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美しい夕日

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それから途中のレストランで欧介さんのおすすめの料理を楽しみながらドライブを楽しんで、夕方前に到着したのは木々に囲まれた大きなコテージ。
空気が澄み切ってすごく気持ちがいい。

「わぁっ、すごく綺麗なところですね」

「今日はここに泊まりだから、ゆっくり過ごそう」

「お泊まりですか?」

「ああ、ここは星が綺麗なんだ。せっかくここまで来たら渚くんに見せてあげたくてね」

車を降りるとすぐにコテージから人が駆け寄ってくる。

「桐島さま。天都さま。長旅お疲れさまでございました」

「あ、ありがとうございます。あの、欧介さん……この方達は?」

「ここの管理を任せている人たちだよ。荷物を頼む」

「承知いたしました」

そう言って頭を下げ、荷物を運んでくれる後ろから僕たちも中へと入った。

「わぁっ、素敵っ!!!」

高い吹き抜けのある広々としたリビングにはゆったりと座れそうな大きなソファーが鎮座し、窓からは綺麗な景色が一望できる。

大きなキッチンでは、もうすでに何かを準備してくれているのかいい匂いが漂っている。

「部屋を案内するからおいで」

腰に手を回され、ピッタリと寄り添いながらおしゃれな階段を登ると、広々としたベッドルームと、半露天風呂のような広いバスルームがあった。

「ここから見える星空が最高なんだよ」

確かに何も遮るものもないし、星が綺麗に見えそうだ。
こんな開放的なところでお風呂に入ったことがないから楽しみでたまらない。

「夜が待ち遠しいなぁ……」

「ふふっ。食事まで少し外を散歩しに行こうか。綺麗な湖もあるんだよ」

「わぁ、行きたいです!」

コテージを出て、少し歩くと綺麗な湖が見えてきた。
水面に太陽の光が反射してキラキラと輝いている。

「滑ると危ないから手を繋ごう」

大きな手にギュッと握られてドキドキするのにすごく安心する。
ああ、この手にずっと握られていたいな。

湖を少し歩くと、綺麗な東屋が見えてきた。

「ここが絶景ポイントなんだ」

案内されてそこに座ると、綺麗な夕日が目の前に見えた。

「――っ!!」

言葉にならない美しさってこういうのをいうんだろうな……。
こんな素敵な景色を一緒に見られるのが、欧介さんですごく嬉しい。

「渚くん……昨日、渚くんが気になっている話をするって言っていたよね?」

「あ、そうだ! はい。欧介さん……教えてください」

そういうと、欧介さんは真剣な表情で僕を見つめた。
吸い込まれそうなほどじっと見つめられて、欧介さんはゆっくりと口を開いた。

「一般的に……結婚を申し込むとき、女性には指輪を……そして、男性にはスーツを贈るものなんだ」

「えっ? スーツ?」

「ああ。だから、私がスーツを渚くんに贈りたいって言ったとき、暗に結婚を匂わせたんだ。揃いでスーツを着るのは婚約の証。それを着てパーティーに参加したら渚くんが私の婚約者だとみんなに紹介できると思ったんだ」

「そう、だったんですね……でも、どうして僕に?」

「あの時、あの店の前で渚くんに出会ったときに一目惚れしたんだ」

「ひと、めぼれ……」

「ああ。一目惚れと言ったら軽く聞こえるかもしれないけど、でも本当に渚くんを一目見て、ああこの子が私の運命だって直感したんだ。絶対に私の伴侶にしたいって思った。ただ、いくら一目惚れしたとはいえ、流石にこんなにすぐに受け入れてもらえないかもしれないと思ったんだよ。それでも……渚くんに断られてもいいから私の気持ちを伝えたいと思ったんだ。だから……あの時、渚くんがスーツを受け取ってくれると言ってくれて本当に嬉しかった」

まさか、スーツを贈られることにそんな意味があるなんて……僕は何も知らなかった。

でも、考えてみたらあの時欧介さんはずっとお揃いのスーツってことをすごく強調してたな。
それがまさか婚約したという証だったなんて……。
だから、僕がお揃いのスーツを着てパーティーに出るって言った時、あんなに喜んでくれたんだ……。

お父さまが欧介さんとのことを喜んでくれたのも、お兄さまが少し寂しそうにしていたのも、何もかも僕が欧介さんと結婚するって思ったからだったんだ。

ようやく全ての点が繋がった気がした。

「渚くんとまだ少しだけど一緒の時間を過ごして、やっぱり私の直感は間違っていなかったと思った。順番が逆になってしまったが……私の気持ちを聞いて欲しい」

手をギュッと握られながら、欧介さんに見つめられる。
ふぅと深呼吸する欧介さんの手に汗をかいているのを感じる。

こんなにすごい人なのに……僕みたいな子どもに緊張してるんだ……。

欧介さんの視線にドキドキしながらじっと見つめると、欧介さんはごくりと息を呑んだ。

「渚くん……私は君を愛している。だから、私のつまになってほしい」

こんなふうにまっすぐと見つめられて断るなんてあるわけない。

だって……僕だって、欧介さんに一目惚れしてたんだから……。

「渚くん……」

僕が何も言わずに見つめていたからか、欧介さんが不安そうな目で僕を見つめる。

ふふっ。なんだかすごく可愛いな。

僕はにっこりと微笑みながら、

「僕を……欧介さんのつまにしてください」

というと、一瞬の静寂の後で

「幸せにするよ、必ず!!」

と言いながらギュッと抱きしめてくれた。

欧介さんの大きな胸に抱かれ、僕は途轍もない幸せを味わっていた。
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