」

「えっ、じゃあ今日は……」

「ははっ。ちょっと試してみただけだ。君がどれだけ敦己のことを思ってくれているか言葉で聞きたかったんだよ。あんなにしっかりと言ってくれたらいうことはない。敦己を頼むよ」

「はい。お任せ下さい」

俺は会長に認められたことが嬉しくて、満面の笑みでそう返していた。
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